第三十三話 『植物統治』VS『圧縮解放』・上
クラリッサへの物理攻撃は根本的に意味を成さない。すぐ再生してしまうからだ。
その圧倒的な生命力の前に万象の出来事は些事である。
今彼女が気になっていることは、そう、空真の事である。
援護・・・できそうも無いわね。あたしに人数を大きく割いたのは大正解よ、『掃除屋』ども・・・。
『処刑屋』は機関が把握してる中でも最上位の脅威。そしてそれをも凌駕しかねない『改造屋』なる存在の出現。接敵している二人の元へと援護したいものも襲撃者はそれを許さない。
再生するとは言え関節や腱等を破壊されれば動きに一瞬の隙が生まれる。
それを複数人で分担し、絶え間なく行われていたことでクラリッサは自身の戦況だけで手一杯になっていた。
「すげーな。本当にどんだけ損傷与えても再生しやがる。流石にちょっと引くわァ・・。」
言動とは裏腹に、ルーカスはまるで玩具を見るかの如き煌めく眼を向ける。
「・・・あ!一つ気になったんだけどよォ。『再生』ってのは脳を通じてコントロールしてるのが生物の基本だよなァ?ならよォ、お前の脳ミソ吹き飛ばしたらどうなるかなァ!!!!」
空気が凪ぐ。ルーカスにより極限にまで気圧が高まりその時に生じる『空気の空白』。それによって体感できぬ程のごくごく短い時間だけ空気が消えるのだ。
だが、世界は空白を嫌う。
この世の物理法則に完全な0というのは存在しない。仮にそれを生じさせれば世界の摂理がそれを『強制的』に戻す。
能力者が受ける『世界の強制力』もこれに当たる現象である。
そして、それを強制的に起こし不可視の『爆弾』を作る。
それが『爆弾屋』。
「・・・。」
無言のままに膝を着くクラリッサ。
絶望?
否。これはクラリッサによる必要な所作。
空気が『爆弾』となり解き放たれるまでの一瞬に彼女は唱えた。
「────綠樹壌宮庭。」
『爆弾』の生成をするつもりだったルーカスはただちに中断する。真空の刃や銃弾を扱っていた遠隔地にいた襲撃者も中断させようと波状攻撃を掛けるが止まらない。そして届かない。
大地を割き現れる大木に銃弾は防がれ、風の刃は絶え間なく生み出される木々を捌ききれない。
「チッ・・・。噂よりやべェな・・・。」
「どんな風評か知らないけど、あんた、舐め過ぎよ。」
樹木の壁が檻と成し、二人を取り囲んでいく。
「確かにね。あたしは機関内序列も高くは無いし、支部長や他の特殊戦闘員のような目立った実績も無いわ。ワンズ様の直属で地味ーーーな調査が基本よ。・・・・だけどね?あたしの『植物統治』は────。」
ゆっくりと立ち上がり眼光をルーカスへ向ける。
「────負けたことも破られたこと無いの。」
出来上がった『世界改変』。それによるクラリッサだけのテリトリー。
この樹木の檻を出ない限り圧倒的な不利。
彼女が能力を無制限に使えるこの『檻』の中は云わば全ての権限を握られているようなもの。
絶望か?
これもまた否。
『舐めていた』のはルーカス側だけでは無い。
「ッ!?!?」
目眩、吐き気、頭痛etc。不死者であるクラリッサの身体を数多の不調が襲い、ふらつく。それも無視できる限度のものでは無い。毒の類に症状が近いこれは────、
「酸欠だよ、おねーさん。」
ニヤニヤと不調に苦しむ者を眺める『爆弾屋』。
「俺もよく舐められるんだよねェ。『爆破と気体収縮しか能が無い』、そう思われたもんだよ。まぁそれしか使わないからってのもあるが『それしか使わない』からと言って『それしか出来ない』とは限らないンだよ。」
「・・・そ・・・・う。なら我慢比べと・・・・いきましょうよ。」
ふらつく身体を整え戦闘の構えを取るクラリッサ。
文字通りのデスマッチが、始まった。




