刹那
夕方四時半。
小学校から帰ると、自分の部屋に荷物を置いて、宿題をやり、リビングへと向かう。
大好きなアニメが始まるのは五時。
それまで遊んで待とうと思い、ブロック一式の入ったナップサックを持って、テレビのある部屋に行く。
細かいパーツが雑多に入ったナップサックをひっくり返して、お気に入りのパーツをつなぐ。
今日は、お城でも作ろうか。
ワクワクしながら、夢中になって、組み立てる。
大きめの、お城ができたあたりで、アニメのオープニングの曲が流れ始めた。
私は、完成したばかりのお城を抱えて、テレビの前に移動しようと、足を踏み出した。
その刹那。
足元に乱雑に広がっていたブロックに、私の足が、取られる。
バランスを、崩す。
アニメのワンシーンが、目に焼き付く。
お城を持ったまま、勢い良く、転んだ。
みしっ・・・
「う、うわ、あああああ!!」
私が転んで、起き上がるまでの短い時間。
スローモーションのように、時間が長く、長く感じた。
思えばあれが、私が初めて感じた、タキサイキア現象だったのだ。
わたしは、左腕の骨を、ぽっきりと折ってしまった。
二ヶ月に及ぶ、不自由な生活。
あれからもう何年もたつというのに、はっきり思い出せる、あの瞬間。
あの時見たアニメの画面は、主人公の姉が、でっかいお金を、見せびらかしていた。
あの画面が頭にこびりついていた。
姉妹の繰り広げる、ドタバタバイオレンスアニメ。
内容も覚えていないというのに、ずっとその画面が記憶に残って、いた。
そんなある日。
たまたま、娘が懐かしのアニメを見ていた。
懐かしいなあと、ただなんとなく、見ていた。
見て、いたのだけれど。
あの刹那が、私の中で、動き出す。
あの画面の、続きが。
私の前で、動き出した。
ああ、あのお金は、こういう話だったんだ。
一人騒ぐ私を、娘が訝し気に、うかがう。
おかしなテンションが、私を包んだ。
こんなに何年もたって!
あの画面の続きが見られるとか!
まさに奇跡!!!
でもそんなに面白くない!!!
あは、あはははは!!!
長年私の中で止まっていたあの画面は、今頃になって、結末まで見届けることができた。
少しだけ、左手が、痛いような、気がしたけれど。
多分それは、気のせい、だね。