第八十八話「再会は悲しみと共に」
金属同士が激しくぶつかり合い、甲高い音が室内に響く。
「やりますな。そんななまくらでこの魔剣と渡り合うとは…。」
「この剣は我が信頼する騎士から賜った物。なまくら呼ばわりとは聞き捨てならんな。
それに、如何なる名剣とて使い手が未熟なら無用の長物と化す…。逆もまた然り!」
「それは私の腕が優れていないと言いたいのか、それとも魔剣の方を貶しているのか…
どちらの意味で言っているのですか?」
「貴公の想像に任せる!!」
言いながら剣を振るうルトヴァーニャ国王。
だが国王の斬撃をアルバスはいとも容易く受け止める。
それもただ受け止めたのではない。
アルバスの左腕からはどす黒いオーラが燃え広がり、
剣の形を成して国王の剣を受け止めていた。
「ッ…!!?」
「卑怯だとは言うまいねぇ…?」
暗黒闘刃。
自らの魔力を剣状に変えるこの魔法は
一見光属性のそれと同じものに見えるが、
闇属性の魔法自体が怒りや憎しみと言った負の感情を糧としている為
本質的にはむしろ対極にある物と言って良い。
国王を弾き飛ばし距離を取るとアルバスは魔剣と暗黒闘刃、二つの剣を構える。
剣の数で言えばアルバスの方が有利。
だが国王の眼は諦めた者の眼ではなかった。
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打ち壊された西門の扉を跨ぎながら兵士たちが次々と城内に入ってくる。
それを見やったモアザはその数に驚嘆すると同時に違和感を覚えていた。
戦力があまりに多すぎる。
先の南門側で戦った戦力と合わせてもモアザが亡命する前の総戦力数と合わないのだ。
傭兵を雇ったにしても一区画を攻める兵の数が一個師団に匹敵するのは明らかに不自然。
全戦力をルトヴァーニャへの攻撃に回しているのか?
考えても答えは出てこない。
モアザは一旦デストラの戦力の謎を思考の外に置き、目の前の敵たちを始末する事にした。
撃ち出されたつららが一人のデストラ兵の胸を貫き、弾き飛ばす。
が、次の瞬間信じられない光景がモアザの前で繰り広げられる!
「……」
なんと、つららに胸を貫かれた兵士が何事も無かったかのように起き上がったのだ。
胸には拳一つ通せるだけの穴が開いていると言うのに、この兵士は意にも介す様子が無い!
奇怪!実に奇怪な光景だった!!
同様にモアザは他の兵士達も炎で焼き、岩石を叩きつけ、風の刃で首を撥ねるのだが
いずれも苦しむ素振り一つ見せず立ち上がる。
「これは一体…!?この兵たちはゾンビだとでも言うのですか!!?」
「その通り」
モアザの独り言に応える声。
若い男の物だ。
兵士たちをかき分け、その声の主が一歩躍り出る。
肩まで伸びた長髪、肌は生気を感じさせないほど白く、
線の細い顔立ちは一見して女性かと見紛う程。
だが男の眼には覇気が無い。まるで死人のようだ。
「貴方は…デストラの将校、と言う解釈でよろしいのですね?」
「厳密には違うが、まぁそうしとこう。僕は…そうだな、根倉とでも名乗っておこうか。
そしてもう解っているとは思うが、僕の異能は…」
根倉が倒れている兵士に触れると、
兵士は糸で吊るされたかのような挙動で立ち上がった。
「触れた死人を蘇らせる事ができるんです。もちろん、ゾンビとしてね」
「そんなの…生命に対する冒涜ではないですか…」
「そうかい?むしろこの美しさが解らない方がどうかしてるよ…」
そう言ってゾンビ兵の頬を撫でる根倉。
その様におぞましさを感じモアザは思わず顔をしかめた。
どうかしてるのはどっちだ…。
「あなたのその異常性…。もはやあなたがデストラと関係あろうがなかろうがどうでも良くなりました。
あなたの異常性癖の為にこれ以上の犠牲は出せません………。」
