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第十四話 能力者たちの意志

※誤字脱字等はご報告いただければ幸いです。


空真の二度目の発砲は、思いがけない人物の手で止められた。


「やめなさい空真。それ以上は死んでしまうわ。」


握り拳から弾丸が零れる。摩擦で手袋の内は焼け焦げ、クラリッサの手の平の肉は抉れ捲れていた。


「コイツが気を失えば能力も解除されると思った。それだけだ。」


「もう一度言うわ。死んでしまうわよ。」


「死んでも、能力は解除できると思うが?」



ああ、駄目だ。この子は、また何時(いつ)かのように憤怒に駆られている。何がここまで彼を動かすというの?『掃除屋』への憎しみの根が深いというの?



そのエメラルドのような瞳できつく空真を見つめる。


「やっぱり、『掃除屋』を目の前すると辛い?」


冷淡な顔が戸惑い、少し綻ぶ。空真は言葉を選ぶように応えた。


「辛い・・・ですね。ただ以前の辛さとは違うんだ。以前の辛さは、こう・・・拳を振り下ろしたい、ような。とにかくぶつけたい感情だった。でも今度のは違う。」


「・・・・・。」


「少し相手より能力(ちから)があるから、と短絡的に振るわれる力。それを何の因果も無く受ける人。それが目の前にして、我慢ならなかったんだ・・・。」


徐々にその顔に表情の機微が表れる。先ほどまでの淡泊な表情ではなく、哀しさと混乱が入り混じる、そんな顔であった。

まるで先程までの無表情とは別人であったかのような変わりようであり、僅かな不気味さをクラリッサを感じる。


「そう思った瞬間から糸が切れたように軽くなったんだ・・・。身体も超能力も、思考さえも。まるで、今までの全てに枷でもあったかのようで、え────?」


視界が赤黒く濁る。鼻は不気味な熱さを帯び、耳もゴロゴロと妙な音を拾い出す。


「ク・・・ラリッサ・・・、なに・・が・・・?」


顔に滴る何かを手で拭う。血である。


脳処理限界(オーバーワーク)ね。)


「横になりなさい。ケビンは私が拘束するわ。」


薄れていく意識の中で空真が見ていたのは、道を突き破り現れた何かに(ケビン)がグルグル巻きに拘束されていく姿だった。



あれは――――木の根――――?



浮かんだ疑問を最後に、意識は溶けていった。






「・・・・ふぅ。」


到着した局員への指示が終わり、近くの非常階段に腰を下ろし一息付くクラリッサ。

深い緑の髪から髪紐を外し、ツインテールをセットし直す。



そりゃあんな事すればぶっ倒れるわよ。



クラリッサは見ていた。能力による修復を終えかけた頃、同じくして空真がケビンを追い詰めていたのだ。



空間視覚(ノーブル・フェイク)連続瞬転(カレイドスコープ)』────超高速で幾度となく行われる瞬間移動(テレポート)。その発動の速度故に、移動と移動の感覚は音よりも短い。種は単純だけど一秒を争う場面では強力ね。ただ―――。



救急車両に運ばれて行く空真を見る。



使ったら倒れるような能力(ちから)は使わせるべきじゃないわね。後で言い聞かせないと。



「あまり無理させちゃあ、駄目だよ。」


唐突なワンズの声に背筋を伸ばす。何時(いつ)、如何なる方法で現れたのか。長い付き合いになるクラリッサでもそれは分からない。


「申し訳ありません。あたし自身も軽率に行動不能となってしまいました。いざという時は能力を完全開放するつもりでしたが────。」


「いいよ、いいよ。もしも時の為に私も控えてたんだから。・・・どうだい空真くんは?」


ゆっくりとクラリッサの横に腰掛ける。そのコンパクトさ故に妖精のようですらある。


「激情には流されていないようでしたが男との問答がきっかけでやはり・・・。ただ今までとは違うらしく、他人への見境無い暴挙への怒りで満ち、その直後身体や思考から枷が無くなるようであった、と。」


「ほうほう・・・。そうかい・・。『真理』に近付いたのかい。」


「『真理』・・ですか・・?」


口を曲げ疑問を露わにするクラリッサに対し、優しくワンズが答える。


「超能力者がこれ以上に無いほどの『想い』を抱くとね、肉体や脳の限界を超える事があるんだよ。その時に人間が行き着く先の事を『真理』と言うんだ。もしも長く、強く、『真理』と繋がれたら能力者はもっといろんな事ができるようになるだろうね。ただ────。」


ワンズの朗らかな顔が微かに曇る。


()()()()()は長く見るもんじゃあないねぇ・・・。」


普段は絶対に見せないであろう表情にクラリッサは一瞬、言葉が出なかった。

悲しみや怒りとは違う、恐れや怯えとも似ているがそうでもない。何とも形容し難い顔であった。


「局長は・・・、『真理』を見たのですか・・・?」


「・・・・どうだろうねぇ。ただ、クラリッサは第二階梯なのだし似た経験があるんじゃあないのかい?」


「・・・どうでしょう。六百年前の事なので余り覚えていません。」


(いささ)か棘のある言葉で淡泊に返す。

思い出したくない記憶がある、それが口と態度に出ていた。


「ふふふ、クラリッサは昔から正直だねぇ。それにしても、空真くんが人の為に怒り、『真理』に近付いたことは喜んでいいのかもしれないねぇ。」


陽だまりのような笑顔から心から嬉しそうであることが見てわかる。


他人(ひと)の為に自分の限界まで(ちから)を出すというのは並大抵の事じゃあない。私達のそれが日常だけど空真くんはそうじゃない。こういうのを『成長』と言うんだろうねぇ。」


「局長は、空真をだいぶ気にかけておりますね。何か理由が?」


「ああ、すまないねぇ。少し依怙贔屓が過ぎて見えるかもしれない。そうなってしまっていたら申し訳ない。・・・だけどこれは正真(しょうま)博士との約束なんだ。」


物憂げな顔を浮かべるワンズ。


「空真の父、ですか。」


「彼は私と同じように『平和』を願っていた。それは『掃除屋(彼ら)』によって潰されたように見えるけど、意志というのは未来へと繋がっていくんだよ。」


そう言うとよろよろと立ち上がり、埃を払う。


「それじゃあね、クラリッサ。空真くんへのお見舞いにも行ってあげてね。」


そのたどたどし足で車へと歩いて行く。その姿を誰が見ても秩序機関の最高戦力(トップ)だとは思わないだろう。



ワンズ。「人類の特異点」「究極の個」等の様々な異名を持つ世界秩序機関の最高責任者であり、公式で唯一第三階梯に到達した超能力者。年齢不詳、能力不詳の老女。誰にでも優しい人。誰よりも気高い人。そして───。



咎人のあたしを導いてくれた人────。

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