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第120話 流れ着くのは炎の島 その2

 山が炎を吹き上げるこれは、本で読んだことがある。

 火山島というやつだろう。

 現実には初めて見るが。


 バルゴン号は島へゆっくりと近づいていった。

 不思議なことに、島に近づくにつれて嵐は収まっていく。

 まるで島を取り囲むように、何者かが嵐の結界を張ったかのようだ。


「炎の巨人が消えている。気のせいだったのかな」


 火山は、噴煙を上げるだけになっていた。


 島の沿岸に人が集まり、わあわあと騒いでいる。

 島民だろう。

 いきなり大きな船がやって来たから驚いているのだ。


「船がつけるような港は……あるはずもないか」


 アルディが周囲を見回した。


「小舟を降ろす。上陸するぞ」


 そこまで言ったあとで、何かに気付いた顔をして俺を見た。


「それでいいよな、リーダー」


「もちろん。これ、君の私物の船なんだからこの上では君がリーダーだろ」


「パーティのリーダーと船のリーダーが同時にいるのはまずいだろう。よし、俺は船長だ。船長が指示を出す! 小舟を降ろせ!」


 うおー、と船員が応えた。

 俺、アルディ、クルミ、ドレ、ローズが乗った船と、ブランとアリサが乗った船が降ろされる。

 ブランは大きいからなあ。


 ブランの方の船を漕いでいる船員は、モフモフのブランにくっつかれて何かニコニコしている。

 モフモフ好きらしい。


『ご主人、絶対に己を落としてはいけないにゃ。己は水に溶けたら死ぬにゃ』


「えっ、そう言う習性がある生き物なのかい、ドレ」


『ものの例えにゃ。死にも溶けもしないけど溶けて死ぬにゃ』


「ドレのいうことはむずかしいですねえ」


 クルミも難しい顔をした。

 まあ、つまりドレは水に浸かるのが死ぬほど嫌いってことだよ。


 小舟はすいすいと水の上を進み、あっという間に岸辺に到着した。


「こんにちは」


 俺が挨拶すると、彼らも挨拶を返してくる。

 うん、言葉が通じない。


「こりゃ困ったな」


 アルディが呻いた。


「こまったです? ことばがわからないのはいつものことですー」


 ゼロ族語と共通語しかしゃべれないクルミの気持ちが今よくわかった。

 今までの国々は、共通語で会話ができたものなあ。


 ええと、彼らの言葉は……。

 イントネーションは、ラグナスで戦ったザクサーン教徒のものに近い。

 多分、古い時代のアルマース帝国の言葉だろう。


 この火山島、推定アータル島は、アルマース帝国の一部だったという記録があるらしい。

 山を崇める民達が、島に乗り移り、長い時を外界と隔てられながら生きてきた。

 そして、独自の言語を作ったのだと思う。


 この推測を話すと、アルディもクルミもアリサも大変感心した。


「ああ、確かにそうだろうなあ! さすが、リーダーは賢いな」


 元辺境伯に褒められるとムズムズするな。


「さすがはクルミのだんなさまですねえ!」


 そう言って抱きついてくるのはやめなさい、人前では特に。


「言葉が通じないというのはあるあるですわね! わたくしが神都で読んでいた旅行記にもそういう記述がありましたわ! ところで、ラグナの神聖魔法には言葉を翻訳するものがありまして」


「便利だなあ」


『便利さこそ身上の魔法だからにゃ、それ』


 俺よりもラグナ新教の神聖魔法に詳しそうなドレなのだ。


「コール、コマンド。トランスレーション」


 アリサが天を仰いで妙な言葉をつぶやいた。

 すると、空からふわふわっと光が降りてくる。


 島民が、おおーっとどよめいた。


「巫女様みたいだ」


「巫女様はもっと派手に炎とか出すだろ」


 おお、言葉が通じる。


「こんにちは。俺の言葉が分かりますか」


「あんれ! 言葉が通じる! さっきの魔法の効果だべか」


「島の外からようこそ! 十年ぶりのお客様だあ」


 島民達が盛り上がった。

 十年ぶりか。

 ちょこちょこ、島を訪れる者はいるのかもしれないな。


 見た感じ、アータル島はそれなりに大きい。

 山を中心として、森があり、平野があり、川があり……。


 どうや畑作も営まれているようだ。

 自給自足はしっかりやれているということだな。


「こんな大変な時期に外の世界からやって来るなんて……。きっと、アータル様が怒りを鎮めるための使いを呼んだんだべなあ」


 島民の言葉が気になる。


「大変な時?」


 俺が聞き返すと、突然、島民達の人波が2つに分かれた。

 中央から、一人の女性が歩み出てくる。


「詳しくはあたしが教えてあげるわ。ようこそ、お客人。あたしは炎の巫女エレーナ」


 彼女は、不思議な姿をしていた。

 褐色の肌に、露出度の高い衣装。布地は炎を象った独特の紋様が織り込まれている。

 何よりも目を引くのは、その髪と瞳の色だった。


 炎の色である。

 しかも、実際の炎と同じように、揺らめき、燃え上がるように光沢が変化し続けている。


「精霊王の巫女……! まだ存在していましたのね……。かつて魔王に与して、そして魔王の血と交わったと言い伝えられていますわ」


 アリサが呆然として呟いた。

 新しい情報の洪水だ。


「うん。まずは彼女の話を聞こう。エレーナ、俺は外の世界から来た冒険者、モフライダーズのオース。よろしく」


「よろしくね、魔獣を束ねる者よ」


 妙な呼び方をされたな。


「そしてようこそ、我らが王の血筋に連なる者よ」


 今度はアルディにも声が掛けられた。

 あ、やっぱり?


 分かってない顔でエレーナに挨拶を返すアルディ。

 彼はやはり、魔王の血を引いているようだな。


 そしてアリサが精霊王の巫女というものに反応したのは、彼女の祖先みたいなものが、魔王とともにラグナ教に敵対していたのかもしれない。

 状況から導き出されるのは、こんな感じの解答だろうか。


 あちこちから情報を聞き出して、この推論をきちんとまとめておくとしよう。


「さてエレーナ、説明してもらえるかな? 今がどういう状況なのか、とか」


「いいわよ。お茶を用意させるから、集会場まで来て。アータル様が島を砕こうとしているこんな時だって、それくらいの余裕はあるわ」


 さらっととんでもない事を言う巫女なのだった。



炎の巫女が登場。

何やら物騒なワードも飛び出してきております。


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