第三十八話 『処刑屋タダクニ』・下
タダクニと空真、その二人をただただ見ているしかなかったレイ。
そう長くは過ぎていない時の中で少年は思った。「あれは本当に空真なのか・・・?」と。
*
戦闘の主導権、つまりは間合いの牽制件は空真が握っていた。
「────『存在座標・変更』。」
「・・・・ふん。」
存在の位置自体を変更する空真による現実改変。これによって間合いは何時如何なる時も空真が調整できていた。
握っていた。調整できた。これらが過去形で表される理由。そう、既に『処刑屋』はこれに適応しているのだ。
位置の改変が行われたその即時に斬撃が空真を捉える。
切断に対する耐性を付加していても薄皮に時折斬線が立ち、『処刑屋』の『否定』の能力がじわりじわりと空真の体力を削る。
「・・・・・。」
「余裕そうな表情。それでも何を考えてるか凡そ分かりますよ。差し詰め、『力がみなぎるのに相手に一向に通じないのは何故か?』というところでしょう。」
「お前と問答をする気は無い。」
「またそういう事いいなさる。上機嫌のくせに。」
「・・・・。」
小洒落た笑いに対し否定はできなかった。図星。人の核心を常に厭らしく突くこの男はどう足掻いても『掃除屋』なのである。
「簡単ですよ、空真くん。その程度の到達は私、いや、私たちは到達しているのですよ。見えてるのでしょう?私の能力が。」
「聞かれなくても感覚で分かる。黙れ。」
「それはね、『神の光景』という副産物です。『真理』に触れた人間が目にするこの世の摂理を遍く見通す瞳。便利ですよ?銃口見るだけで銃弾避けれますしね。」
それはおかしい。
空真は思った。この男の刀を視界に入れてもその軌道を計れない。
「・・・また、俺は未完成なのか?」
「そう落ち込まないでください。言ったでしょう?『全力で殺す』、と。見切れるような速度で刀を奮っていません。・・・最も、ご所望なら本物の神速をお見せしますけれど。」
「こっちだってまだ本気じゃねぇ!」
脳の全てを引き出す。鈍痛、それは脳からの危険信号。
「これ以上はいけない」。オーバーヒートを警告するが空真はその『先』へ踏み込む。
「(脳の全てを使ってイメージしろ!この憤怒を!!!)」
「・・・おや?」
とある人間の得意技。それが炸裂した。
刹那の空気圧縮と間髪入れずの解放。さらに空真はそれだけに留めない。
「(これは・・・少々めんどいですな。)」
空気分子の固定を行う。文字通り指先1つ動かせない。
空真は更なる仮説を立てていた。「否定により現実改変された場合、改変先の空間を掌握している場合どうなるのか?」と。
これは正しい。『処刑屋』の能力はデフォルトで設定されてる質量の移動先を埋めた場合、再演算を必要とする。
「────当たる!」
弾けた真空は散弾のようにタダクニの肉体へ進む。
「・・・・『虚世界論』・『再演算』!」
初めて見せた焦顔。そして流れる赤き血潮。
「一応人間なんだな、お前らも。」
「はっはっはっ、貴方がそれを言いますか。複数の能力演算を行った貴方が。私たちよりよっぽど『化物』ですよ。」
「コツは掴んだ。次は無い。」
光、いや光子が集合・収束していく。
「『陽光圧縮砲』・・・!いいでしょう受けてたちます!」
「いいぜ、逃げ道は無いがな。」
空気の固定、それと同時に発射される陽の光の体現。
勝ちを確信した時ほど人間は油断する。
「なぁぁああああああんてねぇええええええええ!!!」
「ッ!?!?!?」
『神の光景』によって行った事を瞬時に察知する。
能力が強制解除された。
呆気に取られている隙にタダクニの刀身が喉元に突き立てられる。
「(クソ、やられた!コイツの能力は────!)」
「そうですよ。私の『虚世界論』の能力適応範囲には貴方も入っています!!」
刀身は身体に食い込まない。しかし発生した牙突の衝撃は肉体に注ぎ込まれる。
痛い、そんなものではない。
肉体は度を超えた損傷に対して痛覚麻痺させることがある。が、空真は自身に対して行った『耐性』により損傷自体はしない。それは痛覚の遮断の恩恵を受けず、痛みを100%の内100%全てを叩き込まれる事となる。これは『世界の強制力』による弊害であった。
遠く、遠く叩き出され、数バウンドしたところで慣性が制止となる。
「・・・・クソが。」
内出血が泡となり、肉体からしたり出る。
「また届かないのか?」「負けなのか?」「また失うのか?」「クラリッサはどうなった?」「レイはどうなる?」「いやだ死にたくない」「死ぬのか?」「復讐は間違いなのか?」「逃げてくれレイ」「復讐だから勝てないのか?」「俺は間違ってるのか?」「俺の目標は歪んでいるのか?」「俺は」「俺は」「俺は」「俺は!」「俺は!!!!」
「────とだ。」
「何か遺言ですかな?」
タダクニには今際の小言に見えた。しかし違う。
これは『誓い』だ。
「────もっとだ!!!!」
叫びに呼応するかのように脳に限界を超えた情報が流し込まれる。
鼻からは血が止めどなく流れ落ち、眼孔は血に塗れる。
凡そ人の姿では無い。悪鬼の具象化。
「・・・面倒な事を。」
予感というより予知に近い気付きにより回避する。
地が裂け、煮え滾る岩石たちが意志を持つかのように捉え動いたからだ。
空真の脳は止まらない。
「『存在座標・変更』!!」
両者が再度近付く。
接触の刹那に絶え間なく行われる演算戦。
『処刑屋』の『否定』とそれを更に『空真』の『改変』。またそれが『否定』されれば即時に『改変』。
剣戟の隙間のもう1つの戦い。まるで脳みそで将棋をしながらボクシングをしているかのような、深く複雑な肉体への負荷。
しかし、もうこの戦いに『人間』はいない。
両者は『化物』となったからだ。
空真は『復讐』の為に『ニンゲン』を捨てた。
「(────まだだ!もっとッ!!・・・・もっとッッッ!!!)」




