第二十七話 Outer SIX・中
──────ロシア北西部
荘厳な宮殿。脚色無く人に伝えるとしてもその言葉が出てしまうほどの建築物だった。
磨き上げられた壁、歪み一つ無い舗装。どんよりとした寒空の下でも輝いてる錯覚さえ生む。芸術に縁もゆかりも無い、美醜の曲も直も知らず正や邪も解らない空真にもその存在が圧倒的である。
そんな場に『足りないモノ』。
「警備の1人もいない?」
肌を引き裂くような寒空。まだ痛む傷でそれを体感していた空真は「寒いからいないのか?」とも考えた。
が、当然そんなわけが無い。
「クラリッサ、ここは?」
「WOOロシア支部────(仮)?」
「なぜ疑問形なんだ・・・。」
「それはね空真!」
下調べが万全な事、それが少年の誇らしげな顔から分かる。
「ロシアにはね、公的にWOOの支部は無いんだ。ロシアはロシア連邦の頃と変わらず『個別的自衛権』を行使していて、WOO関連施設の国内介入を認めていない事が原因だね。」
「ん?でもここWOOの施設なんだろ?」
「施設って言うか住んでる・・・・って感じ?ロシアに住んでて、それでいてどかせない人物ってとこね。────────強すぎて。」
国が、それも大国が退去させられない人物。
一体どれほどの人物なのか、と、興奮とも不安とも違う腹の奥を熱されるような感覚に充てられる空真。
「あのぉ・・・。クラリッサさん・・。この門って自動なんですか?一向に開く気配無くて僕、そろそろ凍えそうなんですけど。」
「自動、と言うのか何というか・・・。気分屋なのよね、此処の住人。」
「(住人も何も俺ら以外の人間なんか見当たらないが・・・。)」
「ウルセェな!ニンゲン共!」
肉声。それが目の前の『門』から響いた。
二人がまず探したのはスピーカーである。視線を動かし、肉声の音源を探しているがそれは全て無駄な行いであったと言える。
『門』から聞こえた肉声。それは紛れもなく『門』の声だからだ。
「ナァニしてンダ?コイツラ?キョロキョロと・・・。クラリッサ、大丈夫か?コイツラ?」
「あなたに話させると話がこのまま、雪だるま式に拗れそうね・・・。二人ともあのね、この門、生きてるの。」
その一言で全ての理解を求めるのは酷な話。
クラリッサは補足するように言葉を続ける。
「『物に命を与える』、それが此処の主の『能力』なの。それの一つがこの『門』ってこと。」
「オマエ!!『一つ』ナンテ物扱イスルンじャあネェ!!!言イツケるゾ!」
「・・・・クラリッサさんの冗談、かなりパンチ効いてますね。」
「・・・いいや、レイ。俺の『能力』でよく視たらコイツ、しっかり『呼吸』しているぞ。冗談でそんな物が見えてるなら俺はもう一回入院しなきゃならない。」
混乱する二人への嘲笑か。『門』は求めに応じて誰の力も借りずに開く。
もう昼下がりであるのに雲が垂れ始める曇天。空真たちの心情を反映したかのような空模様である。
*
──────アメリカ合衆国 ケンタッキー州
共同墓地。ワンズはそこで静かに祷っていた。
未来への礎として命を賭した者。残された者。理不尽に未来を閉ざされた者。それらへの安息を願い一人、誰も連れず唯“独り”で心から祷っていた。
「何の用ですか?」
ワンズの問いに『襲撃者』は答えない。ただ“攻撃”を持って問いへの答えを表した。
虚空より現れる弾丸が4発。その射線の延長先はワンズの後頭部を確かに捉えていた。現われた弾丸との距離は僅か30cm、『襲撃者』の確固たる殺意がこの距離からも読み取れる。
「私は今、少しばかり機嫌が悪いのですよ。」
振り向き、そんな事すらも許さない“30cm”という弾丸との距離。そのはずが弾丸の到着よりも速く振り向く絶対的強者。遅れて軌跡を残す指の隙間から見えるは、発砲されたばかりの先ほどの4発であった。
だが『襲撃者』は1人ではない。
一瞬。本当に些細な違いとしか感じられない気圧の変化。それすらも感じ取ったワンズは体を縮め跳躍する。その直後、気圧を変化させた正体────『真空の刃』が無造作に襲い掛かった。
だが、当たらない。
空中では避ける事はできない。そう『襲撃者』は考えたのであろう。
『襲撃者』は姿を現す。
ワンズが跳ねて隙間となり空いた空間。眼下の地面。
屈み、刀を構える初老の男。抜刀までの刹那、二人の視線は重なる。そして────、
────────噴き出したワンズの殺意。
男の居合を指で止める。いや、そのまま折られ兼ねなかっただろう。男は刀が通らないと感じ、止められる頃には腕の力を反対の方向に込めていたのだ。
一度距離を取る両者。初撃は不成立、となる。────『襲撃者』側のみが。
「おかしいねぇ・・・。確かに三度は殺したはずなんだが。─────どこまで堕ちた?タダクニ?」
タダクニと呼ばれた『襲撃者』の喉と右腹部、そして脳天に風穴が空いていた。接近時にワンズの手刀が貫いていたからだ。
だがその穴はまるで埋め立てられるかの如く消えていく。無論、男本人に何一つとして苦しむ様子もない。
『治癒』、『再生』。そのどちらにも当てはまらない眼前で起こった現象。ワンズはそれに一つの仮説を立ててはいた。が、それは消去法で生まれた『最悪のパターン』である。
「良かった。今なら殺せそうですな。『Outer SIX』のNo.1にしてWOOのトップの─────私の師匠を。」
その言葉が能力者二人の火蓋を切った。
タダクニはその瀟洒の姿に似つかわしく無い笑みを浮かべる。
どこかの『テロリスト』たちの浮かべるそれと全く同じ笑みを。




