第7話
第7話「昼休み」
次の日の朝、副担任の先生から竹林先生が死んだことを伝えられ、これから全校集会が行われることになった。
ネットやテレビのニュースになっていたことでほとんどの人が知っていたらしく、さほど大きな騒ぎは起きなかった。
集会では竹林先生がどのような人物だったのかを語られ、そして数秒間の黙祷を捧げて閉幕となった。
自分たちのクラスに戻る際の廊下でも誰も彼も喋らず、昨日の騒ぎっぷりとは打って変わったかのようだ。
「通夜って感じだな」
「その通りだろう。竹林先生の通夜だよ、これは」
クラスに戻ってきたのを皮切りにして崇之が話しかけてくる。
当然のことながら話題は竹林先生のことで始まり、その時ふと昨日のことを崇之に話していないことに気づく。
「タカ。俺と夜刀宮は先輩に協力することにした」
「まぁ、あんなに反対しても相手は先輩だからな。結局こうなるんだ」
「タカはどうする?」
「行くさ。俺だけ除け者ってのは嫌だぜ。日奈にはちゃんと埋め合わせするつもりだし」
「…………そうか。心強いよ」
「任せろって! それにこんな嫌な事件が解決しないんじゃ遅くまで日奈と遊べねぇからさ」
自分の胸を叩き、自信満々に宣言する崇之の強さに、彼がモテることに納得する。
自分に自信を持っていることからこそ生まれる余裕というべきか。そんな所がきっと男女ともに受けるのだ。
そしてこんな男が惚れる彼女とはどんな人物なのか気になるが、恐らく良い人なのは間違いないのだろう。
「まったく。こんな朝から惚気とは」
「そう言うなって。それより今日の放課後から始めるのか? どういう予定?」
「昨日帰りながらの話だとな」
まず一回目は放課後校内に残ることが出来なくなってしまったため、昼休み中に竹林先生に関わる生徒などから聞き込みをすることになった。
時間が限られているため分かれて聞き込みをし、放課後にファミレスに集合して情報共有を行うとのこと。
三年に関しては先輩が行い、二年に関しては自分と崇之、一年での噂に関しては夜刀宮が担当する。
「昼休みが少なくなるのか。ユウは弁当か?」
「今回はコンビニで買ってきた。タカは?」
「弁当。早弁するから問題ないけどな。しかしこれじゃあ探偵みたいだな」
「俺の家系には名探偵なんていないぞ?」
「先輩の家系にはいるかもしれないじゃん? まぁよしっ。方針が決まったんならいいよな。これで心置きなく授業に集中できるぜ」
「寝るなよ?」
寝ない寝ない、と笑って返事をしながら自分の席に戻っていく崇之は、それから数分後には夢の中へと旅立っていった。
~~~~~~~~~~~ チャイム音・昼休み(夢岸&小原) ~~~~~~~~
早弁をした崇之を連れて、まずはクラス内の人物に話を聞くことにしたのだが、男子に訊いても大した成果は得られない。
女子には崇之が質問をすることで口を滑りやすくしてもらったが、それでも大した話は聞けなかった。
そもそも生徒指導を担当していることと、自分たちの担任が決まっていたことぐらいしか情報としてはない。
ならばと、ここ最近に指導を受けた生徒を探し出したほうが早いと結論づけ、その方面で話を訊いてみれば―――
「それなら三島さん、とか」
――――思わぬ人物が耳に届く。
自分の席の隣、そこに座っていた人物が話に出てくるとは思わず、崇之と目を合わせて話をさらに訊く。
「三島さん? そう言えば今日は見てないな」
「今日は体調不良で休みって言ってたでしょ? 崇之くんってばまた寝てたの?」
「HRは寝る時間でしょ? っていうより、三島さんは何かしたの?」
「詳しくは知らない。けど地味目の子だから何か変なモノでも持ってきたとかじゃないのかな?」
その女子から他に聞けたのは三島さんの所属する部活くらいで、あとは特になかったのだが次の情報へと繋がる糸口は手に入った。
他にも情報はないかと他クラスにもお邪魔し、以前に同じクラスだった者にも話を訊けば、結局のところ何人かの候補は見つかる。
しかし、そのどれも同じ部活動に所属するというのはどういうことなのか。
「美術部、か」
「美術部だねぇ。どうして生徒指導のカリスマが、部活動で一番健全そうな美術部の部員を指導室に呼ぶんだ?」
