第二十五話 燃え始める火種
「空真・・・ごめんね・・・。」
暗闇から声が聞こえる。優しく、儚く、か細い声。だがその声を空真は力強い声だと感じた。
理由は本人も解からない。でも心が奮い立つような、妙な感覚が込み上げる。
おぼろげな意識の中で理由を自分に問う。が、思考は定まらず切り分けられた記憶の羅列だけが滔滔と湧き出す。
逡巡、そんな思考に霞が掛かり意識が沈みゆく。
空真は暗黒に身を委ね意識を溶かした。
*
地球のどこか。『掃除屋』がいくつも持つ根城の一つ。そこに狂気たちが一堂に会していた。
「大統領がよォ。『人類特異点』に目の色変えてたぜ?」
「誰かは教えたか?」
「いンや。『現状維持続けるなら総長に話繋いでやるよ』って言ってトンズラ。怖ェよあのオカマ、俺1人なら殺す気で来てたわ。」
眉を上げ、両手をヒラヒラと振りながらお道化る『爆弾屋』。一同はそれに笑いながらも話を続ける。
「で、どうだい『解体屋』?」
「あら総長!あたしの事気にしてくれるのー?絶対顎にヒビ入ってたわよ、コレー。」
「違いますよ。総長が気にしているのは『人類特異点』と対峙しての所見です。あなたの負傷等毛ほども考えていませんよ。だいたい『改造屋』に治してもらったんだから済んだ事でしょう?」
「あーあーあー!ガキは嫌いだわー!乙女の気持ちと心の温もりが何一つ理解していないものー!」
談笑に興じる姿は仲睦まじく。これが“殺戮集団”ということ差し引けば、志を一つにした精鋭部隊のティータイムと言っても通じるだろう。
「で、どうなんだい?」
「そうねー・・・。まず間違いない事から話すと『世界事象の改変』に近いわね。それと本人に“自覚”は無い。あったらあたしの『世界改変』に干渉してただろうしねー。」
「ほう?」と『総長』と呼ばれる男は目を細める。
各々好き勝手にしていた全員もその話に集中し始めいていた。
「なら『処刑屋』や『総長』みたいな第三階梯かァ?」
「ルーカス、話を聞いてたか?『自覚が無い』んだぞ?恐らく『世界真理』との接触にまだ成功していない。」
「あー・・・あ?『運送屋』、どういう事だ?」
「その辺りは僕から話そう。」
破け、壊れかけのソファに深く腰を掛ける『総長』。
手を組み祈るような姿勢のせいか此処にいる全員、その表情が見えない。
それでも掃除屋のメインメンバーなら分かる。総長が表情を見せない時はキレている時だ、と。
「久遠博士、アイツが成功していたんだよ。人工的な第三階梯の作成に。」
「でも『無自覚』で『真理』に到達しているかさえ怪しい、という事は・・・。『真理』も見ずに第三階梯相当の力を行使している?」
「エリオットは流石だね。その通りだ、成功はしているがまだ『真理』にまでアクセスできていない。・・・だが時間の問題だ。」
「色々と、ねー。各国首脳達もWOO内にいるところまでは“当たり”付けてるだろうし捕獲するための手回し始めてるだろうねー。」
「平和バカは死守するだろうが各国も馬鹿じゃない。正論に装飾した暴論と遠回りな暴力で『人類特異点』を取りにいくだろう。」
「じゃア俺らもそこに加わって────!」
「そうだ、戦争を始める。」
全員の口角が大きく上がる。ごくごく局地的な破壊や殺害依頼とは訳が違う。敵は無限に近いリソースを持った国家や国際機関だ。
それでも、だからこそ。そんなものが牛耳る世界を自分たちの立場まで引きずり下ろせると思うと『掃除屋』たちは興奮が抑えられずにいたのだ。
「で、総長。本音は?」
年相応に目をキラキラさせた『運送屋』は問う。
「気に入らねぇ。大した犠牲も無く特異点に生まれた奴も、平等だ平和だと根幹を変えない馬鹿も、偉くないのに偉そうにしてる国々も・・・!全部気に入らねぇ。だから────!!」
ぶっ壊す。
指に力が籠もる。解放を求めて渦巻く負の感情と理性が押し引き合う。
「・・・・・ふぅ、そういう事だ。これから『掃除屋』は『人類特異点』の殺害に向けて動く。その為にもまずは静観だ。WOO、もとい化け物を僕らが相手にするのは勘弁願いたい。」
立ち上がり、無駄のない動きでロングコートを羽織る。
「空間移動開けようか?」
「いいよエリオット。『能力』で帰る。」
そう言うと総長はカツカツと小気味良い音を立てながら階段を上り外へ出る。
外へ出たかと思えば瞬きをするかしないかのような一瞬の内に、音も無く、風さえ立たせず、消えていった────。




