第十九話 平和への渇望
※誤字脱字等はご報告いただければ幸いです。
――――世界秩序機関フランス支部
空港で人混みに揉まれ、揉み切れそうになったレイは到着早々に膨れる。
「なんであんなにあちこち混んでるのさ!空港も!道路も!!」
その様子に心が解れ、微笑を浮かべる。
「なーに笑ってるのさ、人が大層たいへんな思いをして来たのに労いの言葉の一つくらい無いのかい?空真くん?」
「ああ、悪い。お前を見てると頭のネジが緩むんだ。」
「・・・遠からず近からずに馬鹿にしているよね?」
そんな“いつもの二人”の談笑。それは張り詰めていた空真への良いストレス軽減効果になっていた。
ローラントに課された修行。それは「視界に入った人物・物体全てを透視しろ」というものであり、ほぼ常に脳は演算状態。その疲労は日を重ねるごとに蓄積を増しギリギリの状態であった。
曰く、「基礎を飛び級している状態だから基礎だけ限界までやれ」とのことである。
だからこそ、そんな日常にレイが加わる事は良い刺激だといえる。
「ところで、僕は何をするためにフランスまで来たんだい?空真なにか聞いてる?」
「いいや。ローラントは研究だかで引っ込んでるし、俺は事務仕事と脳みそキリキリさせるので手一杯だからな。」
「・・??よく分かんないけどローラントさんに会えば何か分かるかな。確かここの支部長でしょ?」
「時間通りだな、ご苦労。」
どこからともかくローラントが現れる。彼は空真と同じ『世界干渉系かつ空間操作能力』であり、扱いは空真の数段上。文字通りどこからでも、どこからともなく現れる。
「あ、こんにちは。えっと―――」
「呼んだ理由だが君に頼みたい事がある。」
遮って本題を言うローラント。その行為にもうそろそろ空真は見慣れてきていた。
三か月という月日で、「ローラントがどんな人間か」は彼なりに分かってきている。
「ここフランスで『国際法の基本法化に対する検討会議』があるのは―――、知らなそうだな。」
レイに配慮してか小さめの溜息をつく。
「さすがに少しは知っている。能力犯罪にそれ使った相次ぐ紛争。それを国際法を基準にした考えも取り入れて厳罰にするって話だろ?」
「ああ、そうだ。裁かれないから無法を犯す。そしてそれを裁く基盤が世界単位では存在しない。それを改めようということだ。今の国際法ははっきり言うと『無力』だからな。・・・話がそれたな。」
余計な口を挟んだ事に対して何か言いたそうな顔しているが、空真も慣れたもので気にしていない素振りを見せる。
「そこでレイくん。君には有事の際の逆探知をやってもらいたい。」
「・・・有事って言うのは何か予告が?」
「いやそういう訳ではない。が、この会議には有力国の間でも『反対派』が多い。自国が過去に行った罪や裏の繋がり。戦争に裏から手を引いている者たちにとっては耳障りな話なわけだ。表だって襲撃みたいな事はしないと思うが準備に越したことない。」
「・・・ちょっといいか?この会議を襲撃を襲ったらそれこそ国際法の改正が可決されやすくなるんじゃないか?危機感が全世界に波及していくだろう?」
「ワンズ様には“こういう事は言うな”と言われるが、あえて言うと世論というのはそんなに単純な善意で溢れていない。」
ゆっくりと眼鏡を外し、レンズを拭く。その所作をしながら目を細め続ける。
「『会議が何者かに襲撃される』、それは反対していた国の次のターゲットとなると捉えられることとなる。そうなれば人々はこの改定を忌避しだす。『これで少なくとも標的にされない』とな。そうなればこの話は振り出し・・いや無かった事になるだろうな。」
眼鏡をかけ直し、真剣な顔でその蒼眼でこちらに向ける。
「だから、そうならないために。身勝手な戦を起こさせないために、今回は一切の油断の余地なく我々が警備を受け持つのだ。」
言葉が出なかった。空真が見てきたローラント、いや三ヶ月程度しか彼を見てきていないがその中でも見せたことのない真剣な表情に押し黙ってしまったのだ。
「――――わかった。」
ローラントの冷淡な顔からは想像もできない“熱”に空真をそう一言答えた。
*
―――フランス シャルル・ド・ゴール空港 車両ターミナル
「いやー!久々だなっ!フランスー!」
北欧の令嬢。そう周囲に勘違いさせてしまう魅力がこの隻腕の女性にはあった。
線が細く、肌は柔らかな新雪を彷彿とさせる。
それに見惚れてか一人の男性が彼女と目が合う。恥ずかしさから照れ隠しで目を伏せ、そのまま視点を明後日の方向に向けようとするも無邪気に振る舞い女性はこちらに近付いてくる。
「あたしアーシャっ!あなたも旅行ー?あたしもなの。お互い目いっぱい楽しみましょうねー!」
そう言い優しく握手とハグをされる。
周囲の羨望の目も他所に旅行者の男は感極まってしまう。
そして数時間後、彼は天へ昇ってしまう。
感極まった事への最大級の比喩ではない。
アーシャ――――『アナスタシア・シキチェンコ』の手によって肉体の全てを『解体』されてしまい天に招かれたのだ―――。




