第三十六話 『第三階梯者』
『能力者』には公的な研究指標として『階梯』というものがある。
自身に対し任意で効果を及ぼせるものを『第一階梯』。
他者乃至、接触していない他物に対し限りある範囲の中で及ぼせるものを『第二階梯』。
それ以上の規模で行うもの、または分類不可能なものを『第三階梯』。
と称している。
ここはロシアより北に数kmの海上。
吐く息を白くもせず当然のように水面に立つは二人は『第三階梯』。
両者は瞬き一つせず睨み合う、いや、観察しあっていた。
彼女らと空真、一部の『第三階梯』のみが所持する能力の副産物。その名を────。
「『神の光景』持ちとはのぉ・・・。」
「やっぱりアンタも見えてるんだ。ふーん。」
見える万象を遍く分析するまさに『神の視界』とも言える能力。
故に両者はお互いを理解した。『第三階梯』で尚且つ『定義不可能力』者であることを。
だが、この時『改造屋』には1つだけ考え違いをしている。
ソフィアが『特異点』である所以を。
「お手並み────拝見!!」
言葉と同時に指をパチンと鳴らし攻撃を開始する。
それは攻撃というにはあまりにも幻想的な光景。水面が青く燃え盛る。そして散り散りに燃える火はやがてソフィアの頭上へ集結、そして収束。
1秒にも満たない間に起きた絵空事のような現象。火元も引火物もない場所で発火、そんな一見では不理解極まる事象もソフィアの『神の光景』は見通す。
「『法則の書き換え』・・・。いや、それよりも高度なもの。『事象の変更』に近いが不明瞭な部分が多いのぉ。うーん・・・。」
バラエティの謎解きでも楽しむかのように呑気に攻撃と『改造屋』を観察する。
「随分余裕ね。この炎の意味わかってるでしょ?熱量が極めて高い状態で凝縮されたこれは謂わば原子炉そのもの。それを────!?」
言葉を失う。『改造屋』の言う通り兵器としても力を持て余す『火球』をソフィアは傘で触れ、そして傘が飲み込んだ。
比喩でもなんでもなく、『傘が動き』、『口のような部分を見せ』、そして『飲み込んだ』。
「どうじゃナァブ?」
「姫、こりゃ紛れモなく天然ノ炎症反応だ。それ以外ハ何も反応ガねぇです。」
「となると『現実の改変』か?いやはやそれもおかしい。改変したら反応で分かるはず、それすらも無い。」
「ず、随分デタラメな老害ね。1800℃は優に超えた火球を・・・。でー、その変なのがあんたの『能力』ってわけ?」
話に水を差すつもりがそのような事もお構い無しにソフィアは考えに耽る。
苛立ちという感情が沸く一歩前にはようやく返事が返ったのであった。
「小娘。かなり稀少な能力じゃな。気分がいい、好きなだけで攻撃していいぞ。」
「はぁ〜〜〜???」
「意図を掴めぬ事が不満か?ただ単にお前の攻撃から能力が何か当てたくての。何せ長く生きて初めて見る能力かもしれんからな、存分にこの時を味わいたい。」
「あーそう・・・。でもね、もう攻撃終わってるのよ。」
なんの異変も感じられなかったのか、はたまた感じさせなかったのか。それほど急激な圧力の変化。
まるで大陸を背負わせれてるかのような肉体の痛覚すら麻痺する攻撃。
回避は勿論した。そうしなければならないと思考より先に動くほどの理屈抜きの暴力。
ソフィアこの時、久方ぶりの『興』を感じていた。
肉体が生にしがみつく瞬間。命にほんの一瞬でも触れられた感覚。
これは長く生き、全てを達観したソフィア・イシュニガラプにとってこれ以上無い『恐悦』であった。
「あーあー。綺麗な細腕だったのにご愁傷さま。」
クスクスと笑う少女。
ぶらんと垂れ下がる右腕は無惨という言葉すらお世辞にすら成るほど凄惨。
グチャグチャ、ズタズタ、メキメキ。肉体のありとあらゆる悲鳴が一斉合唱をしている。
「・・・・!?」
「驚いてるようね。大方、再生でもしようとしたんでしょ?でーもー、それは無駄。」
「・・・・・・なるほど、そういうことか。随分と度が過ぎた能力じゃな。」
そう言うと傘から刃生え、惨たらしい腕を根元から切り捨てる。
返り血に気にする様子も無くソフィアはそれどころか『興』が最高点に達していた。
「『摂理違反』・『万物蘇生』。」
切断面の骨と肉が形を無し、元の腕へと変貌して接合する。
「『進化の促進』とも『細胞の活性化』とも違うわねー。現実そのものに影響を与えているね、それ。」
「分かっているのだろう?これはお主と同じ『恒久世界線に対する能力』じゃよ。」
絶頂点に対してソフィアは傷の痛みや少なくとも自身と同程度のチカラを持つ相手という事を些事と投げ、高らかに笑いながら宣言する。
「よかろう。お主をこの時を持って『敵』と認識してやろう・・・!!」
傘とヒールたちが蠢き形状が変化していく。
その姿はまさに生き物。それ生物の摂理を破壊している能力こそが────。
『摂理違反』。




