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04-2 宿主、新人坊主な冒険者

前後編の後編です。

 新人坊主は律儀に誘ってくれたパーティーに1年ほどソロで修行すると伝えて歩いた。好感は上々。気にするな、いつでも歓迎、等の暖かい言葉を貰った。


 ああ、下心のある奴は僕が省いた。打算な奴には返事なんて要らん。


 ゴブリン。これらは何処にでもいる悪鬼だ。一番ポピュラーなクリーチャーとも言える。人里の被害の半数はゴブリンと言っても過言ではない。故に統治者は常時ゴブリン討伐の依頼を出す。


 新人卒業してもゴブリン討伐なんて当たり前。もう、ウジャウジャいる。目的のクリーチャーを狙いに行って、手土産はゴブリンの討伐証明部位なんてよく聞く話だ。


 ゴブリンはピンキリ。油断もできない。


 被害の多さは繁殖力。ウジャウジャいる理由だ。溢れるから森を出て人里に降りる。強いゴブリンは縄張りで餌を得るので、人里に降りるのは追い出された弱いゴブリンだ。モヒカンゴブリンは追い出された中では強い方。


「目指すは集落壊滅ですね」


(ああ、目標は高く設定するが最終的にだ。先ずは野良のゴブリンで称号「勇者」を馴染ませていくぞ)


「はい、スライム師匠」



  ○  ○  ○



「リュックが臭い」


(まあ、かさ張らない耳とはいえ血が滴っている。いい釣り餌だ)


「確かに。同族の死体なのに食いますからね」


(スライムも共食いはする。クリーチャーでは当たり前なのだろう)


 新人坊主は成長が早い。称号「勇者」との相性がよく、特に剣術には自身のギフトもあり吸収がとても早かった。


 新人坊主はスキル『勇者剣術』を覚えた。


 僕の利益も大きい。ゴブリンは小型の人型だ。ギフトも狼と比べて人間との相性もいい。更に多様性がある。普通のゴブリンですら見分けつかないのにギフトは違う。個性があって僕のギフトコレクションが潤う。


・称号「蛮族」

・精力強化

・腕力強化

・脚力強化

・体幹強化

・体力強化

・魔力強化

・魔法強化

・棒術

・投術


 特に多いものを順に並べてみた。目指すはオール+10。同一ギフトは10個まで重ねられる。順調に新人坊主にも還元してるぞ。称号以外は重ねるのは大丈夫だからな。


「スライム師匠! 精力強化は外してくれ!」


(その歳でダメなのか? なおさら……)


「現役だよ! 使い道ないから不要だって! 処理に困る!」


(最近はゴブリンキラーとして儲けているし、夜の街に行けばいいのにな。見もしない娘っ子に恋するなよ)


「い、い、い、いいだろ! スライム師匠の語る娘っ子さんは理想の女性なんだよ! 献身的で、身内思いで、シャイな弱点もあるけど、懐に入れば大切にしてくれる優しい女性。理想だよ!」


 新人坊主には見ず知らずの娘っ子を語ったら惚れてしまった。今の原動力でもある。強く優しい男を目指すそうだ。


(今日は撤収だ。魔法にも力を入れろ。数が多いと怪しいぞ)


「うっす! 雷は人前禁止ですよね。今日はギルドで氷にチャレンジします」


 魔法は伸びが悪い。だが、範囲攻撃がないと集落は無理だろう。先はあと7ヶ月だ。



  ○  ○  ○



 新人坊主はスキル『魔法「雷・火・水・氷」』を覚えた。


 相性のいいのは雷。しかし、帯電で死んだ過去があるので僕が体内にいると使えない。放出系を網羅したら、ライトニングブレードとか、オリジナルスキルの雷神竜脚、その辺りを僕抜きで修行した。感電死は危ないよ。


