第九十話「喪失」
新年初の投稿です。
2019年もどうぞよろしくお願いいたします
シャインは震えていた。
シャッテも震えていた。
何か予感めいたものを感じコウは二人の様子を注意深く眺めていた。
ふとガンダイオーのエネルギー出力を示すゲージに目を向けてみる。
ゲージが二つ、急激に上がったり下がったりを繰り返している。
これはパイロットのうち二人の精神状態が不安定になっている事を表していた。
「二人とも…気持ちは解るが」
「「うわあああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!!!!!!!!!!!!!」」
シャインとシャッテが叫ぶと同時にガンダイオーは両脚と背中のスラスターを一気に噴射し前方へ急加速。
速い。一瞬でヴァルジオンの傍をすり抜け、急制動をかけると再びヴァルジオン目掛け全速力で突進しながら右ストレートを繰り出す。
紙一重で右ストレートをかわすヴァルジオンだが、時間差で生じたソニックブームばかりは防ぐ術がなく、空高く吹き飛ばされた。
「ぅぅぅぅぅぅ……」
唸り声と共に空を見上げると、ガンダイオーの額に光が収束。
「わあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」
雄叫びと共にビームが撃ち出される。
その直径たるや凄まじく、ガンダイオーの身体のおよそ30倍はあろう太さ。
無論これ程のビームは今まで一度も撃った事はない。
それまで一貫してクールに徹していた正嗣もこの極太ビームには流石に焦りを見せ、全速力でこれを回避。
「お前…何て技使いやがる…」
「俺じゃねぇよ!モアザさんが死んで、それでシャインとシャッテが……」
「言い訳をするか見苦しい!」
「クッ!まるで聞く耳持っちゃくれねぇ…リゼル!ツバキ!!」
「解ってる…ごめん!!」
リゼルはシャインに、ツバキがシャッテの腹を殴り二人を昏倒させる。
かなり荒いやり口だが、二人が精神的に不安定な状態に陥り、それがガンダイオーの出力に多大な影響を与えている以上致し方無い処もあった。
現にあれだけ乱高下を繰り返していたガンダイオーの出力ゲージは下降を続け、安定域に入りつつある。
「…これで、少しは戦いやすくなった……。」
それは暴走の危険性が抑えられたが、同時にパワーが弱まりつつある事を意味している。
キングヒドラの率いる魔獣軍団と戦った時の三分の二程度の力で何処まで通用するか…。
「…向こうのパワーが100%とするとこっちは60%………失われた40%ぶんこっちの分が悪い」
「やっぱりシャインシャッテを気絶させるのはマズかったんじゃ…」
「さっきガンダイオーが制御効かなくなったの見たろ?あのまま戦ってたら百歩譲って勝てたとしてもルプシカは一面焼け野原。
国王陛下だって死んでたかも知れないんだぞ」
コウの返答にさしものリゼルも閉口せざるを得なかった。
王政国家における国王の重要性は他でもない娘のリゼル自身が一番理解していた。
いつの日か国王が退位し、弟シドが王位を継ぐまでシドと国民を守るのが自分の役目だとマスター・リドに何度も言い聞かされていた。
その国王失くしての勝利など本末転倒も良いところだ。
「長期戦に持ち込ませるつもりはない。一気にケリをつけるぞ。ガンダイッソォォォォォード!!!!」
左腰から剣を引き抜き、ガンダイオーが剣を両手で構える。
するとヴァルジオンも左腰から剣を引き抜き身構えた。
「ッ!!奴もォ!!?」
「こっちの武器パクリまくりじゃないの…!」
あまりに似通りすぎたヴァルジオンの武装の数々にツバキが苦言。
しかし正嗣は平静を取り戻したのか涼しい顔のまま、
「名付けてヴァルセイバー。やれやれ、俺とした事が少し遊びすぎた…。
