第四十話 馬牛襟裾
復讐。
それは自らの利益を侵害された個人や団体が、その報復として加害者に対し害悪を加えること。これが一般論である。
だが、この説明に大きく欠けたモノがある。
誰のために復讐をするのか、だ。
家族のため?友人のため?身内のため?はたまた『自分の為』?
ここに正解等無い。客観的事実として確実にあるのは人生の『区切り』であるという事だ。
悲劇・惨劇・不条理劇、いずれの当事者となった時の『区切り』を付けたい。そう思った者が復讐者と変わる。
では空真は?
「(俺は・・・・。)」
土台が崩れ始めていた。「掃除屋はテロリスト」「掃除屋は快楽殺人集団」、それが世間の評価であり空真の中でも復讐の土台にあった。
だが彼らには『理由』があり、『大儀』がある。
証拠も確証も無い彼らの言葉、否定するのは簡単である。
空真は思った。
だが、本当にそれでいいのか?
と。
自分が真っ直ぐに進んできた道、それを振り返ってしまう。
何が正解か。そして自分の復讐に意味があるのか。
ここまで読んだ皆さんは思っただろう。「空真という人物は幼い」と。
それは正解だ。彼は両親殺害事件から先全てを捧げて復讐するだけの能力を身につけ今この場にいる。
それはつまり、今現在までに普通の人に訪れるであろう喜怒哀楽を捨てココにいる事だ。人の心の成長に欠かせないものが欠落している。彼の心は事件の起きた十三の頃で時を止めているのだ。
皮肉な事に『能力が完成』しても彼は『未完成』のままである。
「復讐したいのに!したかったはずなのに!!なんなんだこの心のしこりは!!!なんなんだ────。」
タダクニとワンズ。両者の戦いを観測できる空真にこれほど教科書になるものはない。
しかし、集中もできない。
心が、脳が、叫ぶ。
「────────なんなんだよ、俺。」
*
「あっちが面白いことになっておるのぉ。」
「そうねー。海軍相手にしつつアンタと詰将棋するのも飽きてきたわ。」
「姫!あいつ余裕すぎますヨ!一発、ブチかましましょうよ!」
「そうだぜ姫!本気デブッ叩きましょうぜ!」
傘とヒールは童女に攻撃を催す。が、主は応じない。
「ダメじゃ。本気じゃない相手に儂だけ本気じゃ釣り合わん。あの女、まだ能力の本質を隠しておる。」
ロシアの艦船たちが炎上げ爆発していく。
海域内唐突な能力者の衝突。それを鎮圧しようとしたのが運の尽き。
彼女らに国の持つ生半可な防衛システム等意味を為さない。
横やりさえ入れなければ彼女らも手を出さなかっただろう。しかしそうもいくまい。
自国領海内に、それも観測室が無視できない程の能力を使っていたのだ。
巡洋艦8隻、無人航空機15機、潜水艦3隻。以上の轟沈。
そうして他国へのメンツを守ろうとした結果がこれである。
「ワンズー?って奴出てきたでしょ?」
「うむ。間違いなくあの馬鹿者じゃ。」
「じゃあそっち行かないといけなくなったわね。うーん・・・、じゃあー────。」
空間が歪む。
「────────お望み通りの本気よ。『強制書換』・最大出力!」
少女の年相応な可愛らしい口調。そうして発生する死の重力。
この時代までに観測された天体の中でも圧倒的な破壊の化身。
重力崩壊天体。
此度海題したマイクロサイズのそれでも、生き物の命を奪うには過剰というものである。
「____!________!!!」
ソフィアは崩壊現象の間際に何かを吼える。
しかし、決してその音は聞こえる事はない。
ほんの一瞬とはいえ重力崩壊天体を生み出しそれを消滅。つまりは完全な真空の世界であったからだ。
内部からの音は通らない。
『改造屋』は衝撃波よりも素早くその場から去りタダクニの元へと向かう。
これは大きなミスである。
彼女はソフィアの死の瞬間を目視していない。
────────彼女の『摂理違反』はこの程度では死なないのに。




