05-1 宿主、村を蹂躙した悪いゴブリンヘッド
読み切り。
出会った頃の娘っ子と新人坊主は似た歳だったな。でも娘っ子とは5年程度の歳月が経過している。ふむ、姉さん女房……になるといいね。
新人坊主は恋愛には奥手というか、女性に慣れていない。口説くと言っていたが、ヘタれないか心配だ。
ああ、プロローグか?
今回の転生先って廃村なんだよね。しかもドンピシャで壊滅ホヤホヤでしたよ。今はスライム売りの店頭から脱出して、死屍累々の村を敗走中。ゴブリンが追いかけてくる。スライムなんて美味しくないよ!
○ ○ ○
意外にいけるな。流石、多数のギフトホルダーでありコレクターだ。
はい、ノーマル1匹が限界です。魔力も乏しいスライムに連打は無理。新人坊主に偉い口を叩いていた最弱クリーチャーだよ。今は倒したゴブリンの直腸に避難中。同族より人間の方が美味しいらしい。
今は無事。
人口は30~50人程度の村だったか? 100に近いゴブリンには無力だったようだ。村の戦闘員なんて手で数える程度だろう。あ、指がない。
ゴブリンの糞で回復中。うーん、下っぱっぽいからか、あまり食ってねえ。次に外出たら弱魔法1発分かな。地味にピンチ。まあ、生きてる宿主がいないと飢えるから今世は詰んでる。
ちょっと僕を整理しよう。
・スライム輪廻転生
・ギフト複写+10
これらは僕の存在を構成する元だな。スライム輪廻転生があるから来世に期待。これで現状はクリアなんだが今世を足掻いてみたい。
ギフト複写は+10と重ねてはいるが、直ぐに複写可能なだけ。あ、宿主のギフト強化にも使えるが僕がいないと意味なくなるから使ってないな。
・称号「勇者」
・称号「薬剤師」
・称号「兵士」
・称号「蛮族」+10 New
この称号系のギフトは重複するとあまり適応されない。という事で僕には無用なのだ。唯一重ねれば効果が増幅するが、現状は無意味。次の宿主に使えるかな?
蛮族はゴブリンが持ってた称号だ。サバイバル生活に補正があるぞ。能力的には野に帰った兵士かな?
・魔法「火・水・氷」
これがスライムな僕の唯一の攻撃手段。手足もないし、肛門すら切れないソフトボディ。僕には魔法しか殺傷能力ないよ。しかし超コンパクトボディには魔力は少ないのだ。無双は無理だよ。最弱クリーチャーの名は返上不可だ。
・鑑定
・透視
・意志疎通
感覚系のギフト。これらはバッチリ使える。調べものの鑑定、直腸から外を見る透視、相手とのコミュニケーション手段の意思疎通。僕が宿主と交流し、僕が役立つのに必須。今は無意味。
・剣術 New
・棒術+10 New
・投術+10 New
人型技能系のギフト。剣術は新人坊主から、棒術と投術はゴブリンから。これらは手と足、二足歩行の生物に無理のない技能系として分類できる。新人坊主も簡単に扱えたので分類を分けた。スライムボディには無用。
・疾走
赤毛の狼から得た未分類技能系ギフト。一応は宿主なら使えるが、細マッチョは無理していたな。四足獣のギフトを二足で扱うにはバランスが悪すぎる。今後も増えるかもしれないので未分類とした。スライム……(泣)。
・精力強化+10
・身体能力強化(統合)
┣・腕力強化+10
┣・脚力強化+10
┣・体幹強化+10
┗・体力強化+10
・魔法能力強化(統合)
┣・魔力強化+10
┗・魔法強化+10
パッシブギフト。ごく少量の魔力で各種強化が出来る。+10だと最大効率で上がるだろう。ゴブリンにはこの種類しかなかったのだが、まだ見ぬゴブリンもいるので種類は増えそうだ。ゴブリン集落には掘っ立て小屋も建てていたし、技術強化とかありそうな予感。スライムには魔法能力強化が活きているが雀の涙(涙)。
よし、分析しても手札だけじゃ改善は見込めないな。機会を見てどうにかしないと飢えて死ぬ。
○ ○ ○
生物は寝る。無防備になる。野生なら物音1つで起きるだろうが、ゴブリンはゴブリンだった。この村を襲ったゴブリンの統率者は未熟なのだろう。夜番が少ないし、その夜番も寝てる。
チャンス!
