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第163話 空から降り来たる その5

 恐らく、最後の壁だったのだろう。

 これをアルディとモフモフ軍団総攻撃で粉砕すると、そこは淡い輝きに包まれた空間になっていた。


 ソラフネ山で見たのと同じタイプの、ふわふわ浮かぶ光る球体が目の前にあった。


『ピガー!』


「もう何も喋らないんだけど」


「見苦しいですわねえ。ラグナの神様はもっとちゃんとしてますわ。これ、絶対同じ神様じゃありませんわよ」


『エラーを起こしてるにゃ。AIもみんな人格があるにゃねえ』


 猫モードになったドレが、光る球体を触手でぺしぺししている。

 どうやら、この船の頭脳はかなりプライドが高いようだった。

 それが俺達によってへし折られたので、完全に思考停止モードになっているとか。


「よーし、ぶった切っちまおうぜ」


 アルディが、虹色の剣をぶんぶん振り回している。


「ほんと、リーダーと一緒に旅をしてから、人智を超えた相手ばっかり出てきて最高だぜ。辺境伯なんかやってたら一生会えなかったからなあ……」


「そいつはどうも。アルディもそろそろ、一人旅ができそうなんじゃないかい?」


「ま、旅の要領は覚えたからな。なんだよリーダー、ここで落ち着いちまうつもりか? もったいないなあ」


 光る球体の前で、雑談に興じるくらいには余裕がある。

 だが、ふと、俺は嫌な予感を覚えた。


「待てよ。プライドが高いこいつが、そのプライドをへし折られたのなら、自暴自棄にならないか? 例えば……その反応炉、っていうヤバいのを爆発させようとするとか」


『ピガガガーッ! 当艦は任務継続不能。任務継続不能。しかし偉大なるヤオロ星系のために敵性生物を排除。当艦の犠牲をもって排除する! ヤオロ星系バンザイ! ヤオロ星系バンザイ!』


『こいつやけくそになったにゃ!! 反応炉を爆発させるつもりにゃ!』


「やっぱりかあ。彼が命令を下して、その危険なものを爆発させるんだろ? じゃあ、命令系統はどこに?」


『無線みたいなものにゃ。つまり、この星でいうなら魔力がにゃ、こう、こう、繋がっててそれを通じて……』


「よーし」


 アルディが、光る球体を囲むように、ぐるりと周囲を切り裂いた。

 一見して何もないはずなのだが。


「手応えがあるぜ」


『ピガー! 通信途絶!』


「アルディの剣、魔力も断つのか。さて、これで一旦、爆発の恐れは去ったかな?」


 だが、光る球体がどんな事をできるのか、俺は知らない。

 断ったはずの魔力の経路を、再びつなぎ直して反応炉を爆発させるかも知れないのだ。

 だったら、どうする?


「オースさん! 浮いてるんだから、持ってっちゃえばいいですよ!」


「なーるほど! ナイスアイディア、クルミ!」


『ピガガガー!?』


 光る球を、ブランが後ろからペイっと叩く。

 すると、何か目に見えないものがブチブチっと千切れる音がして、球がころりと地面に落ちた。


『ピガー!』


 これを、ブランがぺちぺち叩きながら外に転がしていく。


『ばかな……! ばかな……! 通信経路は常に変化し続けているはず。それを一瞬で正確に全て同時に断ち切られた……! こんな確率は天文単位の極小でしかなく、それが一度に揃うなんて……』


『ちゅちゅーい!』


 ローズが光る球の上で踊っている。

 ローズ、君だったのかあ。


 どうやら最後の一手、ローズがこの光る球にとって唯一最悪となるタイミングを、その因果律を操る力で引き寄せたらしい。


 ずっと一緒に旅をしてきたが、うちのモフモフ達はやっぱり凄いな!


 こうして、空から降りてきた船を午前中のうちに完封した俺達。

 その後、金色の球体を外に放り出し、外側からフランメが船を押すことで移動させることにした。


『重さが無いみたいだな。我がちょっと押すだけで動くぞ』


『反重力状態にゃ。質量はあるけど、己達のレベルなら押して動かせるにゃあ』


 そういうことで、船を押して遠くまで持っていくことにする。

 小高い丘の上に差し掛かった辺りで、ここに放置しようという話になった。


『反応炉の動力は、浮いてるだけならまあほぼ永久に消えないにゃ。適当に名物として飾っておくといいにゃ』


「これは確かに、見栄えがするなあ」


 銀色の、大きな楕円形の物が、ぷかぷかと浮かんでいるのだ。

 そのうち誰かが、船の半ばにある入り口にたどり着き、内部に入り込んだりするかも知れない。

 だが、核となる光る球体は外に放り出してしまったから、もうこの船が浮かぶ以外のことをできる日は来ない。


「やれやれ……。実家に帰ってきて早々、重労働をしてしまった……! これがひとまず、俺の最後の仕事になるのかな?」


 船は悠然と浮かび、先程まで俺達が繰り広げた激闘など、なかったような顔をしている。

 遠くから見てもとても目立つので、近隣の家の人々が、野次馬にやってきた。

 指差して、わあわあ言っている。


「これも、オースさんがやっつけた! っていう話が広まりそうです!」


「それは困るなあ……。厄介事を押し付けられるようになりそうだよ」


 しばらく落ち着いて暮らすには、下手な名声は邪魔になるなあ。

 ここはさっさと立ち去るとしよう。


 かくして、エルフェンバイン地方に、新たなる観光名所が誕生したのだった。



次回、最終話!


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