第八十七話「業の無い世界」
窓から押し寄せるデストラ兵1人1人が魔法で作り出した氷のつぶてをぶつけられ叩き落とされていく。
その先に立つのは、モアザ・バルバ!
「全く、今のデストラ人は作法と言う物も忘れてしまったんですか!?」
依然留まるところを知らないデストラ兵の侵入にぼやきながら尚も氷のつぶてを撃ち続け、
それでも足りんと火球も打ち出す。
落としても落としてもデストラ兵はなおも壁をよじ登り、城内に入ろうとする。
キリがない。
そう判断するとモアザは意識を集中させ、両手を前へ突き出す。
するとモアザの両手から突風が吹き荒れ、窓際のデストラ兵達をまとめて吹き飛ばした。
旋風と呼ばれる風属性の魔法でデストラ兵を吹き飛ばし、
追撃が来なくなったのをモアザは確認した。
「西門が突破されたぞー!!」
誰かの声が聞こえる。
モアザはすぐにでも西門の方へ向かいたい衝動に駆られたが、
それでは今自分がいる南側の守りが手薄になるのではと思い踏みとどまる。
ではどうするべきか。
モアザが考え、答えを見出すのに数十分どころか5秒もかからなかった。
モアザが目を閉じ集中すると、周囲に散乱していた剣や槍、盾が一か所に集まりだし、
一つの巨大な塊になったかと思うと爆発。
爆風の中から銀色の身体を持つ顔のない巨人が現れた。
巨像生成。
周囲の物体からゴーレムを作り出す地属性の魔法である。
この魔法で作られたゴーレムは最初に下された命令を破壊される瞬間まで忠実に実行するが、
実行できる命令はごく単純なものに限られている。
「ここの守りをお願い!」
ゴーレムにそう命じるとモアザは西門の方へ向け走り出す。
走る度に上下する乳房が邪魔だとモアザは感じていた。
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カイルは王都の地下道を抜け、城の地下倉庫に来ていた。
この地下道は城の地下と繋がっており、
非常時に王族を避難させる為掘られたのだとかつて大臣に教えられていた。
…この様な形で使う事になるとは思いもしなかったが。
道中敵兵に出くわす事が無かったのはカイルにとって幸いであった。
数少ない逃げ道であるこの地下道に敵がいると言う事は即ちルトヴァーニャが完全に敵の手に堕ちた事を意味する。
それこそルトヴァーニャがデストラに、いやアルバス・ロアの物となる事に他ならない。
地下倉庫を抜け一階、行く手を遮るデストラ兵を切り捨てながら玉座の間へ向かうと、
そこではルトヴァーニャ国王と一人の男が対峙していた。
その男こそこの一連の騒ぎの元凶にしてデストラの現最高指導者。
アルバス・ロア!!
アルバスは丁度真後ろにいたカイルを一瞥すると、
「…ちょうど観客も来た事ですし、話を進めましょう」
「貴様、自分が何をしているのか解っているのか?」
ルトヴァーニャ国王は鋭い眼光をアルバスに向けたまま重い口を開く。
常人ならそれだけで射竦められ闘志を萎えさせる程の迫力を持っていたが、
アルバスは物怖じする様子すら見せず、飄々とした口調で、
「私を責める為の文句としてはその言葉は遅すぎると言って良いでしょう。
既に私の計画は最後の仕上げを残すのみ。もう誰かの一声で止められる段階を越えているのですよ」
「計画?」
「陛下はこの国の犯罪発生件数がどれ程かご存知ですか?」
「…いきなり何の話をしている」
「質問しているのはこっちです」
「……前年度の時点で94件と、大臣は…シンジャックスは言っていた」
「それはあくまで報告されている数値であって実際はそれ以上の犯罪が起きているでしょう。
先進国と言えど結局はこの有様…。けれど私は違います。
私ならこの犯罪発生件数を0にし、幾世紀もの間戦争の無い世界を作り上げて見せましょうぞ。」
「…それが、お前がデストラ共和国を使い全世界に宣戦を布告するに至った大義か。」
「私はかつて信頼に足る人を理不尽な犯罪により失いました。
その時感じた怒りと悲しみは今でも忘れた日はありません。
だからこそ私は目指すのです。業の無い世界を………。」
ルトヴァーニャ国王は眉間に寄せた皺をより一層深くした。
唇の端は下がり、憤怒の感情が窺い知れるがそれでもアルバスの表情は曇らない。
「聞いてしまえば実に下らない理想論だ…。
争いも犯罪もない世界だと?業の無い世界だと?
