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真夜中のアリス  作者: 夕桜雛瀬
Scean1 AIice
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雨とうさぎと①



「約束しよう。

僕はずっとずっと、君の傍にいるよ。

だから、もう泣かないで。

….僕のアリス」



*真夜中のアリス*



目を閉じて思い出されるのは遠い昔のような、近いような曖昧な日々。

胸をほんわかと陽だまりのような暖かさで包んでくれるような優しい思い出たち。

そして隣には何時でも貴方はいるの。


穏やかな眼差しとふわりと風にのってゆらめく綺麗な黒い髪。

優しい手つきで髪を撫でてくれる大きな掌。

そして、はにかんだ時の照れたような笑顔。

名前を呼ぶと「なあに?どうしたの」とわたしを見て優しくうなづいてくれるテノールのような暖かみのある声色。


貴方を形成するもの総て。全部全部、大好きでした。



唸るような携帯のアラームのバイブ音とサァサアと窓に降りかかる雑音がやけに不愉快で、閉じていた目を嫌々ながら開ける。


「…“僕のアリス”って…。」


ファンシーすぎるだろ、あたしの夢。

そんな風にひとりでツッコみながら覚醒。全体的にメルヘン気味なそれにげんなりし、そして落胆する。ああ、今日も目が覚めてしまったのかと。

カーテンから覗くと更に強いものになっていた季節ハズレの雨は、どうも今日も降り止みそうにはなさそうだ。


除湿機をかけ忘れたらしい、湿気が部屋中に充満していてやけに暑苦しい。額に手をやればじんわりと汗が滲み出ている。それがひどく不愉快なのだけれども気怠さが拭えず身体を起こす気も何かを飲食する気も起きない。


「…そろそろ起きゃなんないんだけどなー」


サァサァと降り続ける雨音の中に独りきり。自分以外、誰も存在しない空間の中での独り言。言葉はそっと空気に溶けて消え去る。


「(…そうやって、あたしも誰にも気付かれないように消えてしまえればいいのに)」




大好きだったあの人が消えてしまった。

消えたというよりも、彼に魅了された女の死神が手招きをして、あちらの世界へと招待してしまったにちがいない。

そうじゃなければ、あの人はそう簡単にあたしを置いていなくなるはずなんてない。

あの人がいなくなった日から、ずっと雨が降り止まない。事実を受け入れる事を拒んで、涙を流せないでいるあたしの変わりに空が泣いているかのように。


『元気を出して』


『辛いけれど いつまでも悲しんでいるとあの人も悲しいままだよ』


あの日から、周りはそういった類いの言葉ばかりをかけてくれる。あたしを叱咤激励するために。

いつの間にかそれは、脳にインプットされて、いつもひょんな時にそれは再生され、リピートされ続けている。

それを理解出来ない程子どもでもないし、けれど割り切れるほど大人でもない。


けれども何故かあの人がいなくなったのかどうしても思い出せない。思い出したくても鳴り止まない頭痛がその先の記憶の邂逅を妨害する。だからあたしに突きつけられたのは結果でしかなく、その結果の因果とか真実が中身のない空洞だからこそ到底納得も諦める事も前にも進むことなんて出来ないでいる。


「…ヤバイ。もう起きなきゃ間に合わない」


渋々起き上がり、仕度を始める。鏡に映る自分の姿に改めて絶望する。パサパサでボサボサな上に枝毛ばかりの茶色と黒が混ざり合った長い髪と、ひどく瘦せた顔。確かに最近あんまり食べてなかったからなぁ。痩せて逆にラッキーかもと少し納得して冷水で顔を洗う。

軽く化粧を施して服を着替える、今日は学校とバイトだけだし、パーカーとジーンズでいいか。

そうこうしつつ、朝の情報バラエティを流し見しながら、コーヒーを用意する。

そんな当たり前の行動、変わり映えのない日常。ふと虚しくなる。あの人がいなくても、世界は時間は歩みを止めることなどない。いつまで悲しんで過ごすことは赦されない、そう言われているようで。


「あ、メールきてた。やばいやばい。」


チカチカと点灯しているそれに手を伸ばせば、宛先は大学の友人。何やらレポートを提出しなければだけど、間に合わないなら写させてくれ。…か。

携帯を弄り、返信する。早く返してやらなきゃ彼女はきっともう藁にも縋る思いだろうから。


「『いいよ。今から出るから学食で待ち合わせしよう。ジュース奢ってね』…これで良し。

行きますか」


コーヒーを一気に飲み干し、鞄を手に取り授業までには充分過ぎる時間だが家を後にする。降り続く雨の中を、濡れないように急ぎ足で歩く、やっぱり雨は今日も止みそうにない。



「瑠衣ちゃんありがとうー!命の恩人!!」


早めの登校からの数時間たったいま、人混みが激しい学食の一席。盛大的に感謝の言葉を告げるのは、親友であるつかさだ。


「大袈裟だって!別に大したことじゃないし、気にしないで。ていうか、つかさにしてもらったことの方が多いしさ」


そう告げてジュースで手を打った筈なのにお礼だからと昼食まで奢ってもらい、授業開始までのあと30分のランチタイムを楽しむ。うちの大学の学食、低価格でありがたいけれど味がイマイチなんだよな。と本音を隠してたぬきうどんを口に含む。


「きっと瑠衣ちゃんのことだから、またご飯食べてないだろうなと思って。」


「…ご名答。食事するの面倒くさくて。」


確かに昨日は朝から何も食べてなかった。未だに睡眠欲ばかりが強くて、他の欲など全く芽生えてこないのだ。あの日からずっと。


「…瑠衣ちゃんのペースでいいと思うよ。でも良かった、学校来てくれるようになれて」


そう言って微笑むつかさに苦笑いで返す。


「…ありがとう」




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