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第二十一話 『解体屋アーシャ』・中


「空真、引け。」


ローラントは端的に言葉をかける。目の前にいる“災厄”の圧がそれほどまでも強く意図の全てを口に表しきれない。

当然、空真は従う気などさらさら無かった。


「俺の目的、知ってるだろ?素直に下がると思うのか?俺はこいつらに―――!?」


神速。この言葉が如何に的確かは目の前で起こった事象から明らかだ。

アーシャと名乗る女から6m弱といった距離があったはずだった。しかし、その距離を一瞬で()()()来る。

瞬時に発動されたローラントの『能力』により移動(テレポート)し、再度距離を取る二人。

「これが能力では無いというのか?」、そんな疑問が空真の脳に浮かぶがそれは紛れもない空真本人が知覚している“事実”が否定する。ローラントに課せられていた『空間視覚を解除せず過ごす』によって以前より『知覚』が強くなった空真には()()()()()()()()

筋肉、周囲の空間、周囲の物質。それら全てにどんなに探しても『能力』を使った痕跡が無い。即ち『能力(イグノア・)素粒子(パーティクルス)』に反応が起こっていない事を意味する。


「(素の身体能力がこれだと・・・?)」


驚愕していたのは空真だけでは無い。ローラントもまた、予想をはるかに超えた『解体屋』の力を前に眉間に皺を寄せる。


「空真、正直に言おう。お前を逃がす余裕が今の俺には無い。インカムをチャンネル61に合わせて常に距離をとって戦え。分かったな?」


その言葉からローラント、自分より遥かに高みにいる人物すらも“コイツ”に対して髪の毛一本ほども余裕が無いことを察し小さく頷く。

そんな2人を嘲笑うかのように『解体屋』は愉快に指の関節をポキポキと鳴らし左腕を触る。


「やっぱり重いよこれー。はーずそ!」


そう言うと左腕だった物が落ちる。

義手。そう考えるのが自然なのだがローラントはその違和感の正体を探る。確かに義手であるのに質感、関節の皺等が到底義手には見えない。フランス支部こと『世界平和機関・技術研究局』の局長ローラントだからこそ分かるこの違和感。やがてそれは1つの結論に達する。



『掃除屋』には高度な技術者、及びそれに準ずる能力者がいる───!



ローラントはこの情報をいち早く本部に伝えねばならない。が、しかし、目の前の女の一挙手一投足が文字通り“死に直結”するこの状況。緊張の中でもローラントは冷静に考える。そこには一つ、払拭できない疑念があったのだ。

「『掃除屋』が現れているのにも関わらず、支部側から何の連絡も無いのは何故だ?」「支部にも何らかの襲撃が?」疑念は疑念を呼び不安材料だけが増えていく。

そんなことを知ってか知らずかアーシャと名乗る女は残った右腕をポッケから何かを取り出す素振りを見せる。

条件反射の射撃。

それが2人のとった行動であった。

だが弾丸がアーシャに当たることは無く、その残骸は眼下に転がる。


「ローラント、見たか?」


「採点してやる。今の現象は?」


「接触したものへの力量(ニュートン)の増幅・・・か?弾頭と雷管側に『反応』が見えた。それで弾丸が砕けたのか・・・?」


「そこまで見えているなら上出来―――と言いたいが俺はそんなに甘くない。『増幅』以外のネタがある。そうでなければ今の現象は説明できない。」


ローラントの見解は正しかった。弾丸に作用している『推進』と『抵抗』を増幅したところで弾丸は砕けども、弾丸が()()()()()事は有り得ない。その推進のままに砕けた欠片は進むはずだからだ。


「紳士は淑女の身支度を邪魔しないものよー?」


「淑女はそんな物騒なもの持たねーよ・・・!」


先ほどポッケから取り出した“モノ”は()()し、()()()()()

それは三尺ほど槍に形を変えそのまま形が定まる。


「形状記憶の流体金属・・・!!どこでそんなもの――――!!」


槍を片手で持ってからは速かった。腕一つ分軽くなったとはいえその速さは先ほどの比ではない。ローラントの言葉を聞き終わる前に空間跳躍(ジャンプ)をしていなければ腹を捌かれていただろう。長物によるリーチと本人の規格外の俊足。それがコンマ数秒の世界で猛威を振るう。