 一番遅れて覚えたのは氷。触ったことがなくイメージが掴めなかった。スキルへとなるには苦難を強いられた。まあ、センスがいいので期限内には覚えたがな。


 新人坊主はスキル『強化』を覚えた。


 流石の+10なギフトは数日でスキルへとなった。統合されて最大出力は減ったが、柔軟に強化できるので勇者剣術のサポートに特別な恩恵がある。個々の強化だと流れるようには強化が難しいが、統合された強化での剣術は目では捉えられない。


 新人坊主、強くなっちゃった。


(免許皆伝。まあ、スライムに言われたくはないか)


「スライム師匠の鑑定による適切な助言の賜物です!」


(スキルには数値で表せない強化があるようだ。使えば更に磨かれるぞ)


「うっす! 師匠のギフトによる万能感にはほど遠いので、それを目指して修練を積みます!」


(じゃ、僕に勇姿を見せてくれ)


「はい!」



  ○  ○  ○



 森に入って3日。目的の場所が目前だ、が。


「くっそ! きりがない!」


 ゴブリン集落は全てのゴブリンが集落に集約されている訳ではない。斥候も居れば、見回りもいる。頂点からカーストが出来上がっているようだ。流石に突っ込めば迎撃される。


「『凍てつく霧(フローズンミスト)』! からの『連鎖雷撃(チェインライトニング)』」


 撒き散らした氷の粒を伝い、縦横無尽に雷撃が駆け廻る。新人坊主が考え付いた対集団戦の十八番だ。氷は電気を通さない? 答えは魔法だ。思い込み(イメージ)で案外何とかなる。


 千に届きそうなゴブリンの集落住民。1年前まで新人だった冒険者が挑む規模ではない。だが、もう半数以上は転がっている。


「親分が出てきたね。へぇ、圧が違うな」


 小柄な悪鬼であるゴブリンには見えないな。小兵の力士くらいはある。生産能力が稚拙なゴブリンなのに随分と厳ついツヴァイハンダーを抱えている。年季から略奪品の1つだろう。ゴブリンキングモヒカン。


「いざ、尋常に勝負!」


 なんて叫ぶ新人坊主だが、あっちには尋常な勝負はない。囲まれる。これは小規模なゴブリンの群れでも起こす行動だ。折り込み済み。ゴブリンキングは赤毛のモヒカンを揺らしながらツヴァイハンダーを縦横無尽に振るう。取り巻きは空いた面から流れ込んでくる。


 新人坊主は冷静だ。ゴブリンキングのツヴァイハンダーとモヒカンを綺麗に正面から捌き、取り巻きは目配せだけで発動する雷で行動不能へと変えていく。しかし、一進一退。スタミナを考えれば先に倒れるのはこちらだろう。


(使え。僕は十分に生きた。来世に行く)


「嫌だ! 寿命を全うさせる! 看取るんだ!」


(看取る前にお前が死ぬぞ。最後に僕に勇姿を見せてくれ。な、オリバー)


「ここで名前を呼ぶなんて……スライム師匠! 来世でもお達者でいてください! これが師匠の鍛えた僕の全力です!」


 魔力が膨れ上がる。これだけでスライムボディは苦しいんだよな。


「師匠からお借りした『勇者』の姿です! 『雷帝』!」


 おぉ、感じる力が凄まじい。全身に雷を纏った真っ直ぐな一閃だ。


 確かに見届けた。


 オリバー、強敵(娘っ子)倒せよ(落とせよ)



  *  *  *



 僕は何故こんな場所にいるのだろう?


 師匠を失ってから失意の中、ゴブリンキングモヒカンの赤毛のモヒカンを討伐部位にと冒険者ギルドに提出したのが始まりだろう。


 もうお祭り騒ぎで揉みくちゃにされ、何故か特別枠で王都の年末武道大会にエントリーが決まり、直ぐに始まった武道大会で雷帝を使ったことが原因だろうか?


