秘匿事項・弐 ルーカス・デ・ヴァールの手記
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俺は差別されるのには慣れてた。
ただでさえ能力者という枠組みなのに、それに加え___人だ。
故郷のオランダで俺の先祖が何かしたかなんかは知らねェ。仮に知っていても俺と俺の家族には関係ないはずだ。そうだろう?
父も母も大した役職にも就けず少ない給料だった。それでも俺だけには苦労させまいとしていたのを学生で要領の悪かった当時の俺でも察していた。
だからこそ二人が倒れたのはショックだったさ。
過労・・・、そう医師に言われたが今思えばきちんと診察されたか疑問だ。なんせそのまま死んだんだからな、二人とも。
幸か不幸か、なんて言葉があるがこれも不幸だ。二人は限度の限りに自分たちに生命保険を掛けていた。
自分が消えても俺が生きていけるように、とかどうせ考えたんだろう。
自分が早逝だろうと見越していたからこそ、とか見据えたんだろう。
糞くらえだ。その金で旨いものでも食べてほしかった。補修し続けた仕事着なんか着ずに新しい服も、靴も、買ってほしかった。
本当に糞くらえだ。
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二人のおかげで俺は大学に通えた。
学べる事は嬉しい、が、それと同時に胸が苦しくなる。
周囲の如何にも恵まれてそう衣服・装飾で着飾った学生を見て俺は何度も「糞くらえ」と口から出そうになった。
糞くらえ。
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講義はいつも端の席に座る。
どこから噂がたったのか、俺の左右の席に人は座らない。
座らないだけならいい。それを見た教授が「詰めて座れ」と言った時の周囲の視線、あれは最悪だ。全世界が敵、って気分を最速で味わえる。
・・・・でも彼女はだけは違った。
後ろの席から俺のノートが見えたのだろう。それで彼女は言った。「字が綺麗ね」って。
俺は言葉に詰まっちまったさ。困惑も動揺も全部がぐちゃぐちゃになって。
それを見かねたんだろう。彼女は「ノート見せてくれない?教授の字汚くてよく見えないの」って冗談を言った。
始めて他人との会話で明るい感情になったよ。
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マリアと待ち合わせの場所で待っていたら知らない男女の集団に絡まれた。
「マリアを脅しているのか」「今すぐ関わるな」と。意味が分からないけれど察しはついた。
俺のせいでよくない噂がたったのだろう。だから俺は一瞬だけ悩んだが分かったと承諾を口にしようとした。
でもマリアはこんな俺とは違った。割って入ったマリアは「アンタたちのやってるのも脅しだ!」と逆に彼らを糾弾したのだ。
・・・揉めに揉めて最後に俺は殴られたさ。痛いけど嬉しかった。そんな俺を気にして手を貸してくるマリアの存在に心を洗われた。
一生かけてマリアに恩返ししたい。本当に。
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愚劣だ。
彼ら彼女らは俺では無くマリアに嫌がらせをし始めた。マリアは絶対に俺の弱った顔を見せない。
何度も報復を考えた。でも俺が動けばマリアが更に傷つけられる。
今期で大学を辞めよう。父さんたちには申し訳ないけど、俺はマリアが傷ついてほしくない。
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退学を決心するよりも先に折れたのはマリアだった。
自殺。
何があったのか考えたくもない。
あいつらは超えてはいけない一線を越えやがって、それでマリアは自殺したのだ。
復讐も考えた。だけどマリアはきっと止めろと怒るだろうと考え、涙が止まらない。
なんなんだこの世界は。
俺が何をしたっていうんだ。
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個人を責めてもきっと何も変わらないだろう。
国家、いや仕組みを変えなければならない。
そう思った時だった。見知らぬ若い男に話しかけられた。
年下であろう彼は言った。「その眼に輝く憎悪で世界を変えないか?」と。
宗教勧誘か詐欺師か思ったけど、彼の微笑む時の目は知っている。
何度も復讐を考えた時に鏡に映った自分の瞳、そのままだ。
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これを見た俗人共へ。
『掃除屋』は悪に映るだろうが今はそれでいい。
本当の悪ってのは、一目では正義に見えるからタチが悪いんだ。
よく世界を見渡して自分で考え、自分で決めろ。
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ありがとう、マリア。




