第54話 ラグナスへの旅路 その4
夕食時、仲間達にファルクスを紹介した。
「おっほ、小鳥ちゃん! かわいい」
アリサが鼻息を荒くして、ロッキーにおいでおいでしている。
小鳥のロッキーは大変警戒している。
そうだよな、この司祭怪しいもんな。
「なんて残念なやつなんだ……」
カイルが呆れて呟くと、アリサがギッとカイルを睨んだ。
「うるせーですわよ脳筋槍男」
「な、ななな、なんだよその呼び名!? やめろよ!」
『小鳥にゃ? 食べていいのにゃ?』
『ピョ、ピョイー』
おお、ドレが目を光らせたので、ロッキーが怯えている。
「だめ。ロッキーは食べちゃだめだよドレ」
「はっはっは、わたくしめも困りますなあ。ロッキーにはわたくしめの呪歌を色々教え込んでいます故。ということで、アリサ殿がおられぬ間だけですが、わたくしめが皆様の仲間となることになりました」
「ううっ……本当ならわたくし、大教会なんか放っておいてモフライダーズと一緒に行動したいのですわ……! 出世なんかするもんじゃなかったのですわーっ!!」
嘆くアリサ。
復讐の好機とばかりに、ぷぷーっと笑うカイル。
おっ、アリサがカイルの脇腹にボディブローした。
カイルがアリサのほっぺたを掴んでつねる。
争っている。
「あの二人はなかよしさんですねえ」
クルミはニコニコしながら、魚料理を食べていた。
「センセエとクルミみたいです」
「ちょっと違うと思うなあ」
それはそうと、クルミが笑顔になるくらいには、スカイキラーの焼き物は美味しい。
肉がしっかり締まっていて、噛むほどに旨味が溢れ出す。
これ、スープを作っても美味しくなりそうだな。
いい出汁が取れそうだ。
食事をする俺達のもとには、水夫や乗客が次々やって来ていた。
スカイキラーの話を求めてくる。
今日の昼間起こったばかりの、新鮮なモンスター退治の話だもんな。
「ふーむ、即興ですが浮かびましたぞ! わたくしめにお任せをば!」
ファルクスが立ち上がった。
彼の楽器はリュート。
洋梨を半分に切ったような外見の本体からネックが突き出した、弦楽器だ。
ぽろんぽろんと奏でながら、ファルクスが歌い出した。
俺がスカイキラーを、知恵と工夫で退治するコミカルな戯曲だ。
『おお、その名はオース
アドポリス救いし勇者
我が船に降り立ち
襲い来るスカイキラー
はらり垂らしたただの布
夢か魔法かひるがえり
空飛ぶ悪魔を撃ち落とす
力にあらず
魔法にあらず
知恵こそが力
それがオース
オースオース』
うーむ!
何と言うか、こそばゆい。
照れくさくて背中がむずむずしてくる。
ついこの間まで、こういった他からの称賛とは無縁の人生だったからなあ。
いきなり評価されるようになって、戸惑うことこの上ない。
歌の途中、水夫が何人かやって来た。
「あの、オースさん」
「お願いがあるんですけど」
「なんだい?」
「さっきの、あの布を垂らしてスカイキラーを取る方法なんですけど、詳しく教えてくれないですか」
「なんか、スカイキラーの料理がすげえ好評なんで、金になるかもしれなくてですね」
「なるほど! いいとも」
案外、この辺りで、スカイキラーが食材として定着するかもしれないな。
俺は彼らに、布を使ったスカイキラー漁の方法を教えた。
風向きが一番大事だから注意してね。
「こいつはオース式漁法って名付けますよ!」
「やめてくれえ」
そんな気遣いはいらないぞ!
その後、とても食べ切れないほどのスカイキラーを、船の料理人達が一生懸命捌いていたらしい。
無数の切り身がやってきて、これをマストから干す作業に入った。
「木に登るですか? クルミ、とくいです! てつだうです!」
「お嬢ちゃんの木登り凄かったもんなあ!」
「ありがてえ!」
クルミの申し出に、水夫達が頬を緩める。
なんというか、娘を見るお父さんみたいな顔になってるな、みんな。
クルミはこう見えても、ゼロ族では成人している年齢なのだが……!
まあ、みんなスカイキラー戦の時のクルミの動きを見ていたからな。
地上と変わらないかのように、すごい速度で木に登り、驚くべき器用さで布をマストに巻き付けていったクルミ。
こと、高所の作業では彼女に勝る者はおるまい。
『わふ』
「えっ、ブランも手伝いに行くのかい」
『わふん』
「ははあ、ブランも高いところに登ってみたいのか」
むふーっと鼻息を荒くするブラン。
マーナガルムも可愛いところがあるなあ。
すぐ近くで、ブランをさわさわしていたオーガ船長。
ブランがマストに登りたいと聞いて、一瞬考えた。
「マスト折らない?」
ブラン大きいもんなあ。
『わふ』
「重心のコントロールには自信があるから絶対折らないって言ってますね」
「そうかあー。ブランちゃんがそう言うならそうなんだろうなあ。いいよいいよ」
目を細めてうんうんうなずく船長なのだった。
モフモフに対しては完全に甘やかしモードに入ってしまうのだなあ。
結局その後、完全に日が沈んでしまうまでの間、クルミとブランはマストの上で、わいわいと作業をしたのだった。
あれだけ大きなブランが登っても、マストはミシミシ言わないんだなあ。
頑丈だ。
『あの犬が重量バランスというか重力をコントロールしてるにゃ。見てると分かるにゃ。端に寄っても不自然なくらい足場がしならないにゃ』
ドレが解説してくれた。
なるほどなるほど。
器用にマストを登るブランに、水夫も乗客達も大盛りあがりだ。
まさか誰も、ブランが凄まじく高度な技を使ってマストにダメージを与えないようにしているとは思うまい。
「でも、ブラン楽しそうだなあ」
『割とみんな高いところは好きにゃ。己も高いところは嫌いじゃないにゃ』
「ドレも行くかい?」
『己は日が暮れたら働かないことにしてるにゃ』
「ドレちゃーん! もうすぐお別れのわたくしに、モフモフさせてくださいなー!」
『うーわー』
ドレがアリサに抱きかかえられた。
これからモフモフされまくるのであろう。
船旅は平和。
このまま進めば、明日にはラグナスに向かう運河が見えてくるという。
楽しみだ。
ちなみにアリサ、大教会ではすぐ上は枢機卿くらいしかいないランクの司祭ですぞ。
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