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02-1 宿主、娘っ子な草刈り少女

前後編の前編です。

 あうー、どうしよう、やっちゃうの?


 Gランクの底辺冒険者にはスライムを買うお金なんてないよー。宿代だって怪しいのに、そこに「臭い糞したのテメーか? 追い出すぞ!」なんて言われたら。言い分は分かるわ。だって、臭いうんちは疫病の元だもの。


 ええい! スラムは嫌! 身を売る度胸もない! なら、やるしかないのよ! いけ、私! 犯罪はこれだけよ!



  *  *  *



 はい、スライムです。名前っている? 名前って相手に認識されてようやく意味があるんだよ。同僚は沢山いるが意思疏通は無理。


 僕はスライム。名前はない。


 これでいいんじゃね? ああ、現状を理解しよう。同僚はスライム。巨大な肥溜めで厳重に管理された囲いの中で放し飼いだよ。どうも肥溜めを堆肥にする施設らしい。濃度が薄いんだよね。食っても食っても空腹が満たされないよ。


 更に状況把握。出入りする人や、透視で囲いの外を見ると、一種の浄化施設っぽい。汚物処理施設な。んで、大半は一度スライムが食ったスライムの糞だ。ここは完全に堆肥へとするためにスライムの糞を更にスライムに食わせているっぽい。


 こんな施設は周囲に複数ある。集積場だろう。大体に複数のスライムがいる。汚物を持ち込む人も、堆肥になった糞を持ち出す人も、尻を厳重にガードしてるから寄生できねぇ。


 一生、飼い殺しかよ! 家畜か?


 満たされぬ空腹が心を殺しに来るぜ。あ、そういえばちょっと面白いスライムの生態を発見。飢えたら共食いする。危うく食われるかと思ったよ。ふふん。称号「勇者」は伊達じゃないね。同族には遅れはとらん!


『ギフト複写+10(MAX):寄生先のギフトを複写する。宿主も使える。(MAX:複写速度と宿主共有に補正大)』


 共食いしたらスライムのギフトがとっても進化したよ。宿主が居ないのが残念。これ以上は上がらない様子。もう何十もの同僚をこの手にかけたか。旨味はとても少ないがな。


 この共食いが始まると肥溜めが一掃される。完全に堆肥になってるからね。肥溜めを空にしたら新たな餌、糞が運ばれてくる。この間が同族殺しの地獄と化す。


 でもね、スライムって減らないの。新たな餌があればポンポン増える。そりゃもう分裂だよ。童貞失う前に自己完結な体になってしまった。僕の子? 何匹か食っちゃった。あと我が子は人拐いにもあった。


 生まれたてって少し小さいの。それを選って人が拾っていく。大きいのはダメらしい。脱出が出来ねぇ。ああ、何か分裂するときに我が子に稀にギフトを要求されるんだよね。ギフト複写を与えて、ぽいっ。


 貴重なギフトは与えねぇぜ!


 そんな家畜ライフを送りつつ、このまま老いて死ぬのかと心が荒んでいる今日この頃のスライムです。



  ○  ○  ○



 転機は突然に。


 薄暗い早朝に何とも無防備な女の子が来たではないか! ここでは革の繋ぎじゃないとお尻が危ないぜ!


「****」


 転生のご都合な言語理解はなかった。知ってる。ここの従業員の言葉って全く理解できないんだよ。情報にも飢えてんだよ! 食っちゃ寝の生活は暇なんだよ! ここから出るぜ!


 という訳で、問答無用に寄生させてもらう!


「**!」


 居並ぶ同僚スライム達を押し退けて、ガードの甘いスカートへと潜り込む。足を伝ってするりとお尻に吸い付く。ん? ここからどうする? ええい、本能の赴くままに! 突入!


「**~!!!」


 ふぃー。初めての寄生だぜ。元男としては初めてが女の子で嬉しいよ。この環境なら男でもチャンスがあれば襲っていたな。


 透視で外を見ると、スライム達は退散……しないよなぁ。ええい、僕の居場所、この直腸は死守する! 入ってくんな!


「お尻、いやぁ~!」


「おい! そんな薄着で何してるんだ!」


「ごめんなさ~い! 魔が差しました! 許して~!」


「ちょっと我慢しろよ。そらっ!」


 おぉ、これはスライム忌避剤ではないか。効かなーい。僕はもう直腸に住んでいるからね。他の同僚……いや元同僚なスライム達は退散したよ。あれって臭わないくせに臭い! スライムでも臭いを感じるとか何の成分だよ。


 バケツでスライム忌避剤の液体を被った宿主の女の子はびしょびしょだ。染み込んだりしないよな? あれってホントに嫌なんだよ。


「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」


 土下座で謝る宿主。どうしたんだ?