モアザは右手を真横に突き出し、遠方に保管していた自分用の杖を呼び寄せるとクルリと一回転させた後真正面に構える。
「ここで倒します」
「フフフ…貴方が死んだら、さぞ美しいゾンビになってくれるんでしょうねぇ」
言いながら根倉が顎をしゃくると、ゾンビ兵たちがモアザの周囲を取り囲む。
ゾンビになるつもりは毛頭ない。
モアザは杖を振るいゾンビ兵たちを牽制しながら魔法の弾を自身の周囲に滞空させた。
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「テメェは、確か大武闘会の時の…」
スタンは正嗣を恨めしそうに睨みつけるが、
「…お前、何処かで会ったか?」
当の正嗣は首を傾げて嘯いた。
「テメェ!!」
傍目にはふざけているとしか思えないその態度にスタンは激昂しクロスボウを正嗣に向ける。
「なぜ怒る。人の顔などいちいち覚えていられないだろ」
「お前が彼女に何をしたのかは知らん…。
だが彼女を自分の目的のために利用するお前は許せねぇ」
「何度も言わせるな。あいつが勝手にやってるだけで俺は何も…」
「一緒だ!!」
怒りのまま矢を放つスタン。
しかし矢は正嗣ではなく、正嗣の前に立ちはだかったレミーの左肩に突き刺さった。
「グッ!?」
「しまっ…!?」
「だ、大丈夫ですか正嗣様…」
「まぁな」
「それは良かった………」
彼女の忠誠心は本物であった。
たとえ周りがどれだけこの男を蔑もうと、
彼女だけは絶対に失望も裏切りもしないと実感させられるだけの凄味があった。
この一戦、故意に女性を傷つける真似は決してしないのを信条とするスタンにとってはとてつもなく戦いづらい戦いとなる。
スタンがそう思っていると、
「らしくない顔だ。いつものアホそうな面はどうした」
ミハイルだった。
ミハイルはスタンの隣に立つと、ぶっきらぼうに右手を差し出した。
「…へッ、ちょっと考え事してただけだよ!!」
軽口を叩くとスタンはミハイルの手を掴み返す。
「彼女の動体視力、反射神経、瞬発力は人間以上だ。
おそらく360度何処から正嗣って野郎を狙っても必ず彼女がそれを阻害する」
「だがあのエルマは一人しかいない。狙い目があるとしたらそこだ」
「どう言う事だ?」
ミハイルは何も言わずただ目配せする。
だがスタンとミハイルは幼き頃より共にいた仲。
それだけでも意図は十分に伝わった。
スタンがクロスボウを構えるのと同時にミハイルが駆け出す。
正嗣目掛け矢が放たれると、その進路を遮るかの様にレミーが正嗣を庇う。
「やれやれ。二人揃って何を企んだかと思いきやてんで大した事がない。
馬鹿の一つ覚えじゃないか」
「どうかな」
正嗣が後ろを振り返ると、そこには剣を振りかぶるミハイルの姿。
「流石にこれは防げまい」
狙いは正嗣の脳天。
ミハイルが思い切り剣を振り下ろすが、その一撃は突然の横やりによって遮られた。
「っ!?」
ミハイルが衝撃の走った方を見るとそこには獣の少女の姿。
少女は歯を食いしばり喉を鳴らしてスタン達を威嚇している。
「間に合ったみたいね…」
「これで三対二、俺たちの方が有利だ。諦めたら?」
余裕の表情で嗤う正嗣。
万策尽きたかと思われた、その瞬間であった。
城の方から閃光が迸り、時計塔を切り裂いた。
切り裂かれた時計塔の上半分が、スタンとミハイル目掛け落ちてくる。
「ヤベェ…」
万策どころか命運尽きた。
そう悟りミハイルもスタンも目を閉じる。
だがスタンもミハイルも生きていた。
何故かと思い恐る恐る目を開け、顔を上げた。
二人の頭上には巨大な白い腕。
腕だけじゃない。
巨大な胴に巨大な腰、巨大な足に巨大な顔。
それらから構成される巨大な人型がそこにはあった。
「…無事ですか?」
巨大な人型から発せられたあまりに聞きなれた声にミハイルはフッと頬の筋肉を緩め安堵した。
「遅ぇよ、馬鹿野郎………」
