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02-2 宿主、娘っ子な草刈り少女

前後編の後編です。

「ひゃい! ふろーずんみすとぉ!」


 凍った世界……にはほど遠いが、眼前まで迫っていた赤毛の狼は躊躇いなく娘っ子の首を狙っていた。そう、突き出した掌が発射口、氷の魔法を口を開いて受け止めたのだ。


「ぎゃふぅ!」


 赤毛の狼の突進は相殺できず、勢いで情けない声を出して娘っ子が押し潰される。赤毛の狼が復活したら終わり、気絶以上なら逃げれる。が、娘っ子が潰されて身動きとれない。思わず目を開けたようだ。


「いぃ~やぁ~! 食われるぅ~!」


(落ち着け! 起きたら本当に食われるぞ!)


「んぐん~! ………………はぃ(ボソッ)」


 強引に自分の口を押さえて叫びを止めた。なんとも芸が細かい。まあしかし、あの叫びでもピクリともしないな。赤毛の狼は娘っ子のお腹で泡吹いてる。しかし、息がある。気絶以上、賭けに勝った!


(娘っ子、赤毛の狼に止めだ)


 のそのそと狼から脱出して息の荒い娘っ子を急かす。いつ起きるか分からんからな。


「いぃ~! 殺らないとダメ?」


(採取用のナイフで首を刺すだけだ。殺らなければ死ぬ。それだけだ)


「はぃい! えいっ! えいっ! えいっ! ………………」


 躊躇うくせに躊躇いがない。ひと突きは浅いが何度も執拗にナイフを振り下ろすので滅多刺しだ。うん、透視でも鼓動が消えたのを確認できた。


(もういいぞ。死んだ。娘っ子の勝ちだ)


「えいっ! えいっ! えっ? ふぉお~! 凄いぞ、私!」


(さて、僕も褒美を貰うか。少し出るぞ)


「はい? スキルが出るの? そんなのど……あふん♡」


 久々の外界だ! 娘っ子が尻を擦っているがコンパクトボディな僕はそこまで太くない。切れ痔にもならないぞ。柔らかいソフトボディでもあるからいつもより肛門へのダメージはない筈だよ。


「あのー、スライムさん。失礼なこと考えてます? 私のギフトは言葉じゃなくても近くでなら感じますよ」


(いつもご馳走さま)


「不潔!」


(スライムを取り込んで平然としている人間も十分な不潔だ。むしろ浄化するスライムの方が清潔だな)


「意味違うし! それで、スライムさんのご褒美って何ですか?」


(死んだけど、いけるかな?)


「スライムさん!?」


 お、この赤毛の狼はいいもん食ってたな。娘っ子は貧乏だから偏りがあるんだよな。肉質の糞なんて久々だ。っと、目的、目的、っと。よし、ゲット。脱出。


「ああ、私より死んだ狼の方が価値があるのかと思いましたよ。見捨てないで下さい!」


 不潔と言いつつ赤毛の狼の肛門から出てきた僕を即座に抱えるとは。やっぱりスライムは清潔なボディだよな。つるんと潤いのある肌だよ。しかし、やっぱスライムちっさ。娘っ子の片手の掌でも余裕あるピンポン玉サイズ。


「それで、お食事ですか?」


(いや、ギフトを複写した。娘っ子の力にもなるぞ)


「スライムって稀に自身のギフトを強化すると聞きますが、複写って?」


 かくかく、しかじか、まるまる、っとギフト複写を説明。魔法が使えたのも僕のお陰だよってね。勇者になりたい?


「いや、いやいや、いやいやいや、無理だよ!」


 見事な否定っぷり。なら、薬剤師? 薬草摘むの好きだよね。


「あのー、さりげなくバカにしてますか?」


(冒険者がクリーチャーにビビって出世があるのか?)


「お先真っ暗ですよ。スライムさん、助けて」


 直腸の住人に助けを乞う娘っ子。極貧だもんな。先ずは帰るか。この死体は獣やクリーチャーを寄せるだろう。娘っ子も慣れぬ魔法で疲弊してるっぽいしな。もう一戦しとくか?


「帰ります!」



  ○  ○  ○



「あの狼、売ったら高かっただろうなぁ」


(漏れなく強さを見出だされての勧誘合戦、もしくは獲物を横取りした冤罪だな。実力に見合わない物なんて持つな。草刈り少女で有名だろ?)


「はい。有名です。時々、同情で女性冒険者に奢ってもらえるくらいに」


 安宿の一室、治安が比較的良いせいで最安値ではない。ベッドしかない部屋で娘っ子の一人芝居中だ。だって直腸の方が安らぐんだ。


「スライムさんが言うには半年以内にスキルを身に付けることですね」


(そうだ。僕のギフトを使う。そうすれば早く自身にスキルとして現れるだろう。その傾向は他人のギフトとスキルを見ていると顕著だ)


「鑑定すごい」


 大まかに汚物処理施設で1~2ヶ月、娘っ子の直腸生活1ヶ月、2~3ヶ月は今世を過ごしている。その間に透視と鑑定、娘っ子を通じての意志疎通のギフトで情報を集めたんだ。


 生まれ持ったギフトに左右される者は多い。剣術なんてギフトだったら、スキルにも剣術。剣術を支える強化系のパッシブスキルも生えてた。魔法強化のギフトだったら、他の魔法を得意とする者より多くの魔法を得ている。


 これらは恵まれており、上位の冒険者に多い。逆立ち上手とか言うギフトの冒険者だっている。それでも軽戦士として身軽な動きを得意とするスキルを覚えていた。


 先天性のギフト、後天的なスキル、繋がりはある。


 娘っ子に相性の良いスキルはなんだ? となる。


「戦闘は無理なので、手に職が欲しいです」


(僕の手札(ギフト)には非戦闘系は鑑定と称号「薬剤師」。透視もあるが索敵やらに使ってて手に職とかで考えるとスパイか? おお、鑑定と透視で探偵とか出来そうだな)


「スライムさんは意地悪です。薬剤師になりたいです! 草刈り少女から薬剤師はとっても自然です!」


(今まで通りだが、意識して使ってみろ。あと、薬剤師なら冒険者ギルドを卒業して商業ギルドに行くんだろ?)