完全無欠にして生涯純真無垢なままの人間など存在しうる筈もないのに
何故そんな物が実現できると確信している?
人とは名ばかりで物言わず微動だにもしない人形で溢れかえった国でも作ろうと言うのか?」
「そこまでは言っていません。ただこの国が私の理想を阻害している事はいただけない。
こちらとしても心底ウンザリしているんですよ。特にあの、リゼル騎士団とか言う輩には…。
これ以上戦い続けるのは双方にとって有意義ではありません。ここいらでもう終わりにしませんか?」
「戦争を終わらせる事には大いに同意だが、その為に我々に何を求める?」
「…この国の自治権、全てを我々に譲渡して頂きたい」
アルバスのその返答を聞いた瞬間、ルトヴァーニャ国王は唖然とした。
一瞬でもこの男に気を許した己の、なんと愚かな事かと怒りはより激しさを増す。
「やはりそういう事か…。」
「ほぅ…?」
「貴様の魂胆は読めた!
聞こえの良い言葉を使ってはいるがそれらは結局ただの方便!!
やはり貴様は!貴様らはただの薄汚い侵略者だ!!
この国も、民も!何一つ貴様などに委ねてなるものか!!!」
怒りを爆発させ罵詈雑言を叩きつけるルトヴァーニャ国王。
思わずたじろぐカイルとは対照的にアルバスは微笑を浮かべ、
「随分と嫌われてしまいましたね。
だったらどうしますか?血も涙もないテロリストとして、この場で切り捨てますか?」
腰に帯刀していた魔剣『モルドレッド』を鞘から引き抜く。
「無論だ」
そう言いながらルトヴァーニャ国王がカイルに目配せする。
カイルはやや慌てた様子で持っていた剣を鞘ごと投げ渡すと、ルトヴァーニャ国王はそれを一歩も動く事無く片手だけで掴み取る。
「貴様のような悪党、剣の錆とするのに一切の罪悪感なし!!」
ルトヴァーニャ国王が鞘から剣を引き抜く。
刀身が陽光を受けギラリと光り輝いた。
「交渉決裂、ですね」
アルバスが冷ややかに言う。
「…元より話し合う気はなかろう」
ルトヴァーニャ国王が冷徹に返すと、数刻ほどの静寂の後2人の剣が交錯する。
ルトヴァーニャの未来をかけた一騎打ちが、今始まった。
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激しい波しぶきを上げながらガンダイオーは海上を全速力で突き進んでいた。
空気抵抗を受け各所が激しく軋む機体。
コクピット内のコウ達は加速に伴うGでシートに押し付けられる。
あまりのGにシャインもシャッテも目を開けられず、ただただ呻く事しかできない中、
コウだけは眼を見開き、眼前の水平線を見据えていた。
間に合え。
コウは何も言わずただひたすらそう祈り続けるのだった。
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レミーとスタンの射撃戦は熾烈を極めていた。
双方ともに街中を縦横無尽に駆け抜けながら矢を放ち、
互いにそれを紙一重でかわしていく。
実力はほぼ互角。
持久力の面では森を棲処としているエルマのレミーにやや分があるか。
「レミーちゃん!君は…こんな事をしていてはいけない!
君は戦うべき人じゃあないんだ!!」
「さっきから何を言っている。
私が戦ってはならない理由が何処にある。
貴様こそ、自分の物差しで人を図るんじゃない」
幾度も説得を試みるスタンだが、取り付く島もない状態が続いている。
目の前の少女(亜人種なので100歳軽く越えてるかもしれないが)の心を救う事はもはや不可能なのか?
ならばと思いスタンは一気に勝負に出た。
レミーが次の矢を構える隙をつきその距離を一気に吐息の臭いを感じられる所まで詰める。
「!?貴様…」
「この距離ならお互い弓矢による攻撃は無理だな…。
なんでデストラの侵略行為に加担する?もし誰かの命令でやっているとしたらその命令を下してるのは誰だ?」
「………」
答えを言えないのかレミーは口を閉ざし何も語ろうとしない。
そんな折、
「そいつは俺に忠誠を誓った。だから俺がやれと言われた事はそいつも文句を言う事無く実行するし
行けと言われた場所には勝手についてくる」
「お前は…確か……!」
「直江正嗣。ルトヴァーニャ攻略の命を受け馳せ参じた。覚悟、してもらうぞ」




