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短編集  作者: タカ
中学生:藍×智樹
4/6

御守り 望side

「田口高校どうするんだ?」

「俺?県外の高校からスポーツ推薦もらってるからそこにしようかな~って思ってる」


ある日、放課後教室に行ったらこんな会話が私の耳に飛び込んできた。

私は教室に入らずにそのまま踵を返した。

それから数ヶ月。


「こら!いつまで本を読んでるつもりだ!」

「…」

「白川!聞いてるのか!」

「え?」


本を読んでいた私の耳に先生の怒鳴り声が入ってきた。

私が本から頭を上げると先生が顔を真っ赤にして私の傍に立っていた。


「あの…」

「『あの』じゃない!今何時だと思ってるんだ!」

「え…?」


私は図書室に掛けられている時計に目を移すとすでに7時を回っていた。

私は本を閉じて立ち上がり先生に頭を下げた。


「すいませんでした」

「お前受験生だろ?こんなゆっくりしてていいのか?」

「その…息抜きのつもりだったんですけど」

「まぁいい。早く帰れ。最近不審者が出てるらしいから」


私は先生の言葉に頷いて図書室を出た。

校内に残っている生徒は私だけなのか、職員室以外は電気がついていないようだ。

私が下駄箱で靴を履き替えていると廊下を歩く音が聞こえた。

そちらを向くとスポーツバッグを持った田口君が立っていた。


「あれ…、白川?」

「…」

「…白川だよな?」

「あ、うん。覚えててくれたの?」


私が言った言葉には意味がある。

私はクラスでも影が薄く恐らく学年でも一握りの人しか私の名前は知らないと思う。

だから、学校で知らない人はいないっていうほど有名な田口君が知っているとは思わなかった。

なのに私の言葉に田口君は笑みを浮かべた。


「そりゃ、同じクラスだし。でも、違ってるかと思って焦ったよ」


田口君は私ににこやかに話しかけてきてくれた。

田口君はとても明るく私とは正反対だ。

水泳部で県大会で入賞してそして、成績も優秀。

特に長所もない私とは本当に正反対だ。


「じゃあね」


私はそれだけを言って田口君から離れようとしたけど田口君に引き止められた。


「いや、ちょっと待てって。白川って家どっち?」

「え?」


私が家のある方向を言うと田口君はまた笑みを浮かべて私に近づいてきた。


「同じ方向だから途中まで一緒に帰ろうぜ」

「え?」

「帰りの会の時に先生が言ってただろ?不審者が出るって。だから、送ってく」

「え?でも…」

「どうせ帰りの方向は一緒なんだし一緒に帰ろうぜ」


田口君はそういってすぐに昇降口を出た。

昇降口を出たところで田口君は私に向かって手招きをする。

私が急ぎ足で田口君の横に並ぶと一緒に歩き出した。

帰り道で田口君が私に話しかけてくれるけど私は『うん』とか『ううん』とかしか返せなかった。

でも、田口君は笑顔を絶やさなかった。

途中にある公園で私は田口君に声をかけた。


「あの…」

「何?どうかした?」

「ここ…」


私が公園を指差すと田口君はさっきまで浮かべていた笑顔を消して驚いた顔をした。


「ここ…?」


私が頷くと田口君は公園のほうを見た。

もう日が暮れているので公園の中の明るさは少しだけ立っている外灯の光だけだ。

私は苦笑いを浮かべて田口君に手を振った。


「ここでいいよ。ありがとう」


そういって私は公園に向けて歩き出した。

数歩歩くと田口君が私の横に並んできた。

私が驚いた顔をして田口君のほうを見ると田口君は笑みを浮かべていた。


「むしろこっちのほうが危ないだろ。俺も行っていい?」

「う、うん」


私が頷くと田口君はまた嬉しそうな笑みを浮かべた。

公園で私が周りを見ていると田口君は不思議そうな顔を浮かべた。


「…白川何探してるの?」

「えっと…」


私が答えようとするのと同時に私達が立っている茂みの近くから音が聞こえた。

田口君がビクッとするが私はゆっくりと茂みに近づく。


「お、おい!白川!」


田口君が私に歩み寄ってくると同時に茂みから小さな塊が私に飛びついてきた。

