第二十二話 『解体屋アーシャ』・下
神速の隻腕、『解体屋』。その謎をローラントは少しずつではあるが紐解けてきていた。
瓦礫が自由落下に任せ散りゆく中、真っ直ぐ、一直線に『解体屋』は迫る。
鉄骨、コンクリ、ガラス。その全てが触れるだけで砕け、走行直線から弾かれていく。
「(コイツの能力は『力量の操作』なのは空真の言う通り確定だ。ずっとあった違和感、その正体も今解った。コイツは────。)」
────能力のほとんどが自動だ。
『掃除屋』と呼ばれる一団。その主要メンバーと思われる6名に関しては機関が入念に調べていた。しかし、事件の形跡、接敵時の生き残りからの証言、映像。どんなにその全てを照らし合わせても『能力』の詳細が解らず対応も全て後手に回る形となっていた。
それもそのはず。『掃除屋』は『能力』を『常識外れ』な使い方をしていたのだから。
『能力の自動発動』これの意味するところは、無意識下による高次物理演算。平たく表すのであれば『息をするのと同じレベルで数千という計算を行っている』という事になる。
この事実はローラントを恐怖させるどころか興奮させた。研究者の性、とでも言うのだろう。『未知』に対する興味が命の取り合いで生成されるアドレナリンと混ざり合う。
「シャアァ!!!」
距離を詰めた『解体屋』は槍を薙ぐ。片手は思えない槍さばきだが距離を自由に変えれる空真にとって避けられないものでも無い。
真下。『解体屋』の足元へと移動し拳銃を構える。人体に置ける後方に並ぶ『死角』、そこからの攻撃は『解体屋』と言えど急速に対応できないであろうと考えたのだ。
引き金に掛かる指に力を込めたほんの一瞬の内に起こった出来事。まるで時間が引き延ばされたかのような世界で空真は見た。先ほどまで眼前を見ていた『解体屋』の眼と視線が重なる。
「(まさか・・・!?)」
その“まさか”であった。『解体屋』の肉体反応速度は空真の移動、いや、空間移動系能力全てに目が慣れてきていた。
それは奇襲を掛けたローラントの攻撃をこの後避ける事からも明らかだ。
移動により直上に崩落物、真後ろにローラント、真下に空真の図。
この状態から『解体屋』は腕を上げ崩落物の破壊をし、落とした槍を脚で振るう。
爪先と足首を舞のように器用に動かし、眼下の空真の拳銃を掠める。
触れた物質の破壊、それが『能力』の彼女の槍もその能力の適用範囲内であった。触れてしまった拳銃はバリッと安い玩具のようにすぐさま破壊される。そのまま槍は回転し再度切っ先が空真へと向かう、その攻撃は弧を描きそのままローラントへも向かうはずだった。
『空間連結』。ローラントの空間干渉により二人のいた位置には瓦礫へと変わり、入れ替わる形で二人は再度距離を取る形となる。
「(ローラントが能力が無ければ死んでいた・・・!)」
数秒できた安息の時。息を整えつつ事態の整理に頭を回す中、空真は自身に起きていたある事に気付いた。
ローラントに伝えるか?否、この事実が『解体屋』に察されるリスクを最小限にすべきだ。2人がかりでは誘導に引っかからない可能性がある。やはりリスクになり得る。
空真は打って出る。
まずは射撃と共に移動し背後を取り、再度拳銃を構える。
『解体屋』の反射速度は2発目の発砲など許さない。1発目を避け、避けるときに加えた回転を勢いに槍で後方の空真を襲う。
「(マズイ・・・!!!)」
ローラントは反射的に『能力』を発動しようとする。
「だが間に合わない」そう直感した。『解体屋』の反応速度は『能力者』が能力を使う暇すら与えない速度にまで到達していた。類稀な演算速度と演算許容量により範囲内全てを移動できるローラントの『空間連結』ですら『解体屋』に対してはギリギリの攻防を行うことですら力足らずと言える。
だが、これすらも空真は予測していた。『解体屋』との距離が近ければもう咄嗟の行動では間に合わない。そして『解体屋』の一撃は即死。だからこそ────。
「この瞬間なんだ。」
空間はその槍の更に内側に『能力』で潜り込む。手を伸ばさずとも届くような距離。それは『解体屋』にとって勝利が道端に落ちていたようなものである。
しかし、転がり込んで来た勝利は目が違った。
────何かを確信した目だ。
「いぃぃいいいい加減にしろォオオオオオオオオ!!!!」
空真の咆哮と共に拳が迫る。
回避の隙など無い。太古より存在する近接格闘の至高の一撃。
クロスカウンター。
それが真っ白なアーシャの顎を屠り抜く。
呆気に取られるローラント。勢いのままに自由落下をする『解体屋』。
(こいつ、まさか気付いてる──!?)
そう、アーシャの憶測は正しかった。空真は気付いている。先の脚術による槍さばきの際、槍に掠っていたのだ。だが、しかし、本来ならば裂け果てるこの肉体は何の支障もない。
そう、今の空真には────、
────能力が効かない。