「そうです。露店で売るにしても許可がいります。問題は準備資金がありません。当面は草刈り少女のままです」


 薬草を刈って薬にする。投資はゼロではない。薬を入れる容器は消耗品で、先に調合する設備もいる。明日の身はスラムな娘っ子には難題だな。


(奢ってくれた女冒険者に相談してみろ。夢を語ってやれ)


「…………はい。恩を仇で返すようで申し訳ないですが、相談してみます」



  ○  ○  ○



 ここからは面白いほどに転がった。女冒険者が贔屓にしている薬局が年寄りだそうだ。調合すら目が悪くて怪しいらしい。真面目な商売で固定客は多く、双方が嘆いていたのが現状らしい。


 先ずはそこの目となった。鑑定を使い、品質をしっかり見極め、年寄り薬剤師の仕事をサポートする日々を続けた。ただ鑑定を使うだけではない。自分で見極め、答え合わせで鑑定を使う。


 娘っ子は先ず『薬剤鑑定』とスキルを得た。


 その頃に老夫婦の優しさに娘っ子は耐えかねて、正直に僕を紹介する。「私の仕事は借り物です」と。老夫婦は捨てるどころか養子にした。寒村から口減らしで捨てられた娘っ子は新たな家族を得た。


 人生の目標、この薬剤師老夫婦に安心の老後を。普段の調合はもっぱら娘っ子へと移され、老夫婦はお客に「私達の孫が作った薬」を自慢と笑顔で売っていった。


 娘っ子は『薬剤調合』のスキルを得た。


 喜びは喜びを生み、意欲へと繋がった。称号「薬剤師」から得られるヒントを元に、魔法「火・氷」を駆使して細部に渡る調合に目覚めた。老夫婦が聞く患者の容態に合わせた様々な調合を繰り返す。


 娘っ子は『魔法「温度変化」』のスキルを得た。


 転機は突然に。王宮からの指名依頼。病名が不明だったが、博識の老夫婦の診察を元に娘っ子は無理難題を乗り越えた。「この薬局、王家御用達」の看板を掲げることとなり、娘っ子の人生は磐石となる。


 娘っ子の『薬剤調合』は『特級薬剤調合』のスキルへと昇華した。



  ○  ○  ○



「ねえ、スライムさん」


(なんだ?)


「男の子でしょ」


(ぶふっ! いや、僕は悪くないスライムだよ)


「えっち」


 この娘っ子、入浴を覚えてからは必ず僕を清める。いつから知っていた? 至福のぽよぽよは娘っ子の温情だったのか。恥ずかしい。と言いつつ今もお風呂タイムだ。とても丁寧に、丁寧に、慈しむように、清めてくれる。


「あー、いい男がスライムで、もう、お別れ、なんですよね」


(ああ、もう食べる力がない。世話になったな)


 スライムの寿命は1年。あれから1年弱を娘っ子と過ごしてきた。拾われる前を考慮すると1年となる。


「ねえ、スライムさん。結婚しよ」


(死に際に告白か? 未亡人に憧れでもあったか)


「茶化さないで」


 目が真剣だ。紳士に本心を伝えよう。


(駄目だ。娘っ子は意外に頑固だ。将来、いい男と結ばれてこの店を僕が死ぬまで子々孫々と繁栄させるんだ。僕の輪廻転生の生き甲斐になる)


「うっ、ううっ、振られたよ~」


(じゃあな。娘っ子……いや、アンジェ、長生きしろよ)


「またね、スライムさん」



  *  *  *



 私は、娘っ子で、草刈り少女で、どこにでも居る少女だった。


「おいアンジェ。作り過ぎだ。売り切れないぞ。はぁ~、またスライム師匠を思っていたのか」


「ごめんなさい旦那様。どうしても調合に没頭すると思い出すの」


「確かに量を頼まれたが、はぁ、明日にでも足りないのは採ってくるよ」


 私の旦那様。通称が勇者なの。何でかって? 勇者剣術に雷の魔法を使えてとっても勇者の特徴を持ってるのに、称号がないの。でも、冒険者として急成長して、噂が広間って、みんなに「勇者」って呼ばれてるのよ。


 うふふ。スライムさん、何処に居るのかな? 旦那様は「スライム師匠」って呼ぶけど、勇者に鍛えるスライムなんてスライムさんしか知らないわ。


「ママー。どう?」


「80点。ちょっと温めすぎたね。火傷してない?」


「だいじょーぶ。おじーちゃんが治してくれたー」


「今度は火傷しないの! ママ、悲しい」


「ママー!? 泣かないで! お、おばーちゃーん!」


 あー、幸せ。旦那様には内緒よ。お爺様にお婆様、旦那様と子供達が今一番好きだけど、スライムさん、いつか迎えに来て。


 私、悪い子なのよ。思い人はずっとスライムさん。浮気かしら?


 うふふ。あー、不幸せな幸せだよー。

スライム歴 ~2年3月 

      エピローグ 12年10月


宿主のネタを募集中です。

作品紹介の説明文も募集中ですw


ここからはのんびり投稿です。

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