第二十三話 世界改変
あたしはバレエが好きだった。
綺麗で力強くて、凄く気高い。
だから努力した。大きな大会で認めてもらうために一日だって練習は欠かさない。
世界で活躍するバレリーナになるんだ。
努力していく内に色んな大人やお姉さんがあたしの事を認めてくれるようになった。
すっごく嬉しかった。だから練習ももっと頑張った。
大会でも結果を出せるようになった。お父さんもお母さんもいっぱい喜んでくれた。
有名なスクールからも大人が来て褒めてくれた。
でもいつからだろう。スクールで変な事を言われた。
「シキチェンコ家は_____主義者の____人だ」って。
_____ってなんだろう。____人ってなんだろう。
あたしにはよくわからなかった。よくわからないから気にしない事にした。
努力を欠かしていないのに結果が出せなくなった。
まだ努力が足りないのだろう。そうあたしは考えた。
だからもっっっと努力した。
でもある日、聞いてしまった。
「アーシャはもう二度と入賞できない」「____人だからあの子には未来がない」と。
その言葉を言った女の子と口論になった。
次第に手が、足が、拳が出てあたしはその子を強く飛ばした。相手も同じくらい飛ばしてきた。
倒れるあたしには見えた。照明がグラグラと揺れ、軋み、傾き落ちてくる瞬間を。
気が付くとあたしは病院だった。身体を起こそうとしたら激痛がする。
激痛の元を見ると、無かった。
あたしの左腕は、無かった。
押したあたしが悪いの?____人だから悪いの?どうして?
あたしはただ、バレエがしたかっただけなのに。どうして?
どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして──────?
*
顎に受けた衝撃からか走馬灯が過る。あの日の悔しさ、世界への憎悪。それらがアーシャの意識を再点火させる。
そして落下しながら空真を強く睨む。その目は空真もよく知ってる目だった。
そう、強く何かを憎む眼。
『空真、身体に異常はあるか?』
「いや、無い。少なくとも『解体屋』の能力で即死って事は今は無さそうだ。」
『それはどういう────!?』
落下してゆく『解体屋』。その存在から強烈な殺気と殺気以外の何かを感じる二人。
それは世界が書き換わる瞬間。この世の理を否定し、一時的に空間を掌握する御業。
『 世界改変』。
『能力者』が条約で禁止されている事の1つでありその理由は単純明快。
“危険”だからである。
『解体屋』は手の平を擦り合わせるように上下に重ねる。
殺意が世界を否定し、それが事象と為ろうとしていた。
「─────『裂郗鏖々処斷令』。」
明確な殺意の言葉により事象が始まる。まさにその紙一重というところで二人は『空間連結』による移動で更に高い上空へと逃げていた。空間移動による大きな移動。ローラントだからこそできる芸当と言える。
眼下には市内が広がっている。そこで空真は絶望を見る事となる。
能力が視える空真達『空間干渉能力者』だからこそ判る絶望の世界。
『解体屋』の能力範囲が市内全域に及んでいる事がわかるほど素粒子たちが真っ赤に反応している光景。
そして『解体屋』の憎悪は形となる。
次々と、無差別に、生命、無機物、その大小。その全てに見境なく襲う力量の反乱。
『解体屋』の『力量操作』は全てを否定すかのように外側へと進んでいく。WOOと政府が避難指示を出した区域よりも外へと。ただ、そこに肉片と瓦礫を残しながら。
「・・・めろ。」
ローラントは下唇を強く噛む。
「やめろォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
空真の声も虚しく遥か上空の二人には何もできない。下りてしまっても肉塊の仲間となるだけ。
無力。その一言に尽きるのである。
ほんの十秒と少し程度の出来事だった。
地上に降りた二人はとても市街だったとは思えない更地を見渡す。
絶望で膝を着きそうになるがローラントはそれを許さない。
「逃げるな!まだ何も終わっていない。『解体屋』を探せ!!」
「探さずともココいるよー。ふふっ。」
まるで負傷者のように息を切らし、鼻から血を滴らせる『解体屋』。
「『世界の修正力』か、当然だな。あんな規模で能力を使えば『掃除屋』と言えどタダでは済まない。大人しく投降する気は?」
「ないねー。何よりその横で死にそうなアホ面の男があたしは気に入らない。」
空真は拳を強く握り締め一歩前へ出る。
「お前は・・・お前らは何でこんな事が平然とできるッ!!」
怒りが臨界点になりそうなのを必死に抑え問う。
「さぁて何でだろうねー。そうね、ふふっ。分かりやすく言えば『世界がムカつく』からかなー。お前らには分からないだろうけどねェエエエエ!!」
『力量操作』が再展開される。ローラントが『能力』を使用した意識の隙間。その僅かな外部への警戒の緩みで反応が遅れる。いや、反応なんて出来なかったかもしれない。それは感知と同時、ミリ秒以下のラグも無くそこに現れた。
(ロングコートに仮面・・・、こいつは────!!!)
「アーシャ、改変まで使うなんて随分景気がいいね。どうした?」
「総長・・・。ごめん、ちょっとイラっと・・・・。」
「あー、久遠の遺物が、ね?なるほど。」
先までの抑えていた怒りが爆発しそうになる。
『掃除屋』の仮面の男。探していた両親の仇が、今、目の前に────。
「さぁ戻ろう。仕事もこなしているしね。」
「無視するな」そう言いたいのに声が出ない。力も入らない。
何が・・?痛み・・・?
仮面の男は空真の知覚すら及ばぬ速度で胸を短刀で刺していた。その速さは痛みという感覚すらも時の流れから置き去りにされる。
待て────!俺は────、お前を────!!
霞む視界、消えゆく意識。そんな中で最後に見えたのは、空真に向けられた『男』と『解体屋』の血走り憎悪に塗れた視線だった。