空真とローラントは自身の能力で再度距離を取った――――が。

ここで空真は致命的なミスをする。

跳躍(ジャンプ)の直後。距離を取った事でほんの僅かではあるが“油断”をした。空真の『空間跳躍』は“未熟”。連続しては使えない上に距離も10mが精々。だがその10mの距離で心のどこかで“安心”してしまった。


「馬鹿――――!!」


そんな言葉が聞こえるのとほぼ同速。視界の端から何かが顔に迫る。

槍の先端が煌めき近付く。走馬灯、そんなモノすら追いつかない音速の世界。


「―――『空間連結(パブリック・アクセス)』!」


ローラントの『能力』の発動と同時に身体に大きくG(重力)を感じる。強制的に移動(テレポート)された三者は全員が空中に投げ出され、自由落下に身を委ねる事となった。

そのおかげか、空真はギリギリのところで槍の切っ先を避けることに成功する。


『緊急で上空40mに移動させた。空真、テレポートでゆっくり地面に下りろ。』


インカムから聞こえた指示に従い、跳躍(ジャンプ)を使い地面と距離を近づける。

このままでは『解体屋』は地面と激突―――――のはずだった。


「先に潰すべきは―――こっちねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


アーシャは()()()()()()

このまま勝てるほど『掃除屋』は甘くない。それは移動させたローラントも分かっていた。


「しかしここまでとはな―――!!」


ローラントに突っ込んでくるのを移動(テレポート)により躱す。

ギリギリの攻防の中『解体屋』の『能力』を分析するがアーシャはそんな余裕を許さない。

踵を返(クイックターン)し即座に接触を計る。


「無視してんなよ。」


アーシャの反転の瞬間。ほんの微かな動きが停止のタイミング。その“隙”に空真はその頭上へと移動(ジャンプ)し引き金を引く。

空真は最初の時点から一つ疑問を持っていた。「コイツの能力は本当に自動発動(フルオート)なのか?」と。捜査員の接触、先の弾丸、そのどちらも接触したものに対して自動的に行われているように見えた。

だが、()()()()()()()()()()()

前例の二つは『解体屋』の意識が向いている範疇で起こった。ならば意識()の攻撃ならばどうだ?そう考えての行動であった。



―――――当たれッ!!



空真自身は無意識だったであろうその祈り。いや縋りであったであろう。

頭上の発砲音を聞き逃す程『解体屋』の実力は低くない。すぐに『能力』が展開される――――――はずだった。


小さな血の飛沫を上げ、両者は距離を取る。ビルの屋上、三者はそこに着地することなった。

いや、『解体屋』に関しては“不時着”と言えるかもしれない。


「なんで・・・なんで・・・・!!!」


白髪を紅く滴らせ『解体屋』は初めて笑顔以外の表情を見せる。

致命傷ではない。それはギリギリまで近くにいた空真が一番分かっていた。『解体屋』は驚愕の顔と共に咄嗟に上半身を捻っていたのだ。結果、弾丸は頭部を掠る形となる。


「・・・・ああ、そういうこと。ふーん。総長の言ってた事ってこれかぁー。」


先ほどまでの表情は消え、再度狂気の笑顔を見せる。


「空真くん、君は()()()()()なんだねー。あー、ムカつくなぁー。」


視線が空真へと向けられる。憤怒、狂気、二つが入り混じった眼をまっすぐ見て“恐怖”が全身に迸る。


「ムカつくなぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああ!!!!!!」


大気が震える。そんな事は知覚の錯覚に過ぎないのだがそう感じてしまうほどの“圧”。


「・・・ふー。もういいよ、仕事とかどうでも。全部(こわ)してあげる。――――『力量(アンバランス)操作(・テンパランス)』。」


その言葉と共に踵でコツコツとビルを叩く。

ミシ・・・ミシ・・・。

ビルに徐々に亀裂が入っていく。「まさか・・。」、二人はそう思った。『能力』を及ぼせる質量や範囲には限界がある。空真の移動(ジャンプ)の場合は自身一人だけのように、脳の演算能力や能力の効率良く発動できているか否かでその限界は決まっている。

が、これはあまりにも、


「規格外だろ・・・!!」


ビルは『解体屋』の能力で()()()()()()


瓦礫が流れ落ちる中、規格外(アーシャ)が二人へと迫る。だがその顔は先ほどまでの笑顔とどこか違う。

戦いの最中に空真はそう感じた――――。


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