「分からない。でも、ちょっと嫌な感じはする」
二年だけではこの程度の話しか聞けなかったが、他の先輩や夜刀宮に期待するしかないようだった。
崇之も同じ疑問を持ったまま、どうしたものかと思案していると予鈴のチャイムが鳴る。
もうそろそろ自分たちの教室に戻らないといけないと、時間を確認するため携帯の画面を見れば少し前に夜刀宮から電話が入っていることに気づく。
「夜刀宮から電話?」
「夜刀宮ちゃんから? かけてみれば?」
「もうやってるよ」
~~~~~~~~~~~ チャイム音・昼休み(夜刀宮) ~~~~~~~~~~
何故かあまり味を感じないお弁当を食べ終えて教室内を見渡してみれば、昼休みの前からザワザワと、昨日から騒がしく教室内に幾つもの悪態を吐くクラスメイトたちがいる。
確かに知らない他人が自分たちに風評被害をもたらしたということなのだろうけど、それも自分たちから見た一方的な意見のように思える。
相手への思いやり、配慮など何も感じられない言葉の数々にユウ兄ぃなら長い溜息を吐いているのだろうか。
「仕方がない、のかな……」
「どうかしたの、夜刀宮さん?」
自席に座って呟いた言葉に前の席に座ってた高校に入ってからの友人、干葉さんから声をかけられる。
眼鏡をかけて大人っぽい彼女は周りに気を配れる優しい人で、すぐに仲良くなれそうだと思えた人だ。
「干葉さん。いや、その」
「言い難いこと? それなら無理には」
「そうじゃないんだけど……でも、ううん。何でもないの。それより干葉さんは部活動とか入るの? なにか決めた?」
「美術部。の予定だったんだけど……知り合いの先輩と連絡取れなくて」
「そうなの? 知り合いの先輩って三年生?」
「いいえ。一個上の二年生。幼馴染っていえばいいのかな」
確かに上級生は進学などが控えた三年は大変だと思うけど、二年生であるユウ兄ぃや小原さんには会えている。
だとしたら二年生、というよりも美術部というのが怪しいのではないだろうか。
部活については案内を受けていない新入生である私たちには分からないことが多いが、上級生であるユウ兄ぃたちなら何か事情も知っているかもしれない。
「私もユウ兄ぃ……先輩の知り合いがいるから何か知ってるか訊いてみようか?」
「本当に? 迷惑じゃなければお願いしてもいい?」
「もちろん」
昨日のうちに連絡先を交換しておいて良かったと安堵しつつ電話をかけてみるが留守番へと繋がってしまう。
出ないのか、出られない状況なのかは分からないけれど今は連絡が取れないみたいだ。
朝の全校集会では三年も二年もいたのだから、事情があって今は取れないのかもしれない。
「ごめん。今は連絡がつかないみたい」
「夜刀宮さんも? 二年生に何かあったってワケじゃないわよね」
「それは気にしすぎだよ。朝は集会で集まったんだから」
「そうよね。気にしすぎ、よね……」
干葉さんは携帯の画面を見ながら呟き、とても心配そうな顔をしていた。
励まそうと何かかけられる言葉を探していると予鈴が鳴り、もう昼休みが終わってしまうことを知らせてくる。
困っている人が目の前にいて、力になってあげれない時ほど歯痒いものはないと思う。
何か少しでも力になってあげたいと思っていると、突然に携帯が鳴りだす。
パっと画面を見れば、ユウ兄ぃの文字が表示されている。
まるで想いが通じたような気がして、すぐに通話にでる。
「ユウ兄ぃ……!」
「『すまない夜刀宮。電話に気づかなかった。それで何かあったのか?』」
「えと、その。そう! 実は訊きたいことがあって」
「『ああ。手短にな』」
ユウ兄ぃに干葉さんから聞いた美術部の先輩と連絡が取れないことを話すと、ユウ兄ぃは少しの間沈黙する。
「『……夜刀宮。その干葉さんという人の連絡先を交換しておいてくれ』」
「え? う、うん。分かった」
「『詳しいことは放課後話す。その子にもあまり心配しすぎるなと言っておいてくれ』」
その言葉を最後に通話は切れた。
画面には本鈴まで一分前ということもあり、電話をかけ直すことは出来そうにない。
詳しいことは分からないけれど、ユウ兄ぃの声を聞いて安心している自分がいる。
だから少しだけ勇気を持って干葉さんに話しかけた。