私がその塊を抱きかかえると田口君がゆっくりと口を開いた。


「…犬?」

「うん。この前見つけたの」

「へぇ~、野良犬か?」

「分かんない」


私はその場にしゃがんでカバンから給食の残りのパンを少しずつちぎって犬に与えた。

田口君も私の近くにしゃがんで犬の頭を撫でだした。


「こいつの名前は?」

「まだ決めてないの。でも、今は『ノラ』って呼んでる」

「野良犬だから?」

「う、うん」

「ノラかぁ~。いいんじゃないか。なぁ、ノラ?」


田口君の言葉の意味が分かっているのかノラは『アン』と小さく吼えた。

田口君はノラの返事を聞いてまた嬉しそうに頭を撫でた。

パンを全部あげると私はノラの頭を撫でた。


「じゃあ、また明日来るからね」


それを見て田口君は私に話しかけてきた。


「家で飼わないのか?」

「…うちペット禁止なの」

「そっか。…なぁ、俺の家で飼っていいか?」

「え?」

「駄目?」

「駄目じゃないよ」

「やっりぃ!ノラ~、今日からお前は俺の家族だぞ~」


田口君はノラを抱えて嬉しそうに頭を撫でた。

私は田口君とノラの二人(一人と一匹?)を見て微笑んだ。

すると田口君は私の顔を見て何故か驚いたような顔を見せた。

私はてっきり顔に何かついてるのだろうと思って顔をこすった。

それを見て田口君は慌てて私に声をかけてきた。


「あ、何もついてないよ。ごめん、なんでもない。帰ろうか」


そういって田口君はノラを抱えたまま歩き出した。

私も田口君の横に並んで歩き出した。

それからもまたいろんな話をしながら歩いていると話は進路の話になった。


「白川はどこの高校に行くんだ?」

「えっと…南」

「南!?へぇ~、うちから南高に行く奴って珍しいんじゃないか」


田口君が言うようにうちの中学から南高校に行くっていう人は少ない。

南高があるほうは田舎だから皆遠ざけるようだ。

だから、私は南高校に行こうと思ったんだけど。

私の答えが意外だったのだろう田口君は本当に驚いたような顔をしている。


「そうか。南かぁ」

「う、うん」

「あ!だから、受験が心配で元気がないのか?」

「え?」

「そういう白川さんにはこれを貸してあげよう。ちょっとノラ持ってて」


田口君は私にノラを持たせるとスポーツバッグを開けて何かを探しているようだ。

『どこやったかな…』と言いつつ探していると見つかったのか笑顔で私に差し出してきた。


「あったあった。はい、これ」


田口君は器用に片手でノラを私から受け取った。

私は田口君の手に乗せられたものを見た。


「…御守り?」

「そ。とりあえず受け取ってくれる。ノラを片手で持つのはきつい」


田口君が言ったので私がノラを持っている手を見るとプルプル震えていた。

私が慌てて御守りを受け取ると田口君は両手でノラを抱えた。


「あ~、ノラって片手で持つと結構重いんだなぁ」

「あの…田口君。これ…」

「それ俺が県大会で入賞したときにカバンに入れてた御守り。ご利益はあると思う」

「そんな大事なもの受け取れないよ」

「いいから。ノラを引き取らせてもらったお礼。これで受験頑張って」


私は御守りと田口君の顔を見比べてゆっくりと頷いた。


「ありがとう」


私がお礼を言うと田口君は何故か顔をプイッと逸らした。

何故逸らしたのか不思議だったがもうすぐ私の家だったので田口君に声をかけた。


「あ、私すぐそこだから。ありがとう。田口君も気をつけて帰ってね。後、あまり無茶しないでね」


そういって私は家に向かって駆け出した。

家に着いて私は手に持っていた御守りを見つめた。

私は田口君が好きだ。

好きになった瞬間は今でも覚えてる。

その日も今日のように図書室で日が暮れるまで本を読んでた。

そして、帰りにプールの横を通ると田口君がスタート台に腰掛けていた。

そのときは今日のように笑顔を浮かべることはなく、とても暗い顔をしていた。

でも、水泳部の人が田口君のところに行くと田口君はさっきまでの暗い顔ではなく笑顔で接していた。

そして、泳ぎだしたときに私は好きになった。

さっきまでの暗い顔ではなく、そして笑顔でもなく真剣な顔。そして、綺麗なストローク。

