第三十話 “解釈”
“死”という言葉の前に尻込みせず空真は答えた。
「ローラントも似たような事言っていた。それを知る事でまた一歩先に行けるなら、俺は知りたい・・・!」
眼前の童女はその応答に大層不愉快に口を曲げた。
「御大層な理屈を並べるから人間は嫌いじゃ。可愛気が無い。」
踵を返し、家具達によって作られた玉座に戻り、ただただ不機嫌を全てを空真に向ける。
「・・・で、何かするのか?俺は。ローラントの時みたいに何か課されるのか?」
「小僧。『能力』の本質は気付く事じゃ。己の力が元来どういうものかを気付く、ただそれだけ。それを無理やりにでも気付くには────。」
「ちょっと!まさか!!」
「──────文字通り、死ぬほど能力を使う事じゃ。」
クラリッサの制止は無駄だった。何が逆鱗に触れたのか。はたまた特筆としない気まぐれか。
ソフィアは言葉と共に指を鳴らし、それがスターターとなる。
家具達は反転し空真へ眼光を向けた。
正確に言えば家具達に“眼”など無い。なので顔も表情も無き家具が独りでに動き、空真を正面に見据えただけである。
だが、“狙われている感覚”。それがネットリと確実に自分に注がれていく感覚を『視線』と人体は錯覚したのだ。
椅子が、机が、絵画が。一直線に猛進し、シャンデリアは硝子が伸び、絨毯は毛先全てが腕となり襲い掛かる。
厚き密度の殺意が奔流となり迫り、脅かす。
跳びながら見を捻り、避けながら距離を取るが埒が明かない。そう思わせるだけの物量で押し寄せ、仕方なく『能力』を使う。そうせざるを得ないように迫られた結果であり、全てはまだソフィアの掌のの範疇を出ない。
「何が言いてぇンッ!・・・だ!?」
『空間視覚』による空間跳躍により別の部屋へと移動し一呼吸、という訳に当然いかない。
部屋の装飾達は砕け、極めて殺傷能力高い形状で飛び出していく。
空間跳躍か?ダメだ、迷うな!ここで迷っていては“自分”を超えられない!
浮かんだ迷い。それを理性で抑えかき消し、瞬間を見定める。
現在、空真の『能力』は連続の空間跳躍ができない。どんなに脳を酷使しても数秒の間隔を空ける必要がある。
────────というのが空真の認識だった。
死の体現が襲ってくる間際。記憶が巻き戻されソフィアの言葉を思い出す。
お主の能力は『空間操作』では無い
しかし、それと同時に思い出される連続瞬転を使った時の記憶。
脳の過労により禁止された記憶。未熟を知った記憶。そうして────。
────────全てが一つに繋がる。
ピタリと、固定でもされたかのように標的を目前に停止した硝子たち。
いや停止したのでは無い。停止させられたのだ。
「そういう事か・・・。」
まるで身体が今までの自分で無いかのような感触。それを否定するために手の平の開閉を繰り返す。
自身の込めた力の通りに動く腕。しかし、これ程までに感覚が見違えた事に驚きと感嘆を隠せずにいた。
「『空間の固定』をしおったか。少しは何か解かったようじゃな。」
壁だった場所は押し広げられていく。
そこから軽快な音を鳴らし、ご機嫌に歩み寄るはこの宮の主。
「こういう事だろ?────落ちろ。」
発声と共に停止していた硝子達は床に転げていく。主人の眼前での醜態に対する抵抗か、ピキピキと微動し続けるがその抵抗が叶う事は無い。
「褒めるべき、というところか。お見事。・・・それで、その大層な力でお主は何を成す?」
「それは『掃除屋』に────。」
そこまで口に出したところでソフィアの愉快に満ちた顔が先の不愉快そうな顔に変わる。それに気付き、空真はその先の言葉が即座に出なかった。
「・・・はぁ。その『能力』がありながら。そこしか見えておらんとはな。滑稽此処に極まれり、じゃな。」
「・・また遠回しな言い方を。どういう事だよ。」
「この世界に蔓延る問題の『本質』が見えておらん、という事だ。もっと問題の全体を見るがいい・・・。それが分かるまでは宝の持ち腐れじゃな。」
何か引っかかる言い回しに空真は納得のいかない気持ちを抱える事となった。
が、ソフィアの言葉の『真意』に気付く日が遠くないのもまた事実である。
*
「────いやはや、ありがとうエリオットくん。」
『処刑屋』の謝辞に何の興味も無い素振り示し急かす『運送屋』。
「くだらない言葉言う余裕あるなら急いでくれないかな。そのままの意味でワンズ飛んで来てるからさ。おじさん一人死ぬならいいけど僕まで被害被るのは御免なんだよ。」
「面目ない・・・。」
「ああ!あと28秒!!ほら行くよ!!」
急かされるままに空間の虚へと入っていく二人。それを亜音速で追うワンズ。
今止めないと取り返しの付かない事になる。
そうワンズに思わせるだけの力を付けたかつての『弟子』に、その手が再び届く事は無かった。




