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第三十七話 『植物統治』VS『圧縮解放』・下


肉が抉られ、そして再生。それを繰り返す。

肉体の損傷自体は些事であるがクラリッサの警戒は最大級に達していた。

()()()()()()。感知の全てを擦り抜けて行われている攻撃の仕組み(タネ)が分からないのである。

『能力者』との戦闘において基本となる『能力の分析し欠点を突く』。この定石が今、唐突に破られたのである。


「(コイツの能力は『圧力操作』の類・・・。操作した気体や物体には必ず反応物質の残糸が残る。なのに、何故感知ができないの・・?)」


踏み込まれた間合いを再度取り直し、『爆弾屋』はほくそ笑む。


「へっ。意味が分からないって顔してるなァ。()()()()()を使った甲斐があるもんだ。」


「随分なモノを出し惜しみしてたわね・・・。でも、この程度ではあたしの攻撃を防ぐ手段足りえないわよ?」


「やッすい挑発だなァ。でもいいぜ、ノってやるよ。」


紙で擦ったかのような「シュ」という音と共に『爆弾屋(ルーカス)』はクラリッサの間合いに一瞬で突入する。

肉体を極限まで強化されたクラリッサにとって、これをクロスカウンターして仕留めるのは容易い。────のだが。


「そうはいかねェよ────!」


「────カハッ!?」


見えない『何か』によってクラリッサの身体に無数の空白が生まれる。ソフトボールほどの『空白』から満ち溢れる夥しい量の鮮血。肉体の維持すらままならなくなるこの重傷に『治癒』選ばざるを得なかった。

速度を落としたクラリッサの腕よりも先に接触を果たしたのは『爆弾屋(ルーカス)』の掌。


「『圧縮解放(バラエティ・ボム)』・『強制圧縮(ハッピースモール)』!!」


ルーカスの『圧縮解放(バラエティ・ボム)』は対象との距離で能力の強制力が変わるものであった。

圧力の法則を書き換えるこの能力には膨大な脳内演算が必要となり、距離の影響は無視できないものである。


治癒による肉体が再生をしていたからこそ分かる肉体の異変。右腹部への引っ張られるような一瞬の違和感。

クラリッサの断捨離は速かった。異常な腹部のほとんどを切り離し脚部への修復に全てのリソースを注ぎ即座に距離を取る。

遠目から見えた元腹部はまるで泥団子のように黒黒と地面に転がっていた。


「ただの圧力・・・じゃないわね。法則の書き換えに距離の制限でもあるというところかしら・・・?」


大地からの生命エネルギーを変換し肉体の損傷を補うクラリッサ。

一見余裕があるように見える『世界改変(それ)』も終わりが近づいてきていた。


「飛びのいたのは正解だ。本来なら即死なンだよなァ。」


「『圧力』一つで移動に近距離・遠距離と大したものね・・・。正直能力者として磨き抜かれすぎよ、あんた・・・。テロリストやめたらどう?」


「テロリスト・・か。まァ、司法の善悪の基準で言やァ悪だが俺にもよ、()()()()()()()()()()があるンだよ。」


めんどくさそうに肩をすくめるルーカス。

しかし、その眼はいつものような人を見下げたものでは無く、何かを憂いているかのような。そんな瞳だと少なくともクラリッサは感じた。


「・・・フゥ・・・!・・・・・ハァ・・・!!」


「・・ガッ!・・・・クソが。」


両者の限界も際となる。

クラリッサは『世界改変(ワールドオーダー)』の維持が。

ルーカスは肉体の限界が。

それぞれの脳が、足が、全てが、今にも全てを投げ出さん限りを尽くしている。


「お互い限界ってェところだな。最後だ、派手なのお見舞いしてやるよ。」


「それは・・見ものね。でも『真空弾頭(それ)』、だいぶタネが分かってきたの。」


「ああそうかよッ!『真空弾頭(サテライト・ライフル)』・最大出力!!!」


「『植物(ネヴァー・エヴ)統治(ァー・ガーデン)』・補完使用!!」


両者の咆哮。それと共に迅速に動けたのは肉体を最大限まで強化しているクラリッサであった。

人の、いや哺乳類の反射神経の限界。細胞を極限まで促進された彼女は、まさに弾丸のようにルーカスへ向かう。

ルーカスは再度計り違えた。クラリッサの反射速度では無い。『()()()()()()()()()()()()をである。


先とは打って変わり、節穴一つ空く事と無く逃げ場をなくすように距離を詰めるクラリッサ。

そうしてルーカスの喉元へと到達した腕は────。





「(そういう事か・・・。さっき発動した能力は肉体強化じゃなく・・・・、()()()()()()()・・・・かァ。)」




────────ルーカス掴み、そのまま植物の檻へと投げ捨てた。

檻は極めて柔らかに身体を受け止め、そのまま植物たちが四肢と関節を縛り上げる。


「・・・・ハァ・・・ハァ・・・。捕獲完了っと。」


気の抜けた表情を見せると共に植物たちは枯れ落ち、残るはルーカスを拘束るものだけとなる。


「完敗かァ。全くどうしようも無い幕引きだぜ。」


「なーに勝手に終わりにしてんのよ。今簡易的とはいえ治癒してんだから死なさないわよ。」


「いいや、終わりだぜ。俺ら幹部には万が一に備えて『改造』されてンだよ。」


「・・・・改造?まさか────!?」


「なーに。爆発とかでお前さんには迷惑かけ無ェさ。」


「何言ってんのよ!?ダメよ!死なせない!!!あんたには世界を脅かしや報いを受け止めてもらうの!!!」


死ぬと悟りながらも微塵も動揺を見せず、それどころかルーカスは溜息を漏らす。


「なに焦ってるんだ。厄介者が世界から一つ消えるんだぜ?笑うとこだぜ?これ。」


「あんた達なんなのよ!何がしたいの!?人を殺して!脅かして!挙句に自死?何がしたいのよ!!!」


「なンでお前がマジになってんだよ。まァいいさ。『何がしたいか?』・・・か。そうだな手向けだ。良いこと教えてやるよ。」


いつもは不気味さゆえに目が離せなかった『掃除屋』だが、今の彼を見たクラリッサはその真摯な目を見つめてしまっていた。


「お前ら差別も貧困もどうにかしたい組織だろ?ならよォ、なんで()()()()()()()()()()()()()?」


「────!?」


言葉を失うクラリッサ。その真意を聞く事無く『時間』が来る。

足先や指先、身体の末端がサラサラと砂のように崩れ塵へと消えていく。


「ジラすねェ。『改造屋(キャサリン)』、一思いにやってくれ。」


どこからかこの場の状況を監視しているのか。ルーカスの言葉と共に身体は急速なスピードで崩れていく。

彼女はただ、この無情な様を見ている事しかできず言葉にもならない。


首まで消えた頃ルーカスは、微かな声で誰かの名を呼び愛を囁いた。

故人であるのか離別した誰かなのか、それはクラリッサには分からない。


こうして連続大使館爆破及び幾度の選挙妨害・破壊工作、そして戦争代行の主犯だった一人はこの世から消えた。




クラリッサに大きなしこりを残して。

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