第三十四話 『処刑屋タダクニ』・中
空真本人はまだ気付いていない、大きな欠点が『能力』にあった。
脳のイメージを現実に干渉させる能力。そう聞けば最強と思えるが現実はそうも甘くない。
「クソっ!!」
絶え間無い剣撃を捌き、空間移動で虚を突くも『処刑屋』には届かない。
いや、届いてはいるが現実と成らない。
確かな手応えがあるのに空間は『空』を作り、無かった事になる。また別の場合は与えた拳が衝撃を与える間もなく『処刑屋』を素通りする。
『観測世界の否定』。その意味の恐ろしさをただただ知ることとなる。
『否定』を『否定』できるか?
空真の息が上がり始めていた。
思考に沸いたトートロジーな発想、だがそれでも試してみる価値があると感じる。
「不甲斐ない限りですね。その様子だと余り持ちそうにない。」
あからさまな呆れ顔が余裕を醸し出す。
まだ相手の『底』が見えない最悪の状況ではあるが空真は先程の思考を現実にするため打って出た。
「距離を・・・縮める・・・!」
空を歪める移動。空間移動より高位の『能力』である『現実の座標そのものを改変する移動』。
これをいとも容易く行う事が空真が無自覚にも紛れも無く『特異点』であると言える。
縮地の極限の姿。眼下に現れた空真を視界に入れた『処刑屋』。彼の心に滲み出る感情は『恐怖』でも『驚愕』でもない。
────憎しみ────。
紳士の深みのある笑みとは裏腹にその目は全てを拒絶していた。冷淡なその目には空真という一つの『人物』に映っていないのである。
空真本人もそれは分かっていた。だがそれを考慮する暇が無い。明らかな殺意への対応が全てとなっている。
刀の射程の内側。そこから繰り出される拳を当てること紙を破るより容易い。そしてそこに空真の『イメージ』を重ねる。
「(イメージしろ!直撃する強いイメージを!このまま拳が伸びるイメージをっ!!)」
その時である。時間の単位でも表せない『間』。知覚の限界である最小単位、プランク時間よりも小さな小さな刹那。
彼は垣間『見た』。
体験したことも無い『何か』が頭にフィードバックされ、人々の『声』が頭へ注がれてゆく。
「・・・ほぅ?」
今の一瞬の出来事で遠い目していたが拳の感触で我に帰る。
確かに拳は何にも防がれず当たった。いや、掴まれた。
「貴方、今・・・。なるほど、その歳でもう『恒久世界線』を・・ふむ。」
拳を手放し何か物思いに老ける『処刑屋』。
先程の思考の空白に起きた現象と『処刑屋』の行動、この2つに空真は未だ頭の理解が追いついていない。
そんな空真に再度語りかける老獪。
「私は今日、貴方を殺そうと思いました。それはもう甚振って甚振って貴方が抵抗する気力も無くなってから殺そうとね。ですが、その予定を変更します。」
『処刑屋』の顬に小さな青筋が立ったのを見逃さなかった。
「全力で殺します。貴方は『アレ』を見る資格を得てしまった。このまま何かの間違いで逃げられたらと考えたくもない。そして何より────。」
「────貴方が憎いです。」
光速にさえ到達しかねない音も無き縮地と居合。空真の『能力』にも引けを取らない神速。
それを無防備にも受けた空真は何メートルも吹き飛んでいた。
だが切断はされていない。空真が開戦時から掛けていた『切断耐性』『裂傷不可』のイメージにより身体が守られてるいるのだ。
(身体が思うように動かない。)
空真は攻撃の事よりも身体の異常に注視する。
(いや、動く。身体から浮いてるような・・・。なんだこの感覚・・・。)
浮遊感とも酩酊感とも違う脳と肉体が乖離した感覚を制御しようと試みる。
その時頭に漂うように響く『声』
「あなたにも『資格』をさしあげましょう。」
誰の声かも分からない。だがその声の響きが消えると空真の肉体は本来の感覚に戻る。
「・・・・ふぅ。」
一つ息を吐き、整える。
いつの間にか上がっていた息は通常に戻っていた。
「・・・・。」
強く睨む『処刑屋』。
「なんか言えよ、テロリスト。」
「・・では、『こちら側へようこそ』。そして────────『さようなら』!」
研ぎ澄まされた踏み込みにより空真の頭上へ現れる『処刑屋』。
『能力の本質』に踏み込んだ空真。彼は今こう思っている。「負ける気がしない」と。
そこに大きな問題があった。空真の至った『場所』は────────、
────────既に幾人もが到達した場所なのだから。




