第四十二話 ただ一人の
*
あれから二週間経った。
自分でも何で生き残っているのか分からない程の経験だよ。
僕は思ったより強運なのかもしれない・・・・、なんてね。足手まといだ。
空真とクラリッサさんは簡単な再生治療だけで日常への後遺症は無いらしい。ワンズさんに至っては数時間で肉体の完全修復をしたとかなんとか。
ははは、なんかみんな遠い存在だなぁ。
ダメだな。そうやって『届かない存在』みたいにして問題を遠ざけて、目の届かないところに持っていこうとして。施設自体の嫌な癖だ。
でも、そんな僕を変えてくれたのは空真だ。
あの無限に続く地獄を、生き地獄を混乱と共に終わらせてくれた。
空真は「たまたまだ。」とか言うんだろうけど僕は知っている。空真は誰よりも素直で優しい。
施設の混乱、証拠を消すために業火を巻き散らす空間。
目的が終わったのなら逃げればよかったはずなのに。自分だって危なかったのに。
それでも、空真は僕を見つけた。死人の世界へと変貌する世界で僕を見つけた。
空真はアレから何か思い詰めている。返答も歯切れ悪いし分かりやすいんだよ。
クールな風に装って、本当は結構抜けてて、超が付くほど真っすぐで。
でも。だからこそ。空真の行く先を支えたい。
僕にできるのはそこまでだ。
そこまで、それだけ、その限りだとしても僕にできる最大限を空真に。
それが僕にできる恩返しだ。
「・・・よし!あの空真にいっちょ『喝』ってのを入れてやるかな!」
*
俺は間違っているのか?
何故アイツの言葉が引っかかるんだ。殺人をも手段にする連中だぞ?戦争にも加担する連中だぞ?
確かに感情で動いている。だけど、だけどだ。アイツらは・・・・・。
ああ、そうか。
はは、分かった。
両親を殺した相手のはずなのに、それでも煮え切らないの。
それは俺だけ『手段が終着点』なんだな・・・。
憎い相手のその憎むべき行為は『その先』へ行くための手段であってそこが目標では無い。
アイツらでさえ進んでいるのに俺だけ『先』を見ていない。そんな見ない振りしていた事を言葉として出され、気付いてしまって。それで、か。
いや、アイツらの言葉に信憑性なんて・・・。
そこは問題じゃないよな俺。
俺は今、俺を信じられないわけで言葉の確証性は本質じゃない。
否定したって気付いた事実に何の変化も及ぼさない。
もう分からねぇや。
足元しか見ず歩いててふと前を向いたら真っ暗だった、そんな気分だ。
・・・・はぁ、足音か。
「今頭まわんねぇんだよな・・・。」
*
「おい!空真!」
少年は硝子越しに空真を呼びつける。
用意された簡素な部屋。いやこれは『檻』である。
この部屋は大きく分けて二つのエリアに分かれている。面会スペースと寝室、それ以上の余剰は無い極めて簡素な空間。
面会スペースには対能力者用の希少なガラス。寝室には簡素なトイレとベッド。それだけ。そしてのスペース同士の間に遮蔽物等ありはしない。当然プライベート等もない。
何故ならこれは『檻』だからである。
「レイ、今は勘弁してくれないか。気分じゃない。」
ベッドから知りうる限り最低のテンションで返事が返る。
「うるさい!いつまで拗ねてるつもりだ!」
「・・・・。」
「無視するのか?いいよぉ!好都合な事に君は此処から出れないからね!いくらでも付き合ってやるさ!」
レイは腕を組み怒りを露にする。空真の態度は変わらない。寝ころび、虚空に自問する。
「僕は怒ってるよ。なんでか分かるかい?分からないだろう!空真は今、自分の事で精一杯だもんね!」
「・・・。」
「そうやって一生自分の中でぐるぐるぐるぐるしてさ!!それが何かに成るのかい!?」
「・・・うるせぇ。」
ポツリと言葉が転び出る。
「どうせ自分が自分が自分がと堂々巡りしてるんだろ!?自分の小ささに嫌気でも差して拗ねても何も!!!変わらないよ!!」
「うるせェッ!!!!!」
硝子の前まで空真が飛び起きる。
その慷慨を顕わにした顔。しかし、レイはその顔を見ても微塵も視線を外さない。
真っ直ぐ、対等な目線で心をぶつける。
「言いたい事があるなら言ってみろ!!」
「俺は!!俺は自分が分からないんだよッ!!!皆、『先』を見てる!!でも!!!でも・・・!!!俺は憎んで、憎んだ『先』が無いんだ!!!それに気付いたら・・・気付いたら・・・・!!」
俯く顔から雫が落ち行く。
だがそれに哀れみも慰めもレイは抱かない。
「なら進めよ!!」
「分かんねぇよ・・。俺はどこに行きたいのか・・・!!」
「それでも進めよっ!!!探しながら進めよッ!!!!!」
声を張り上げ喉が掠れそうになる。それでもレイは言葉を続ける。
「空真は『先』が無かった僕に『先』をくれた!!その空真が諦めるなんて許さない!!!」
「・・・・!?」
「君のおかげで『外の世界』ってのを知れた!!明日に怯えなくていいって事を知れた!!時が進むことは怖くないって知れた!!!!その空真がなんだい!?自分の!!心の中の!!!!壁ぐらいで!!!!立ち止まってるんじゃ!!!!ないよッッッ!!!!!!」
硝子越しにも声の振動を感じたように思えた。
そんなはずはない。このガラスは、この部屋はそれほど単純な構造ではない。
空真が感じたものは身体の内から震える感覚。
脳が心臓が、レイの言葉で熱を帯び震え空真の全身を叩き起こす。
ブルブルと僅かに震える空真。お互いの心がぶつかり壁は溶けていく。
「分かんないならさ。また二人で世界回って探そうよ、『その先』をさ。」
「・・・・・。」
返事は無かった。頷いたかのような首の動きがあったかもしれないが定かでは無い。
だけれども、レイは微笑む。自分知っている空真を信じているから。
「次会う時はまた旅するよ、空真。」
そう言い部屋を後にしようと背を向ける。
その時、空真の口から一言だけ言葉が出る。
「一つ、貸しだ。」