私は田口君が泳ぎきるまで目が離せなかった。

けど、私が田口君を好きになったからと言って何も変わらない。

田口君はクラスでも人気者。私はクラスでも影が薄い。

これからも変わらないだろうなと思って私は制服を脱いで晩御飯を食べに下に降りた。


それから学校で田口君とよく目が合う気がする。

気のせいかと思うが廊下ですれちがうときに私に向かって微笑んでくれる。

たまに二人きりになるとノラの話を私にしてくれる。

田口君の家族にも受け入れてくれてるようで私も一安心だった。


バレンタイン。

今まで私は家族以外の誰にもあげたことはなかった。

でも、最後だからと思って田口君にあげることにした。

けれど、一日中田口君の周りには人がいてあげる勇気はでなかった。

だから、帰りに下駄箱に入れた。

きっと私からとは分からないだろう。けれど、私は構わなかった。


そして、卒業式。

私は推薦で南高に進学することが決まっている。

田口君は恐らく県外の高校に行くんだろう。

じゃあ、今まで借りていた御守りを返さないといけない。

これは面と向かって返そうと思っていたが田口君の周りには女子生徒、そして水泳部がずっといた。

人望が厚い田口君とは違い、私の周りには誰も近寄ってこない。

こうなるだろうと予測をしていたので私は手紙と一緒に御守りを田口君の下駄箱に入れた。

これで田口君と話すこともないだろう。もし同窓会があってもきっと私には連絡は来ないだろうし。

最後だからと思って御守りと一緒に入れた手紙には御守りのお礼と一緒に私の気持ちも綴った。

私は校門で一度校舎を振り返った。もうここに来ることもないだろう。一礼をして校門を出た。

両親には先に帰ってもらったので一人で通学路を通った。

『もうこの道を通ることも無いのか』と思って歩いていると後ろから誰かが走っているような音が聞こえた。

私が振り返ると田口君が走っていた。そして、私の前でスピードを緩め止まった。


「田口君…?」

「白川、これどういうこと?」

「え?」


田口君は私が下駄箱に入れた手紙を私に見せた。

『もう読んだのか』と思ったが、何故手紙の意味を聞かれるのかが分からなかった。


「どういうことって?」

「御守りを返せって俺言った?」

「ううん。けど、今日返さないと…。田口君県外の高校に行くんでしょ?」

「は?」


私の言葉に田口君は呆然とした顔をした。

何か変なことを言っただろうか…


「白川、それ誰から聞いた?」

「えっと…前に田口君と誰かが話してるの聞いたの」

「あぁ、それ止めたよ」


田口君は私にゆっくりと近づいてきた。

そして、私にまた御守りを差し出した。


「え?」

「『え?』って白川が手紙に書いてたんだよ?『大切な人にあげるべきです』ってさ」

「う、うん」


確かに手紙に書いた。

私が持っているとご利益がなくなるだろうし、それに田口君が本当に大切だと思う人にあげたほうがいいと思った。

でも、何故私に差し出すのかは分からなかった。


「だから…私は受け取れないよ」

「はぁ…、今の俺の大切な人は白川だから受け取って欲しいんだ」

「…え?」


私が田口君の顔を見ると照れたような笑みを浮かべていた。


「これを白川に持ってて欲しいんだ。…白川が好きだから」


私は最初田口君が何を言っているのか分からなかった。

だから、驚いていると田口君が私の目の前で手を振る。


「お~い、白川さん。起きてますか~?」

「…嘘だよね?」

「人の告白に嘘とか言わないで欲しいんだけど」


田口君は今度は怒ったような声になった。


「だって…私は田口君と違って勉強も得意じゃないし、運動も出来ない。特に長所もない私を田口君が好きだなんて思えない」

「俺さ、一目惚れしたんだよ」

「え?」

「いや、一目惚れとは違うなぁ。ノラをもらった日のこと覚えてる?」

「う、うん」

「あの日、俺初めて白川の笑顔を見たんだよ。その顔がさ、すっげぇかわいかったんだって!こうなんていうのかふわ~んとした、癒し系?みたいな笑顔でさ。それから白川を見るようになった。白川の笑顔が見たいからノラの話をしたんだ。ノラの話をすると白川は笑ってくれるから」


