第三十一話 『特異点』
「へぇ・・・。言葉で聞くとあんまり大変そうじゃないね、空真。」
「あたしはヒヤヒヤしたのよ?あの時のソフィア、間違いなく殺す気だったから。」
宮殿の帰路での談笑。以前と変わりのない凡庸な平穏。
だがここには『凡庸』な者などいない。不死身の女性、造られた天才。そして────、
────『2つの特異点』。
「殺す?あの程度は戯れじゃ。殺意に見えたとしたら無知への苛立ちじゃな。」
長かった道もようやく終わる。扉を開けたら来たように帰る。それだけ。
「殺意はどうあれ、俺は掴んだモノがある。それには感謝してるよ。」
扉は開かれ、門へと歩みを進める四人。
帰る、それだけの────、
────────はずだった。
反応できたのは三人。ソフィア、クラリッサ。
そして、『空真』。
三者の感知に微かな予兆すら気取らせず、それらは『攻撃』を開始する。
人体の数多ある急所を目掛ける弾丸、爆弾となった空気、四肢を刈り取らん真空の刃。明確な殺意はありとあらゆる形で襲い来る。
走馬灯さえも遅れを取る時間の狭間に空真は空間跳躍を行う。
レイは?クラリッサは?ソフィアは?様々な心配をも思考する余地がない。ただ、『回避』の一点に感覚を絞り殺意を避ける。
『距離』と『視界』。その二つを確保するべく8mほど斜方に移動した空真だがそこは既に敵のテリトリーであった。
「こんにちは。」
愉快と愉悦に満ちた初老の男の一礼。
綺麗な身形。“紳士”という言葉が的確な姿。しかし、それと相反するような『不愉快』さ。
そう。この男もまた、『掃除屋』である。
「さぁ、仲良くしましょう。空真くん?」
抜刀。序幕は男の一撃で始まった。
避けた空真とは別に、二人は攻撃を受けた。
『受けた』という言葉だけでは補完が必要である。彼女らは避ける必要が無かった、のである。
クラリッサの肉体は既に回復が完了しており、ソフィアは手持ちの『傘』が全てを防いだ。レイもこの『傘』のおかげで命を此処に留めている。
「へェ・・・。これが世界トップ級の『能力』か。それただの『傘』じゃあねェなァ?」
襲撃者たちが口を開く。爆弾屋の問いに大きな意味は無い。
「相手の『能力』も知らずに襲うほどアンタたちはマヌケじゃない。私はよく知ってるのよ。」
「さすがだよ、直属の部下はお利口サンだァ・・。これからボロ雑巾にする相手とお喋りしてくれるンだからなアァ!!」
「ごめん、アンタたちやっぱりマヌケだったわ。Outer SIX前にしてそんな言葉────!?」
言葉が、
詰まる。
『運送屋』と思われる空間移動の渦。そこからゆっくり現れる『それ』を感じ取ってしまった。
慄き、双眸は開閉を忘れる。大気が震えているかのような錯覚。周囲の反応物質たちが結合と反発、そして連鎖反応を繰り返す。
「やっぱり機関三位サマをお相手するには、俺らじゃア役不足だと思ってな?だからお願いしたんだよ。『改造屋』に!」
キャサリンと呼ばれた女性が暗い本流から身を出す。
「ふーーーーーん。あの生物ね?」
まだ十代の幼さが残るその少女の口調は、圧と反するように軽い。
幼く気だるげな彼女は指で輪を作りソフィアをジロジロと見聞する。
「生命作用系かー。ふーん、そこまで極めたの凄いね。」
「・・・・最近の若者は威勢だけは良いようだな。先刻もお主のようなガキを甚振ったわ。喜べ、お前で本日二人目じゃ。」
「老害?ってやつ?いつまでも自分が『上』だと思ってる奴いるよ・・・・・ねッ!」
『改造屋』が強く地面蹴りつけた瞬間だった。
地面が、大地が、地殻が、動く。
極めて局地的な大地の変動により、ソフィアは遥か遠くへと吹き飛ばされ、そして────、
────────開戦した。




