第十七話 完成へ進む覚悟
※誤字脱字等はご報告いただければ幸いです。
飛行機の中、窓から眼下の白い流れを見つめる空真。
「なぁ・・・。そろそろこの飛行機で移動している理由を教えてくれないかローラントさん・・・。」
「敬称はいらない。理由と端的に言えば俺の研究室、つまりは世界秩序機関の能力科学部に行くためだ。他に質問は?」
空真は我慢していた苛立ちが表情に表れ始める。
「あるに決まっているだろう!なんで行くんだ!普通、行動は『目的』『理由』『経緯や意図』までがセットだろうが!」
「そう声を荒げるな。他の客の迷惑だ。」
「ていうか大きな組織の、それも役職持ちって専用ジェットとか民間機でもファーストクラス使うとかそういうイメージだが・・・」
ハァ・・・とローラントはわざとらしく溜息を付く。それがまた空真の神経の逆撫でする。
「最初に言うが俺は要領の悪い奴は嫌いだ。それを踏まえた上で理由を二つ教えてやる。一つ、あくまで個人の移動に機関専用機など使わない。二つ、これはお前のためだ。」
(要領悪い良いの問題ではなく話が遠回し過ぎないか?そもそも移動の理由に俺は答えてもらってない気がするのだが・・・?)
空真の心中など他所に、いや、見透かした上でローラントは更に溜息を吐き続ける。
「もうお前の『能力』に関する専用のテストが始まっているといことだ。お前・・空真だったか?現在いるこの区画―――機内Bブロックの乗客人数を言ってみろ。」
言いたい事はあるが空真は口答えより先に頭を動かすことにした。
意識を集中させる。肌に触れる空調の風、客の発する物音。それら全てを脳が感覚情報として収集し、そして演算が開始される。
その演算と世界中に存在する能力者が媒介とする『能力素粒子』が反応し個々各々の奇跡として事象が起こる。
空真はそうしてこの客席区画の全てを“視た”。
「・・・18人か?」
「やっぱりな。」
そう口を曲げながら、明らかに空真を小馬鹿にした態度をとり正解発表をする。
「17人だ。まぁこれでハッキリしたな。お前は――――能力を正しく使えていない。」
強烈な侮蔑を感じた空真は食い気味に反応する。
「いや、ちょっと待ってくれ!正しく使えていない?いやいや、最初は千里眼だけだったのに瞬間移動まで使えるように、更に連続移動までできるんだぞ!?これが正しく無いっていうのか?」
「ああ、正しくない。現にお前は間違えた。俺が座らせといたダミーを人間だと感知してな。」
「だ、ダミー?いやでも確かに呼吸していて―――。」
「当たり前だろう。本物として誤認できなきゃダミーの意味がないだろうが。」
まるで空真の全て見透かしたようにローラントは続ける。
「お前の『世界干渉系能力』の“感知”は視覚情報として伝達されている。意味が分かるか?“目”で“見た”ものとして演算されているんだ。だから視覚・感覚情報でわかる呼吸などに感知が偏り、本来見るはずの『電磁波』や『熱量』等から総合して判断できていない。」
空真はこの事実に驚愕、動揺を隠せずに口を開けてしまった。
彼は自分が努力し、研鑽した己の『能力』に自信があった。だから、今まで『掃除屋』を目指し突き進めたし、レイも『楽園』から救えた。
だがそれら過去の全てが“危うい土台”の上で繰り広げられていた事に心をキリキリと痛めた。
俺は、弱く未熟だ。
ローラントが言っていた“未成熟な能力”の意味が空真の心に今になって染み渡っていく。
「ローラント・・・、あなたには『全て』『視えている』のか?」
「無論だ。世界干渉系の最大の長所は他の能力系統よりよく『視えている』点にあるからな。」
「そうか・・・。」
ローラントから視線を外し、どこを視点に置くでもなく憂いた顔を見せる。
目標を、大義を盲信した空真は見えているようで何も“見えていなかった”。
「フン・・・。そんな顔をしても1つもメリットなど無いぞ。自分の“欠点”を持ち札に変えれない程度ではWOOでは無理だ。」
冷たく空真に現実を突きつける。圧倒的に未熟であるという現実。
が、これを空真は一切ネガティブに捉えなかった。
“欠点”を“持ち札”に。自分はまだ上に昇れる。未熟だが、『無力』ではない。
自分の目標。そして二度と目の前で悲劇を起こさせないという誓い。それらが空真をこの現実からも奮起させる。
この事実すらも糧に変える。
そう奮起した。
「着いたらさ。もう少し詳しく教えてくれないか・・・。」
空真の言葉にローラントは小さく微笑んだようにも見えたがそれは空真の見間違い、だったのかもしれない―――。
*
――――世界秩序機関 アメリカ支部 35階 特別会議室
ワンズを上座とし総勢6名が椅子に腰かける。
室内は幾度にも検査され盗聴、盗撮の類は不可能。更に政府相手にすら超極秘としている特殊なジャミングが室内という狭い空間限定で張られている。
この情報から隔絶された空間に呼び出されたのは5名。
ワンズを含め彼らはこう呼ばれている。
――――『Outer Six』と。
「集まってくれてありがとう。」
ワンズは和やかないつもの口調で労う。
が、5人には理解っていた。ワンズは確実に“キレて”いる。
「ワンズ様が緊急に呼び出すとハ。重要かつ差し迫った問題ですネ。」
ローブで全身を覆った者がワンズの意図を汲み取る。
「そうなんだよねぇ・・・。『掃除屋』の関係者と思しき『疾病屋ケビン』の件は知ってるわよねぇ?」
全員が頷いたのを確認してから続ける。
「そしてその護送が『失敗』したことも知ってるよぇ・・・?」
全員に話意図が伝わる。柔らかな口調から漏れる怒気と共に。
「この護送はね。“完全に極秘”だったのよ。政府のトップにすら教えていない、独立した情報により護送が決まったわけね?それがいとも簡単に襲撃され“失敗”した。あまり考えたくないけど―――。」
静寂の室内に言葉が奔る。
「――――『掃除屋』のスパイがいるねぇ。我々機関トップ層に。」
5名は動揺こそ表さないがその言葉に考えるところがあった。
そしてワンズの言っていることは正しかった。
いるのだ。WOOに『掃除屋』そのものが。