モヒカンや強そうなのは避けて、潜って食事。侵入時に「グギョ!?」と言われるが熟睡が正義なのか気にされない。一晩に10件は不法侵入したぜ!
拾い物に『魔法「土」』と『技術強化』があった。建築班のゴブリンだろうか。野良には存在しなかった。ちゃんと能力至上主義なのね。住み家を作れるゴブリンは優遇されるらしい。
人間と死んだゴブリンを食らい尽くすのに3晩過ぎた。だがこのゴブリンの群れは動かない。家屋という快適な寝床が気に入ったようだ。ここを拠点とするらしい。
○ ○ ○
寝たらモヒカンでも上位種っぽいのも熟睡だった。不法侵入可能。サクッと100に近いゴブリンを網羅したぜ。で、安住かは怪しいが統率者っぽいゴブリンに住み着いた。
拾い物列挙。
・魔法『土+2・風』
・技術強化+4
ちなみに統率者っぽいゴブリンのギフトは称号「蛮族」だった。野蛮な物理攻撃と少々傷んだ食べ物もいける補正あり。モヒカンすら扱うので上位種だろう。見た目は普通のゴブリン、鑑定ではゴブリンヘッド。モヒカンを卒業したゴブリンらしい。
元人間の集落はゴブリンの集落へと変貌を遂げた。周囲から獲物を狩っては僕に……じゃないゴブリンヘッドに献上され分配されている。大物のときはゴブリンの数が減るが、スライム並みに増える。2匹減ったら3匹は産んでるかも。
鑑定で目星を付けて、赤ちゃんからギフトを得ようと狙うが、欲しいギフトは産まれない。何が欲しいかは僕にも分からないけどな。
そんな日々は突然崩れる。
○ ○ ○
まあ、閉鎖的じゃなきゃ他の村や町とも交流はあるよな。交易なんて盛んに行わないと不足するものもある。それが途端に途切れるのだ。調査されるよね。
はい、冒険者達に蹂躙されています。100対40か? 数は優勢、質は大の劣勢。敗走濃厚だが、ゴブリンヘッドは先頭に立つ。
いや、無理っしょ。対峙するは新人坊主。全く勝てる気がしない。が、ここで師匠と呼ばれた僕だ。組手くらいはしてやろう。命懸けだがな。
セット、『称号「蛮族+10」』、『棒術+10』、『身体能力強化(統合)』。勝てないけど、いけっ! ゴブリンヘッド!
新人坊主は他の冒険者の声援の中、攻めあぐねていた。
「師匠? スライム師匠でしょ! どうして!」
(ふっ、強くなったな。今世の身だ。悪いスライムごと倒せ)
「こんな強化くらいで負けるわけがない! 知ってるでしょ! 強化を止めて下さい! 救い出しますから!」
(今世の僕は悪だ。殺らなければ殺るぞ!)
「くそっ! 無駄に強い! 手加減が……師匠ー!」
流石にまともに食らうと怖いな。強くなった。優しいのが弱点になりかねんが、合格だ。
(心配するな。師匠らしく組手が出来て嬉しかった。さらば)
「…………師匠のバカ野郎!」
* * *
告白のため向かう道中に立ち寄った町で、1つの村が滅んだとの一報を受けた。ゴブリンで数は100。もう冒険者の編成は組まれていたが立候補に快く参加させてくれた。
まさかの出会いだった。師匠と対峙するとは。スライムに選べる人生は少ないだろうとは思っていたが、この仕打ちはない!
ゴブリンヘッドなんぞ数え切れないほど倒してきた。それがいつかのゴブリンキングモヒカンに相当する強さを持つとは師匠しか考えられない。これは僕への手向けだ。分かっているのに手が鈍る。
(今世の僕は悪だ。殺らなければ殺るぞ!)
スライム師匠は善だ! 僕は世界を敵に回しても声を上げるだろう。僕が対峙するまでは普通のゴブリンヘッドだったのだから。皆が華を持たせるために一騎討ちの状況を作っただけだ。
師匠が望むとあれば、涙を飲みます!
「望みとあらば見せます! 『雷帝』!」
「「「おおぉーーー!!!」」」
急に強くなったゴブリンヘッドに援軍が入ろうとしていた。これは僕の役目だ! 師匠の下手な愛情を誰にも譲らない!
(心配するな。師匠らしく組手が出来て嬉しかった。さらば)
「…………師匠のバカ野郎!」
堪えたのに、涙が流れた。
スライム歴 5年11月~6年1月
エピローグ 6年1月
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