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 小夜はぐっとこらえた。

 本音を言えば、大声をあげて、地団駄をふんで、のどの枯れるまで泣きだしたかった。

 すずと草多のうっすらと赤い頬が、まぶたの裏に残像をつくって、消えてくれない。


 こがねに光る風車が、カラカラと回る。ななめから射す夕焼けで、ひょっとこやおかめ、狐の面が青影をつくりながら、静かに鎮座ましましていた。

 そんななか、人の高揚とかずかずの出店のにおいもしり目に、いまこうして祖母に手を引かれているのは、ほかでもない、天神さんに参るためであった。


 これは代々続く、子供には面倒な、ならいである。天神さんへのお参りがすまなければ、祭に参加してはならないのだ。

 小夜も例外なく、面倒にするひとりではあったが、お参りさえすめばあとは自分の天下だということも、また習慣上よく知っていた。


 すでに大分萎えた気持ちを、なんとかして持ち上げようと、出店にあふれる駄菓子のかずかずを思い浮かべて、神妙に手を合わせる。お決まりの五穀豊穣の感謝と家内安全、忘れてはならない小夜の琴の上手を願う(察しはつくだろうが、祖母は後者を切に願った)。


 面前にかまえる、白木のよい香がするこの社殿は、今日ばかりは化粧をして開放してある。

 小さな社だが、殿内は意外に奥まっていて、幾重にも御簾(みす)を下ろしている。そこへ色とりどりの飾り紐がたれ、雅な光景であった。

 ご神体の鏡は、ほの明るい灯火が照らす、御簾のつらなりのその奥にある。榊の若木と、今年獲れたばかりの作物が鏡の前に据えられている。


 この村の天神は、お国でも一、二をきそう麗しいご尊顔という伝説があり、おもに女子の幸をねがう社であった。

 まわりをぐるり見渡すと、言うにたがわず、小夜の幼友達のちらほら。さきほどの姉衆たちの姿もある。


 いまがいちばん美しいさかりの、華やかな姉衆たち。そのさなかに、頬を朱にちらしたすずを見出すと、たちまち小夜の不機嫌がもどってきた。駄菓子の魅力も、けなげな努力もあっけなく崩れ去った。


 先輩格の娘たちになにごとか囁かれ、またさらに頬を染めるすずを見て、はじめて、暗い思念が沸きおこる。提灯のうす明かりにあてられたすずの顔が、ふだんより、いっそううつくしく見えたのも不快だった。小夜のなかに棲む黒いものが、うごめいてさわぎだす。


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