01-1 異世界転移、そしてスライムへ転生 (被害者の男子中学生)
読み切り感覚の連載です。
よろしくお願い致します。
前略、僕は意思あるスライムとなった。
ん? 説明が足りないと。
人間って地球の環境に則した生物だよね。空間が歪んで落ちた世界がちょっとだけ地球の環境とはズレていたようだ。満員電車の各々は全員が森に放り込まれて、窒息して、死んだ。
ん? まだ足りないか。
いわゆる異世界転移だ。だが、無意味に大量殺戮されただけの転移に終わったのだ。空間が真っ黒に歪んで電車ごと森にドッカーン。そして徐々に息が苦しくなって、死んだ。
ん? スライムになった流れか?
密閉された満員電車は扉を開けるまでは無事だったんだよ。その苦しくない状況で恩恵、ギフトと呼ばれる、まあ魔法やスキルの類いである、ラノベあるあるなよく分からない超常現象を得たわけだ。
んで、満員電車の客であった各々は「あっ、何か覚えた」って反応が多数あったから全員が何かしらのギフトを得たらしい。僕は「えっ、なにそれ?」となったのがスライムになったギフトだ。
『スライム輪廻転生:死んだらスライムとして生を受ける』
とまあ、死なないと発動しないし、死んだらスライムな人生が待っているだけのスキルだ。各々の中には「よっしゃー! 勇者だ!」と言っていた男子中学生もいたが、窒息してその辺りの死体の山になってる。
おお、転移勇者よ。窒息死とは情けない。
この異世界転移、何がしたかったんだろうか? 天災か? どうも人類未踏の地のようだが、勇者召喚とか、神の不手際とか、そんな反応は一切感じない。放置されて、死んだ。
さて、このスライムでどう生きよう?
○ ○ ○
腹が減った。燃費は悪いのか? それとも小動物のようにこまめに摂取の必要があるのか? 疑問は尽きないが、飢え死にしてもギフトが死を許さないらしい。意識すればギフトがあるのが分かる。
あっ、スライムにもギフトがある。
『ギフト複写:寄生先のギフトを複写する。宿主も使える』
寄生だと? んー、前世の意思があるからか、スライムの本能が曖昧で分からん。スライムは寄生生物なのか? 寄生生物って宿主不在で生きれるの? とりあえず、飯食いてぇ。
しばらく死体の山を見つつ徘徊する。食事があるかも。それにしても人間の死骸を見ても嫌悪感がないのはスライムのせいだろうか? 色々と垂れ流してる可哀想な死骸だぞ。僕の心は死んだか?
あ、スライム本能がこれだと訴える。が、僕がそれは止めろと訴える。あー、寄生先って人間なのか。
ええい、スライム人生だ! 輪廻転生で餓死を繰り返したくはない! 食ってやる! んぐっ。味覚がないのだけが救いだ。精神的嫌悪は前世を引きずっているからだ。死骸が無事なんだ、食え僕よ!
人間の排泄物を!
数人の直腸へと侵入して食事した。途中から無心で食っていたよ。排泄物を食って排泄物を出す。うーん、ミミズか? スライムの生態はミミズっぽくて人間の排泄物を食うと。
しかしなあ、大量に人間はいるが、死んでる。勇者な男子中学生も死んでる。老いも若きも、男も女も、みんな死んでる。新たな排泄物を生んではくれない。
おおう。スライムっぽい考え方してるじゃん!
人間は餌を作る寄生先。そんな考えだ。寄生先がないなら移動。寄生先が安定なら定住。そんな事を思いつつひたすら肛門から侵入して食う。
○ ○ ○
食事が無くなった。
正確には寄生先として認識できなくなった。どうもスライムは死体漁りではない様子。死骸は野生動物とクリーチャーが美味しく頂いている最中だよ。本能が死肉を求めていない。あー、あれだ。食糞ってやつだと理解している。
(鑑定)
『スライムの糞:哺乳類の糞を食べたスライムの糞。微生物減少。堆肥に優れている』
ってな感じだ。ついでに自分を鑑定しようか。
(鑑定)
『スライム:クリーチャーの一種。人間社会で唯一の益獣。戦闘能力皆無。宿主、特に人間と共生しているクリーチャー。スライムは人間の糞を好むように人的に品種改良されている個体しか存在しない』
急に鑑定なんて使うな?
ああ、ある一定期間であれば死骸にも共生扱いになったの。それでギフトをコピーしまくった。食事のついでだ。だから6つほどギフトを複写できたよ。
ほい、リスト。
・スライム輪廻転生
・ギフト複写
・鑑定 New
・称号「勇者」 New
・称号「薬剤師」 New
・魔法「火・氷」 New
・透視 New
魔法は統合されたよ。勇者を覚えたのは運だね。どうも死骸は鮮度重視。同時期でも共生が適応されなかったのも居た。しかし困った。ここはどこで、僕はどこにいる? 人里でも入れば、益獣として扱われるのだろうか? 戦闘能力皆無。ここの死体漁りの獣達に食われるのだろうか?
そういえば、人型がいたな。ファンタジー定番のゴブリン。獣と一緒に死体漁りしてる。グロいので待避しているが、餌になるだろうか? 生きた生物に寄生する方がいい筈だ。定期的に排便するからな。
よし! 目指すはゴブリンの直腸寄生だ!
○ ○ ○
四つん這いで人肉を喰うゴブリン。嫌悪感は薄い。スライムだからな。しかし、ゴブリンの排泄物を食うと言うことは人肉か。今更か。尻をむき出しで好都合。レッツ直腸!
うぉ!
気配には敏感でした。危うく潰され……ました。僕、南無。
* * *
通学だりぃ。
進学校だから早く行けって理由はわかんねぇよ! 大学? まだ中学だぞ! もう大学の話かよ! 今日は席を陣取れたし、隣の姉ちゃんに触れる肩が柔らかいし、ちょっと得した気分だが……学校サボろっかな。
なっ!?
突然の暗転にビックリした。地震と停電が一緒に来た感じだったぞ! 隣の姉ちゃんがクッションになって無傷で柔らかけぇ。起きようと思ったが姉ちゃんが気絶してるっぽいから堪能。
称号、勇者?
はっと我にかえった。停電は復旧したみたいだけど、地震だぞ! 避難行……動……!? 森の中? 通学路に森何てないぞ!
これは、もしかして、異世界転移!
やっぱりだ! 俺が勇者だ! 握ったこともない剣も振れると分かる! 魔法も、あはっ、定番の雷だってよ! 面倒なのは称号には修行パートが必要なことだが、関係ねぇ!
「よっしゃー! 勇者だ!」
思いっきり叫んじゃったが気にならないね! ドアを潜れば俺が勇者だ!
!?
苦しい? 息が詰まる?
ちょっと待てよ! そんな理不尽ありかよ! 俺が主人公だろ! 息が出来ないなんてどうしろってんだよ!
苦しい! 誰か! みんなも?
苦し!
嫌……だ……たす……け……て…………。
スライム歴 元年4月
スライム歴は主人公がスライムになってから始まります。
スライム歴は元号と同じ計算なので1月1日がスタートではありません。この世界の季節と月日は日本の四季をイメージしています。