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第四十一話 As a Man Thinketh


一閃。そう見えたのならば剣技への見立てが間違っている。

この僅かな間に行ったワンズの居合は、()()()

音速さえ越え、全てを置き去りにする彼女の剣技を見切る事はもはや不可能であった。


「────────一振り、見逃しましたか・・・!!」


タダクニが言葉と鮮血を吐く。身体の各所へ目掛けた十八振りの居合、そのうち一つが肩を下ろす。

すぐさま『肉体情報の否定』を試みる。


「能力の()()は、もうわかっていますよ、タダクニ?」


左脚が知覚できぬ速度で吹き飛ぶ。


「本当に出鱈目な────!?」


左手首の感覚の無さに気付いたときには手遅れに近い状況であった。


「あなたの能力をずっと『世界線の否定』だと思ってたわ。でもそれならおかしくないかしら?何故あの時、私の『世界改変(ワールドオーダー)』を真っ向から受けなかったの?」


肉体を元に戻すや否や、立ちどころに削ぎ落とされていく。


「そう、正確には『否定』じゃないのよね。『変化を否定』している訳でその本質は『情報の固定』に近い。だから固定し切れない程のエネルギーを持つ事象には処理限界(オーバーヒート)を迎えてしまう。」


ゆっくりと物静かなワンズの口調。

相反するように繰り出される亜光速の斬撃。


「そこまで分かっていて何故私を殺さない!!不出来な弟子、それもテロリストにすらにぬるま湯のような情けを掛けるのか!!!貴方は!!!貴方はッ!!!!!」


「なんと思われようとも私はこれで人を殺める事はないよ。ただ問わせておくれ?貴方たち『掃除屋』の目的は何なのかしら?」


()()()()()()()()()()()()()()!!そのために世を掃除しなければならないのです!!!」


「暴力による解決は新たな暴力を産むとしてもかい?」


「意味のある暴力さえも!自由をへと向かう抵抗さえも振るわせないこの世を『平等』とも『自由』とも呼ばない!!師匠!貴方も分かっているのでしょう!?国家システムの腐敗を!!社会の腐敗を!!!」


「そうねぇ。でも私は、それでも私は、小さなところから積み上げて世を綺麗にしたいと思うわ。」


「だから現在(いま)の被害者たちには目を潰れと!?貴方にはチカラがある!それも誰にも抑える事の出来ないほどの!!!何故為さない!?」


「私はね、システムを組み直すよりシステムから溢れた人たちを掬い上げる。その方が諍いを産まないと思ったからよ。争いは次の遺恨を産む、それだけ。」


「やはり嫌いですね・・・。師匠、貴方の考えは間違っている!立場が違うから、争い貶め憎み合う!でもそこから立場を差し引けば!そうしたら争わなくても、憎み合わなくてもよくなるのではないでしょう!!」


師匠と弟子、その両者の腹の底がぶつかり合う束の間の時にワンズは小さな幸せを感じていた。

今まで見てきた弟子の『本音』の部分。それを受け止める事ができたこれをも大切なものだと。

悠長と言われてみれば悠長な感覚。だからこそ遅れたのだ。

後方に現れた二名の存在の『圧』に対する構えを。


「ほぅ・・・。()()()()()()()()()・・・。」


タダクニの顔に笑みが浮かぶ。

先程まで追い詰められた状況がひっくり返る様、それはこれ程までに愉快とは本人も思いもしなかっただろう。


「────『強制書換(ワールド・エラー)』。」


「・・・ほぅ?」


ワンズの知覚とほぼ同時に周囲の空気が振動を起こした。

鈴よりもはるかに鋭い音を彼女は聞こえてしまった。

恐らく音速を超えて振動しているであろう空気の金切り音、それを耳にしたということは事象が身を襲う事が確定しているようなものであった。

だが、ワンズはこの程度では動じない。重くなった空気を裂き領域から抜け出すことなど彼女の反射神経では造作もない事だからだ。

ワンズが感嘆の声の理由はその速度。事象を発現させるまでの亜光速にまで近づかんとする速度は並大抵の演算では達し得ない。自分とチカラを認めた3人程度の人間以外にこれができるとは思わなかったのだ。

だがこの後ワンズは驚愕する事となる。


「少し焦ったかねぇ。」


「本当かい?」


「────!?」


言葉と共に銃口が向けられる。

振動していた空気の領域から脱したワンズの速度は音速の35倍。この世界に踏み入れられる人間など居ない────はずだった。


銃口だけでは無い。既に弾丸がワンズの肉体に目掛け直進しているものもある。

ワンズが速度を落としているわけでない。つまりこの状況では弾丸は────。


「(私よりも速い・・・?『掃除屋』は加速度の能力かい?)」


自身と並行に、極めて間近な距離を同じスピードで動く仮面の男。

反射的な抜刀を。これが誰か、何の能力か。それを考える暇すら無いほどの殺気に対する条件反射。


刀身が、掠ることも無かった。

足場もないこの空中で亜音速の斬撃を避けるのは不可能。だが、現実としてこの男は避けている。ゼロコンマ以下の世界で寸分の狂いも無く剣線を回避している。


「銃弾なんか効かないって訳か。やはり貴方は傲慢ですね、ワンズさん?」


ワンズには銃弾、いやこの世にある兵器がどれを束にしてぶつけても効かない。効くはずもない。

ワンズの能力『万生転廻(アルティメット・ワン)』による莫大なエネルギーの膜、それを越えることができないからだ。

ただし、これは()()()()()の話である。

この銃弾は、()()()()()()()()()()()()


銃弾が肉体へ触れた瞬間だった。

ワンズは触れたからこそ気付いた。この銃弾の異様さに。


「(マズイわ・・・!!)」


反射的に弾丸を切り捨てようと刀身を構える。

が、それも遅い。この銃弾に対しては何もかもが手遅れである。


「『原因と結果は常に同軸として存在している』。過去の偉人の言葉ですよ、ワンズさん。」


着弾時の一瞬。いや一瞬という言葉さえ遅いまでも短い時間。

理論値上最短と言われるプランク時間よりも短いかもしれない刹那に、ワンズの身体は抉れていく。

それはちょうど弾丸たち通るであろう道筋。そこにあったワンズの肉体が無数の空洞を残していく。


「あなた・・・!?その能力は・・・・ッ!!!」


能力が解除された結果、慣性無くワンズは地面へと転がり落ちる。


「今日はこのくらいにしときましょう。僕とあなたが本気でやってタダクニを失いたくないし。何よりまだ『時期』じゃない。」


「あなたたち・・・!待ちなさい!!」


「やめましょう。あなたの能力ならまだ応急処置できるでしょう?お互い死んだら終わりですよ。」


仮面越しからも伝わる邪悪な微笑み。

この時ワンズは逃さずに全員へ挑む事もできた。できたが、それでもしなかった。

タダクニの言う『ぬるま湯のような情け』。

この場で全力を掛けて果たして殺してしまわないか。弟子(タダクニ)の身はどうなるか。組織に身を置く者たちはどうなるか。

ワンズは決して取捨選択をしない。必ず全てを拾いきろうとする。

いつかその結果が実を結ぶと信じて。


しかし、この世界の賽は既に投げられた。ワンズの考える理想が正しいか否か。それを考えるには──、






────全てが遅い。

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