ここいらでケリつけるぞ」
「望むところだ!!」
ガンダイオーは剣を振りかぶりながら空高く跳躍。
対するヴァルジオンも腰だめに剣を構えガンダイオーの一撃に備える。
「ガァァァンッッッダイナミィィック!!!!」
「ヴァル・ジ・エンド!!!!」
ガンダイオーが降下の勢いを乗せ剣を振り下ろし、
ヴァルジオンも跳躍しながら横薙ぎに剣を振るう。
空中で2体の巨人の姿が交差し、2体は同時に着地する。
1分間を何十倍、何百倍にも引き延ばしたかのような長い静寂。
ガンダイオーの腹部からまるで鮮血の如く火花が迸り、ガンダイオーは前のめりに倒れ込んだ。
「ダメージ限界域に到達。戦闘続行不能。パイロットの安全を最優先。脱出プログラム、起動します」
ガンダイオーコクピットのコンソールから発せられる無機質なシステムボイスが非常灯で真っ赤に染まった室内に木霊する。
それはガンダイオーが、リゼル騎士団が敗北した事を意味していた。
コクピットシートが後ろにスライドし、コウも、リゼルも、ツバキも、シャインも、シャッテも、同乗していたシドとエルがカプセルの中に入れられる。
ガンダイオーの後頭部のハッチが開き、ブシュン!と言う空気の吹き出す音と共にガンダイオーの頭からカプセルが射出された。
カプセルは弧を描きながらルプシカ中央広場の噴水に激突。
地面を勢い良く転がった後パン屋に突っ込んでようやく静止した。
カプセルが開かれ、中からコウ達リゼル騎士団が這い出てくる。
「まさか、ガンダイオーが負けるなんて………!」
コウは忌々し気に上空のヴァルジオンを見上げる。
「何なのあいつ…。エタニティが、デストラがあんな隠し玉用意してるなんて…」
リゼルの言葉は、背後から近づいてきた影によって遮られた。
リゼルの後頭部に突きつけられる指。
そして彼女の後ろに立つ…正嗣の姿。
「!??」
「正嗣…!何を!?」
「アルバスが言っていた。この戦いに勝てれば俺の記憶を取り戻す手伝いをすると。
そして俺なりに考えてみたんだ。どうすれば勝った内に入るのかを…。
そして一つの結論に達した。」
リゼルは後頭部に突き付けられた正嗣の指を振り払おうとも離れようともしない。
指一本くらい簡単に振りほどけるはずなのに、何故…。
次第にリゼルの瞳から光が失われていき、完全に瞳の光が失われるとリゼルはガクリと膝から崩れ落ちる。
「………」
茫然自失とした表情のまま微動だにしないリゼル。
「何を‥…リゼルに何をした正嗣!?」
「俺の異能は、触れた相手を自らの『眷属』とする事が出来る力…。
その力でこのお姫様を俺の眷属にした」
「眷属ってどういう事だ!?お前そんな事する様な奴じゃなかったろ!!」
「リゼル。現実を受け入れられないそこの男に納得させるために、お前の忠誠を証明してみせろ」
正嗣がそう命ずるとリゼルは正嗣の前に片膝をつき、頭を垂れながら正嗣の右手をとり、正嗣の右手の甲に口づけをした。
本来ならあり得ない光景だった。
リゼルは立場上手の甲に口づけをされる事はあってもする事はまずない。
これは相手への服従を意味するからだ。
それを躊躇する素振りも見せずやってのけたと言う事は……。
「本気かよリゼル…お前なんでそんな奴の言いなりになっちまうんだよ!!」
「……」
「何とか言えよ!!悪口でも良いから言ってくれよ!!!」
何も答えようとしないリゼルに思わず声を荒げるコウ。
その目頭には涙が浮かんでいた。
「私はリゼル・ミァン・ルトヴァーニャ。全ては、貴方の御心のままに…。正嗣様」
嗚呼、何と言う事だろう。
彼女を知る者は誰しもが願ったであろう。夢なら醒めてくれと。
しかしそれは夢でも幻でもなく、紛れもない現実。
リゼルは、敵の軍門に下った。