田口君の言葉を聞いて私は驚いた。

そんな風に思ってくれてるとは思わなかった。


「これからはもっと近くで白川の笑顔がみたいんだ。だから、俺と付き合ってくれる?」

「…田口君が私でいいなら」

「白川がいいの!」


田口君は私の返事を聞いて安心したような笑みを浮かべた。

そして、すぐに安堵の表情を浮かべた。


「あ~、よかった。付き合ってもらえて。本当はまだ待とうと思ったんだよ」

「え?」

「なのに白川が御守りを俺の下駄箱に入れてるし、手紙にはなんか『さよなら』って書いてるし。それに『好きでした』って過去形だし」

「だって…もう高校が違うし。会えないだろうなと思ったから」

「あ、そういえば言ってなかったっけ。俺高校南だから」

「え!?」

「いや~、白川が南で良かったよ~。他の高校だったら諦めてたから」

「え、あの…」


展開が早すぎて私は田口君の話についていけなかった。

田口君は近くにある公園に私を連れて行ってベンチに二人で腰掛けた。


「最初は白川が言ってたように俺県外の高校に行こうと思ってたんだ。けど、あの日白川と話して笑顔を見て好きになって。このまま白川と離れるの嫌だな~って思ってたら高校一緒にすればいいんだって思った。南は通える範囲で唯一水泳部があるからね。だから、親を説得して南高に変えたんだ。もし、白川が南じゃなかったら卒業式に告白するつもりだったんだ。まぁ、結局告白しちゃったけどね」


田口君はにっこりと私に微笑みかけてくれた。

私も一生懸命笑おうとしたが上手く笑えなかった。

そんな私を見て田口君は首を振った。


「無理に笑おうとしなくていいって。そんな笑顔じゃなくて白川が普通に出す笑顔が俺は見たいから」


そういって田口君は立ち上がった。


「あ、ヤベ。カバン学校だ…」


「ほら。持ってきてやったぞ」


田口君が呟くとそこに違う男子の声が聞こえた。

私がそっちを向くと見たこと無い顔の男子が立っていた。

田口君は笑みを浮かべてその男子に話しかける。


「三輪!持ってきれくれたのか?」


田口君が三輪と呼んだ男子はゆっくりと私達に近づいてきた。

三輪君は田口君にカバンを差し出した。


「ほら。お前が急に走り出すからな。他の連中も驚いてたぞ。で、そっちが?」

「そ。俺の好きだった人。で今俺の彼女」

「ふぅ~ん」


三輪君は私の顔を覗き込んできた。

私は驚いて後ずさると三輪君は笑みを浮かべた。


「あ、俺三輪章弘。田口と同じ水泳部。知らないでしょ?」


私が頷くと三輪君は苦笑いを浮かべた。

今度は私が自分の名前を言おうとすると三輪君は手を横に振った。


「あ、いいから。白川さんのことは田口から耳にタコができるほど聞いてるから。俺も二人と同じ南だからこれからよろしくね」


三輪君は私に手を差し出してきた。

私は立ち上がって三輪君の手を握った。


「よ、よろしくお願いします」

「うん。じゃあ、田口。俺行くから」

「おぉ。カバン、サンキューな」


田口君が言うと三輪君は手を振りながら公園を出て行った。

三輪君を見送ると田口君は私に手を差し出してきた。


「帰ろうか」

「う、うん」


私はゆっくりと田口君と手を合わせた。

そして、しっかりと握った。


「あ、ノラに会いに来る?」

「え?」

「結構でっかくなったよ。今会ったらノラ分かるかな?」

「どうだろ」

「よし、じゃあいこっか」


私と田口君はゆっくりと歩き出した。

私は田口君には分からないように田口君と握っている手とは反対の手に握っている御守りに目を落とした。


本当にご利益があったと笑みを浮かべた。

だって…この御守りの中にもう一つ御守りがあってそれは縁結びだったから…

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