第十八話 未完成な二人
※誤字脱字等はご報告いただければ幸いです。
ローラントと空真を見送り、レイは単身ロサンゼルスにあるアメリカ合衆国支部に取り残される形となった。
決して取り残した訳ではないのだが少なくともレイの心情はややマイナスな感情で占められていて、不服な彼の心にはそう捉えられていた。
「空真はいいよなぁ・・・。」
支部における居心地の悪さも相まって口から不満が垂れていく。
業務を任されたもののそれはレイにとっては“単純”。『IQ』などと言った一般知能検査では定義不可能なその頭脳はマルチタスク程度は働くうちに入らないのである。
「あら、酷い顔してるわよ?」
まだまだ新人であるレイを心配してか、クラリッサが様子を伺いにきた。
「退屈―――だけじゃないわね、その顔は。」
「そんな嫌な顔してましたか・・・?」
「ええ。あなた、中性的でけっこうかわいい顔してるのに台無しよ。」
クラリッサは誉め言葉として送ったそれは今のレイには“辛辣”な言葉となった。
「・・・やめてください。僕の外見、それに能力は誰かに褒められたモノじゃありません・・・。」
苦い顔をし、俯く。
何がレイの心へクリティカルヒットしたのか推察し、一間ほど思考したところでクラリッサは気付く。
「レイ・・・、あなた自分と空真を比べてるのね。」
「・・・・・・。」
答えを返さない事がそのまま話の肯定となる。
レイの出自。それは当然機関も調べ上げている。
「『楽園』の産物としてのあなたである事と、今のあなたはイコールではないわ。それに空真はそんな事気にしていないと思うわよ。」
「・・・でも、僕のこの“チカラ”はみんなのように努力したものでもなんでもありません。そう造られた、ただそれだけです。」
手が震える。『怒り』、それも自分を許せない怒りで身体が熱を持つ。
クラリッサとの会話が起爆剤となり感情の堰は切られる。
「怖いんです!空真は進み続けてる・・、前へ、先へ!・・・でも僕は、僕は、進めない!」
涙を堪えているのが伝わる。
泣きたい。自分という存在の『罪』を怨みたい。だがそんな資格はない。造られた命である自分を幾度となく他者と比較してしまう。
そんなレイの感情。『理不尽』の渦中に今まさにいる少年の感情をクラリッサは汲む。
「辛いわよね。『改造された脳』、『デザインされた外見』、人と違うってのは本当に辛いわ。何より自分で自分苛む“棘”となる。」
「まるで僕と同じ経験があるかのように言うんですね!クラリッサさんは分かるって言うんですか!?何人もの仲間の命を実験にして自分が生きた経験がッ!!」
「・・・そうよ、あるのよ。もう大昔だけどね。今でも村の住人が焼かれた事を思い出すわ。」
「焼か・・・れ・・・?」
「『魔女狩り』って知ってる?西暦にして1600年くらいから流行った“災厄”よ。もし知ってるならそれ以上言わないわ。そういうことよ。」
あまりにも突拍子の無い話にレイは返す言葉を持ちえなかった。
「(数百年前の話・・?どういうことなんだ?)」
「信じられないならそれもいいわ。今じゃろくに証拠も無いし。だけどね、レイ。いくら自分を呪っても自分を苦しめるだけで何も変わらないわ。それは同じ経験をした私から断言できる。もし『楽園』から解放されたことに、空真に恩を感じているのなら―――――『 』。」
その言葉にレイは心を揺さぶられた。
感動。人がそう呼ぶ言葉をレイは感じたことがなかった。否、拒否していたのだ。
いつも明るく振舞う裏、心の奥底にある“自分を許せない想い”。それが本気で心が揺れ動くのを拒絶していた。
だが、クラリッサのその言葉に拒絶の柵が溶けていく。
ああ、こんな気持ちだったな。空真が“助けだしてくれた”時・・・。
未完成で未成熟。そんな『二人』が近い未来この世界を変えていく―――。
*
――――世界秩序機関 アメリカ支部 35階 特別会議室
「いやいや、ちょっと待ってくださいよ。」
ワンズの怒気を物ともせず華奢な青年は声をあげる。
「ここにいるって事ですか?『掃除屋』が?いやいや、それはありえないですよ。絶対的特異点さんに目の前から斬りかかられたら勝てるわけないのに。」
「勝てる算段がある、のだとしたら?」
長髪の少女は口を挟む。
青年の言葉で場が僅かに緩んだかと思えたがこの発言でまた張り詰めた空気に戻る。
「ワンズ様、アレやればいいんじゃないですか。手っ取り早いですよ。ここで牽制し合うのも無意味かと。」
空気に辟易としたのかゴシック調のドレスを着た女性がワンズに提案する。
「あまり身内に使いたくないんだけどねぇ・・・。」
“アレ”。それはワンズが『最強』たる所以の御業。
『相手の魂への干渉』。
「すまないが一瞬だけ我慢しておくれよ?」
―――――。
―――――――その後すぐ5人は解散となった。
結論として『掃除屋』は5人の中にいなかったのだがそのような結論に納得などワンズはしていなかった。
私の『能力』の秘密までバレてる・・。そう考えるべきだねぇ・・・。
5人は全員、ワンズの『魂干渉』をパスした。
これは敵対心などのワンズに対する負の感情を持った者には使えない。だからこれで炙り出せる―――――――“はずだった”。
この事実にワンズは静かに目を細め、事態の深刻さを重く受け止めていた。