「スライムごときを師匠? 敗けた時の言い訳か?」


 決勝での騎士団長の煽りに我を忘れた。冷静に考えれば、何故師匠をスライムと知っていたのか? その時は全く考えになかった。


 祝勝会で主役になった僕は王様直々にお褒めの言葉を貰ったが全く嬉しくなかった。その後に案内された部屋に僕はいる。王様が見ている、王様の隣にいた威厳ある貴族の人もいる。不釣り合いな庶民が執事服を着たような男もいる。この男が何故か話しかけてきた。


「雷神竜脚は使えたか?」


「いえ、スライム師匠に学びましたが、習得には……えっ?」


「あー、詫びと礼が言いたかったのにもう旅立ったか」


「あの! スライム師匠をご存じなのですか?」


「ああ、心と命の恩人だ。王様、公爵様、私はこれにて控えさせていただきます」


 一礼をして引く執事風庶民な男。公爵様らしい人が男の弁護をしてから話しかけてくる。男はやっぱり庶民の出で礼儀は付け焼き刃だったようだ。


「オリバーよ。そなたが言うスライム師匠とやらは我が愛娘の恩人でもある。赤毛の熊、デッドリーグリズリーの一件を知っておるな」


 有名すぎる。手負いでありながら千の正規兵を退け、万の出兵にまで騒動が発展した。その頃にスライム師匠と出会った。お祭り騒ぎには師匠は興味が無いようだったが、まさか!?


「深手を負わしたのが、この当家の庭師であるルーナスだ。その一撃は娘が大層に語ってくれたよ。ルーナスはそれ以降は力を失った……いや、借りていた力を失くしたと言うべきか」


 師匠。


「そちよ、王家に仕える気はあるか?」


 王様!? 本気か?


「騎士団長を退けた武勇を持つのに謙遜するか。答えは如何に?」


「僕にはやるべき事があります!」


「なんじゃ? クリーチャーの王、魔王でも倒すのか?」


「女を口説きます! 師匠が娘っ子と呼ぶ薬剤師に恋をしています! 師匠も娘っ子さんが独り身を貫くのではと心配していました。僕が娘っ子さんを幸せにするのです!」


「…………ぶはっ! ははぁー、難攻不落のアンジェか。ここで繋がったの。我が息子ですら口説けはせんかった。「スライムさんより格好いい人」とか「スライムさんの帰る場所を守る」とか言われて、我が息子ながら情けない失恋をしたのにのう」


「まさか、次期王様の王子様がですか?」


「そうじゃよ。流石に側室だが、王宮で薬学にも貢献して欲しいという打算もあっての。破格な条件はスライムさんへの想いに敗けたのだよ。そして今度はスライム師匠に負けるか」


「うっ! 大変な失礼を……」


「いや、よい。件のスライムへの褒美じゃ。時々は力を貸してくれんかの、勇者オリバーよ」


 違う! この勇者の力はスライム師匠のものだ! これだけは誰にも言わせたくはない!


「力は弱き民のために! 僕は勇者じゃない! それが条件です。この身、要請あれば即座に参上しましょう」


「そちの言葉はわしが直々に交付しよう。まあ、結果は見えているがな」


 極秘の謁見も終わり、何故か数日は公爵様のお客として持て囃された。特にお嬢さんがライバル心を露にしている。理由は王様の交付。


 武道大会優勝者オリバーは勇者にあらず。しかし、勇者剣術に雷の魔法の所持は王家が保証する。決して勇者ではない。


 勇者じゃないけど勇者の力は認められてしまった。混乱を避けるために公爵様のお客扱い。公への牽制らしいが、「竜脚の勇者の方が強いのー」と屋敷でお嬢さんが荒れている。ルーナスがその度になだめているのは和むな。


 スライム師匠。


 僕は強敵に挑みます! 必ず娘っ子さんを幸せにして見せます! だから勇気ある者を少しだけお借りします!


 さあ、口説き落とすぞ!

スライム歴 ~5年10月

      エピローグ 5年12月


宿主のネタを募集中です。

作品紹介の説明文も募集中ですw

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