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ルプシカをガンダイオーのレーダー有効範囲に捉えるのと城から閃光が迸るのを見たのはほぼ同時の出来事であった。
ガンダイオーの飛行速度は既にマッハ6に達しており、即座に停止しないとすぐにルプシカを通り過ぎてしまう。
コウはレバーを手前に思いきり引き、フットペダルを思い切り踏みしめる。
高度を下げ、着地しようとするもあまりのスピードにすぐには止まれず、
ルプシカの街中を石畳と交戦中の両軍の兵士たちを吹き飛ばしながら滑走する。
「コウ!あれ見て!!」
リゼルの声にコウが顔を上げると、丁度真正面にあたる場所に崩れ落ちる時計塔とその下に立つミハイルとスタンの姿が。
「!?なんであんな所に!!」
滑りながら左手を伸ばすガンダイオー。
止まる位置が少しでもズレてはならない、決死の救助。
コウのレバーを引く力は更に強くなり、ガンダイオーの空いていた右手が地面を引っ掻き、
大小まばらな石と土の塊が宙に舞う。
「間に合えぇぇぇぇぇぇぇ……!!!!」
更に手を伸ばすガンダイオー。
その滑走する速度は徐々に遅くなり…土煙を上げながら静止した。
荒くなった呼吸を整えながらガンダイオーの左手を見るコウ。
その左手には…もがれた時計塔。
間に合った。そう感じコウは安堵する。
「…無事ですか?」
「遅ぇよ、馬鹿野郎……」
「すみません、これでも急いだ方なんですが…」
時計塔を置き、コウはガンダイオーを立ち上がらせる。
「状況は…!?」
ガンダイオーの頭部に搭載されたカメラを操作しルプシカ内の様子を探るコウ。
戦局は?犠牲者数は?見知った人は被害にあっていないか?
様々な不安が頭をよぎるが、ある一点を視線を集中させた瞬間それらの思考は全て一瞬の内に吹き飛んだ。
スタン、ミハイルと対峙する様に立つオオカミ少女と耳長少女に囲まれている青年。
その男は…!
「!?正嗣……?正嗣だろ!?俺だ!小妻コウだ!!お前の親友の!!」
マイク越しに目の前の正嗣に必死で訴えかけるコウ。
数年ぶりに再会を果たした無二の親友にいても立ってもいられなくなっているが、
「…誰だお前は?」
正嗣の反応はコウの期待を大きく裏切る物であった。
「?な、何を言ってるんだよお前…。幼稚園の時も小学校の時も一緒だったじゃないか!!冗談きついぜおい!」
「だから知らん。お前の事は何一つな。大武闘会の時も一度として会わなかったし、
別の誰かと間違えているのではないのか?」
「そんな筈はない!!会わなくなってだいぶ経つが友達の顔を忘れたりなんてするもんか!」
「お前の事は知らんが、お前の乗ってるその巨人…。
マンダのメカ何とかと戦って戻ってきたと言う事は、デストラに、エタニティにとって相当手強い相手と言う事になる。
恨みは無いが、俺自身のためにも早急に潰させてもらう」
そう言うと正嗣は頭上高く右腕を掲げ指を鳴らす。
すると何処からともなく黒い影が三つ、正嗣のもとに舞い降りた。
大きさはまばらだが、色はいずれも黒地に差し色として白と赤のラインが施されている事から
何かしら共通のコンセプトを持って作られたのは理解できる。
三つの黒い影の内最も小さい物のハッチが開くとその中に正嗣が飛び乗る。
オオカミ少女と耳長少女も各々に黒い影に飛び乗ると三つの黒い影は再び宙に舞い上がる。
「なにする気!?」
リゼルが空を見上げ驚嘆、
「お前とインベーダーゲームなんてやってる余裕なんて無いのに…!」
コウが苦言する。
「驚くのはまだ早い」
正嗣がそう呟いたかと思うと、三つの影は一つに合わさり、奇妙な音と共にその姿を変形させていく。
首が伸び、腕が生え、二本の脚で大地を踏みしめる「それ」は……
「黒い…ガンダイオー…!?」




