第十六話 あと『死』まつ
※誤字脱字等はご報告いただければ幸いです。
「さぁて・・・。どうしたもんですかねェ・・・。」
ゴキゴキと音を立てて首をかしげる動作を繰り返す『爆弾屋』。
その視線の先には大きな『混乱』とそれを『失敗』をさせたピアスまみれの男がいた。
「僕ら掃除屋はさ、あんまり失敗とかしたくないんだよねェ?わかる?」
椅子に座っている『疾病屋』が睨むが取り囲む男たちはそんなことは意に介さない。いや、『介す必要がない』のである。
椅子にただ座っているように見えてその実は座らされているというのが正しい。
彼らはその気なれば数秒で亡骸にできる。それは新入りのケビンもよくわかっていた。
「そもそもー、この子ウチらのことわかってるのー?久々の新人だから黙ってたけどどこまで理解してるか怪しくなーい?」
隻腕の若い女がダルそうに話す。だがその目の瞳孔は大きく開き、まるでご褒美を前に待たされている子どものようである。
「ボクは言ったんですよ。強くても『為すべき事』をわかっていないコイツはダメだって。」
「まーた!総長の前だからって良い子ぶっちゃってェ。エリオットくんもピュアだなァ。」
ルーカスの茶化しを受けエリオットと呼ばれた少年は眉を動かす。
それを察知してかルーカスも笑顔のまま指をメキメキと鳴らし、エリオットを見据える。
一触即発。ケビンにとってまさに鬼の饗宴を見させられているかのようであった。
「やめろ。」
倉庫内の暗闇に一人。この場で異質な気配を放っているものが言葉を発する。
―――殺気。いやそんな生易しい言葉では説明がつかない『暗く』『深く』『絡みつく』異質さ。
「お前らの余興は他所でやれ。今は―――――この阿呆をどうするかだ。」
逃げるか・・・?いや、無理だ。この男は―――、
「そう睨むな。言いたいことがあるなら言葉にしてみろ。」
「次元が違う・・・。」
ケビンの言葉に一斉に笑い出す男たち。
地獄の蓋が開いたかのような大合唱である。
「総長ー新人がビビってるじゃないですかー。もっと能力周波おさえておさえてー!」
キャハと隻腕の女は邪悪な黄色い笑い声交じりに『総長』と呼ばれた者に絡む。
「イラ立ちが出ていたな。失敬したよケビンくん。で、だ。」
言葉から棘が抜け異質な気も引いたはずなのにケビンの肉体からは汗が絞り出され身体が熱を帯びてゆく。
恐怖。それ故の興奮。肉体の決死の拒絶反応。
「私に殺されるのと、アーシャに殺されるの。どっちがいいかね?」
その言葉を聞き、呼吸すら忘れそうになるケビン。
ストレス。緊張。
総長と呼ばれる男の表情はフードで見えないが明らかに楽しんでいる。
『命を蹂躙することを楽しんでいる』。
ついに笑いが絶頂点に達したのか隻腕の女はケビンへ告げる。
「ありがとー総長!そろそろブチ裂かないと禁欲の限界だったのー!」
口角が不気味なほど上がり凡そ若い女がしない品の無い屈託な笑顔を見せる。
「待てっ!!俺は・・・俺は確かにしくじった!ああ認める!初見の相手に油断してやられた!アンタらの助けがなかったら今頃ブタ箱だ!!でも―――」
「でも、じゃないんだよケビン。」
総長は言葉を遮る。
「『掃除屋』の行動はエレガントかつパーフェクトでなければならない。ああ、もちろん各々好きなように好きなことをすればいい。この腐った世界をぶち壊すのに『欲望』というガソリンに火をつけ思うがままに振舞えばいいさ。だがね?」
ニヤニヤ笑いながら周囲の者たちはケビンを見つめる。
「思うがままにして失敗して周りに迷惑をかけるのは良くない。分かるか?我々のエレガントさ、パーフェクトさのブランドにまで傷が付くんだよ。それじゃあダメだ。身勝手をしている世の中の連中に『本当の身勝手』を見せつけないと。君のはね、まだまだ未熟な身勝手なんだよ。」
唾さえ呑み込めない。初めて感じる『死』より上位の恐怖。
ケビンは自分が狂ってると思った。だがそれでも。そうだとしても。
この目の前異常者よりは『マトモ』だと痛感した。
異常者、それも気まぐれに国をも落とせるであろう『力をもった異常者』。
「だからね、いらないんだ。捨てるにしても私たちの情報を持っているからね。そのままバイバイとは言えない。だから頑張ってくれたまえ。もしかしたらアーシャから逃げ切れるかもしれないさ。」
「ひひっひ!片腕の女の子なんかにチカラ負けしたら恥ずかしいぞー!」
一つしかない腕をぐりぐりと回し気合いが入ってるというわざとらしい意思表示をするアーシャ。
覚悟を決めるしかない。ケビンは恐怖乗り越えようと手に、足に、脳に力を入れる。
―――――その五体とは永遠に別れ離れになるとも知らずに。