「あー、俺が当直で良かった。他の奴なら問答無用で……嬢ちゃん、体は大事にしろ! スライム窃盗は結構キツい罰があるぞ」


「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」


「好きに輪姦(まわ)されて、引き渡し処分だってある」


「ひぃ! ごめんなさい!!!」


「中に居るんだろ?」


 はい。僕が居ます。寄生って居心地いいんだよー。もう出たくない。


「お返しします! どうか許して下さい!」


「いや、見逃すからさっさと逃げろ。一匹くらいならバレりゃしねぇ。それに追い出すっても死ぬかもしれんぞ。こいつを飲むんだ。エゲつなく苦い毒だ。止めとけ」


 マジで!? せっかくの宿主が死ぬのか? いや、ここで2点。見逃すという朗報。毒であるため忌避剤は人は飲まない。これは十分な情報だ。一回寄生()んじゃえば取り出すのに命がけ。安心だ。


 好意に甘えろ!


「えっ! あっ、はい! この度は大変申し訳ありませんでした!」


 土下座中の土下座で謝る。僕も中で敬礼……した気分で見上げる。


「娘を持つとな、甘いんだよ。次はないぞ! そら行け!」


「はい、失礼します!」



  ○  ○  ○



 それから宿主の少女と一緒に行動する。まあ寄生してるからずっと直腸滞在中。量は少ないが良質なご飯が流れてくるので嬉しい。量が少ないから分裂もする気配なし。


 この娘っ子はファンタジー定番の冒険者、の端っこの底辺らしい。ギフトが絶望的に無意味らしいが、僕には天恵。いやさ、途中から声が理解できただろ。あれあれ。あれってこの娘っ子のギフト。


『意志疎通:対象の意思を理解する』


 言語理解って言うラノベ転生のお約束とは少し違うんだよね。具体的には言葉とそれに乗る感情すら理解するらしい。そのせいで他人の悪意や下心に敏感で人間不信。万年ソロで今もソロで仕事中。


「うーん、最近、薬草採取の効率が良いのは何でだろう?」


 あのあとからずっと薬草採取の日々。見かねて『鑑定』と『称号「薬剤師」』を宿主に適応中。だが気付いていない。何となく見分けるのが楽で、何となく有効そうな薬草が分かる、って程度の効果はある。無意味ではない。


「スキルでも覚えたかな? 神殿の寄付って高いから調べるのは無理だよ」


 とまあ、こんな感じで適応中のギフトにすら気付かない。借り物のギフトは人間側には「あっ、覚えた」みたいな反応はなかった。調べることは可能らしいが、寄付という調査料が必要のようだ。


 あっ、やべ! 今回のは速い!


(直ぐに町に逃げろ!)


「あっ! はい! いつも、ありがとうございます!」


(礼する暇があれば足動かせ!)


「ひゃい!」


 この娘っ子、僕の存在を不思議スキルと思っているようだ。ああ、ギフトと違って後天的に覚えるのをスキルと言うらしい。くっ、今回のは捕捉している上に足が思いっきり速い。透視の限界距離で補足できたのに逃げ切れそうにないな。森の木々を無視できる透視の利点だな。


(木に登れ! 逃げ切れない!)


「むーりー!」


(食われて死ぬぞ! 出来ないなら戦え!)


「なおさらむーりー! 狩りが出来たら薬草なんて採ってないよ!」


 いつも見かける狼とは違う。捕捉する距離も広いし、群れで慎重には動いていない。ソロの狼で赤毛とは初めてだが、この娘っ子を殺すのは惜しい。どうにか逃げるか撃退の手段を講じないと不味い。が、娘っ子は戦闘したのを見ていない。冒険者は討伐依頼って多いのにな。


 一発勝負といくか!


(娘っ子よ、僕に命預けるか?)


「私ってそんなにヤバイの?」


 鈍足で息を切らしながら叫ぶ。


(ああ、何もしなければあと数秒の命だ)


「はいぃ!? 助けて下さい!」


 即答か。


(足を止めろ。怖いなら目を瞑って振り返れ)


「ひゃい!」


 目が潰れるほどに閉じ、振り返る。角度よし。


(掌を前に突き出せ)


「ひゃい!」


 セット、『称号「勇者」』、『魔法「火・氷」』。これで未熟だが勇者の力が乗る。森に火を放つわけにはいかないので火は使えない。勇者の雷も同様であるし威力が弱い。称号系は大器晩成だ。鑑定があって良かった。調べ物が楽でいいよ。


(唱えろ! 凍てつく霧(フローズンミスト)だ!)


「ひゃい! ふろーずんみすとぉ!」


 前方の森が凍てついた。どうだ!?

スライム歴 元年4月~


宿主のネタを募集中です。

作品紹介の説明文も募集中ですw

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