第三十二話 『処刑屋タダクニ』・上
繰り出され続ける斬撃をその素手で受け止め、いなし切る空真。
決して『処刑屋』の剣撃が劣っているわけではない。空真は自身の腕を『改変』しているのだ。
「ほう?『切れない腕』ですか。それが貴方の『能力』で?」
「そうだとしたら?」
着地し、距離が空く両者。
「そうピリピリとしないでくだされ。私、お喋りが好きなものでね。『特異点』と呼ばれるほどの者と会話を交えたいと思ったのですよ。」
「俺はお前・・・、いや、お前らと話す事なんかない。」
「なるほどなるほど・・・。まだまだ青いようで。我々の活動意義、それを知ってもそのままでいられますかな?」
「黙れ。人の命を奪う事の意義なんて知りたくもない。」
空間が歪む。空真の強い意志により歪まれた世界は二人の距離を物理的に縮める。
脚力自体はそう人理から外れていないはずの蹴りが、大気を震わせ『処刑屋』にぶつかる。
そう、ぶつかったはずだった。
『違和感』、『異質さ』、『不可解』。それらを空真は瞬時に感じる。
「少しは、感じましたか?」
起こった事象の不可解さを整理できないでいた。
確かに側頭部へと着撃した蹴り。足の感覚にも視覚情報的にも確かであった。
が、その感覚も消えぬ内にみるみると足と頭部の空間が開いていく。いや、これは押し広げられているというのが正確であろう。
「・・・・何をした。」
「聞かずとも分かるのでは?今の貴方ならば。」
問いたくて出た言葉ではなく、それは自分の感覚と直感。それらを否定したい無意識が言葉に成してしまったのだ。
「ふふ、良い眼をしなさる。そうですよ?気付いているのでしょう?私の能力は『事象の否定』。貴方たち『特異点』とも何ら遜色ない能力です。」
言葉を続け攻撃の意思を示さない『処刑屋』。
「年長者として1つ真理を授けましょう。『特異点』とは何か知っていますか?」
「・・・・何の話だ。」
「そうでしたそうでした。貴方自身は何も聞かされてないのでしたね。」
刀を鞘に収めゆらりとふらふらと辺りを歩みながら口を続ける。
「『特異点』とは、この世界に『始まり』を与える存在。一人目は『命』を、二人目は『魂』を。三人目は『法則』を作りました。さて、この話で貴方は思ったでしょう。『自分は何もしていない』と。そうです、貴方はまだ『特異点』となり切れていない。」
歩みが止め、空真を直視する。その眼光は表情ほどの朗らかさは欠片もない。極めて冷淡な眼。
「私の師匠・・・、公的には『ワンズ』と名乗っているのでしたか。彼女は貴方を使って大それた事を行おうとしている。それはね、許されないことなのですよ。だから申し訳ない、貴方には生きていてもらっては困るのです。」
鞘に指が掛かるのを空真は見逃さなかった。
極めて無駄のない自然のような所作。まるで空気でも擦るように無機質で無意味に見える動き、それが攻撃の予兆とは今の空真でもギリギリ感じ取れる線引きであろう。
「まぁ個人的にも思うのですよ。私の『観測世界の否定』と貴方の『観測世界の肯定』、どちらが上なのか────!!!」
この男の言うことは正しい。空真の『能力』は自分で世界を決定する力。
平たく言うなれば、『自身の思い込んだ情報に世界を決定する』能力。
まずいな。この男は俺のこの能力を知り尽くしてる。恐らく────、
思考を纏めあげ、無理矢理に身体を動かす空真。
そう『処刑屋』は、この世界に唯一の、
────俺と完全に同系統の『能力』。




