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第25話 カトブレパス対処法 その5

 動きの鈍ったカトブレパスの側面に回り込む。

 俺はスリングを腕に巻き付けつつ、斧を取り出した。


「筋力強化っと」


 簡易な強化魔法(バフ)を使用。

 これで俺の力は三割増しくらいになる。


 冒険者の中では、標準程度の腕力しかない俺だ。

 だが、三割も増せばかなりのものになる。


「そいっ!」


 持っていた派手な布を、カトブレパスの目の前に投げつけた。


『ぶもおっ!?』


 モンスターが布を目で追う。

 ちょうどいい具合に、風が布を運んでくれた。

 目だけでは足りず、首まで使って布を追うカトブレパス。


 そして、首がむき出しになった。


「────ッ!!」


 俺は声を上げず、しかし満身の力を込めて斧を振り下ろした。

 カトブレパスの長い首に、斧が半分ほど食い込む。


『ぶもおおおお────ッ!!』


 カトブレパスがのたうった。

 俺は素早く斧を手放し、モンスターからも距離を取る。


 激痛のあまり、カトブレパスは狂乱状態だ。

 打ち込んだ斧の場所からは、どろどろとした血が流れ出している。


「カトブレパスの弱点は、あの長く伸びた首だ。あれを断ち切れば容易に倒すことができる。面倒な相手だけど、手順を踏めばそう恐ろしいことはない」


 暴れるカトブレパスを見ながら、俺は待った。

 ここで無理に攻める必要はない。

 相手はもう死に体なのだ。


「センセエ! スリングしなくていいですか!」


「その辺りの石を拾って投げつけてもいいけど、やけになったカトブレパスが突撃してくるかも知れない。ここは待とう!」


「はいです!」


 足を石化されているため、逃げ去ることもできず、カトブレパスが暴れる。

 その巨体が、沼へと近づいていった。


「あ、いけない」


 石化した足が沼地に落ちる。

 すると、カトブレパスの巨体を支えられず、沼の底へとずぶずぶ沈んでいくではないか。


「クルミ、トウガラシ弾を俺に投げてくれ!」


「いいですか!?」


「いいよ!」


 すると、狙いは正確。

 クルミのトウガラシ弾が届いた。

 飛来したこれを、俺は展開したスリングでキャッチする。


 弾を割らないくらいの強さで受け止めるのは、ちょっとしたコツがいるのだ。

 俺を中継すれば、弾はカトブレパスの目の位置を狙えるようになる。


「それっ」


 弾を即座に放った。


 カトブレパスの目玉に、トウガラシ弾が炸裂する。


『ぶもおおおおお!!』


 首を持ち上げて吠えるカトブレパス。

 その首から流れる血が増している。

 明らかに、動きが鈍くなってきた。


 俺は沼地に入りながら、突き刺さった斧に手をかけた。


「うりゃっ!!」


 斧を引っこ抜く。

 そして、再び全力で、さっきまで斧が刺さっていた場所を斬りつけるのだ。


 二度、三度。

 四度目で、カトブレパスの首が落ちた。


「このまま沼に沈めてしまったら、もったいないところだった……。カトブレパスは全身が呪いの特効薬なんだ」


 俺はいそいそと、首を回収した。


 胴体は大きすぎる。

 より効果が高い、心臓などの部分だけを持ち帰るのがいいだろうか。


 俺が考えながら戻ってくると、Bランクパーティの戦士は呆然としていた。


「そんな……。俺達が全滅したモンスターを、たった二人で……。しかも、剣も魔法も使わないで……」


「斧は使ったけどね。言ったろう。大事なのは知識と準備だ。強力なモンスターは、対処が面倒だから強力だと言われているのさ。高ランクの敵を狙うなら、徹底的にそいつについて調べておいたほうがいい」


「はい……!」


 戦士が俺を、キラキラした目で見つめる。

 尊敬の色を感じる……!

 俺はそういう目で見られることに慣れていないのだ。


「よ、よーし、君、手伝ってくれ! カトブレパスを解体するぞ。ある程度回収できれば、仲間達の蘇生費用になるかもしれない」


「仲間は助かるんですか!?」


 すっかりですます口調になっている戦士。


「死んでから日が浅ければね。だが、カトブレパスにしろ、死体にしろ、持ち帰るのが大変だ」


 幸い、カトブレパスは草食性。

 死体はその辺りに転がっていて、特に傷んだ様子もない。

 さて、どうやって持ち帰ったものか……。


『わふん』


 俺の肩を、大きな肉球がぽふぽふと叩いた。


「ああー……。そう言えば君がいたなあ。規格外のモンスターが一匹、身内に」


『わん』


 そう言うわけで、ブランが引けるソリのようなものを作り、これを引かせることにしたのだった。

 死体とカトブレパスが運べればそれでいい。

 アドポリスまで、ソリが持つかどうかだけが心配だな。


 俺は戦士を従えて、カトブレパスを解体した。

 血まみれになってしまう。

 本当に、沼沢地で良かった。


「オースさん、解体までできるんですね……!」


「センセエは何でもできるです!」


「ショーナウンのやつに、雑用は何でもやらされたからね。すっかり慣れてしまったよ」


 バフを掛け直せば、解体に必要な膂力も補える。

 みるみるカトブレパスはバラバラになり、俺はその中から、心臓を選びだした。


 カトブレパスの心臓は、半分肉、半分結晶のようになっている。

 この結晶を少し削って、Bランクパーティの死体に振りかける。


 すると、彼らの土気色をした肌が、すこしだけ白くなった。


「なんですかそれ!?」


「死の呪いをちょっとだけ中和したんだ。呪いを使うモンスターは、その呪いを自らが受けないための器官を体内に持ってる。カトブレパスも一緒だね。蘇生の成功しやすさを上げるため、ちょっとしたおまじないみたいなもんさ。さあ、次はソリだ!」


 俺と戦士で、近くの樹を切り倒し、雑に縛り上げて繋げる。


「へえー! これがソリですか! クルミ、初めて見たです!」


「いや、ソリというか丸太を並べただけのものになったな」


 時間制限がある中で、ソリを作るのは無茶だったな。

 死体とカトブレパスが腐る前に運ばねばならないのだから、こんなもんだろう。

 これをロープで縛り、ブランにくくりつける。


 ソリには戦士も乗り込んだ。


「よし、行くぞブラン! 冒険の街アドポリスへ戻るんだ!」


『わおーん!!』


 ブランは高らかに雄叫びを上げると、疾走し始めたのだった。


素材を剥ぎ取り、死体を回収。

カトブレパスだってまるまる運搬。

ブランのパワーさまさまだ。


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[一言] またギルドは大騒ぎか…(笑)
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