第八十四話「意地とプライド」
半機械の巨龍はすぐに身を反転させ、リゼル達の乗る戦闘機「白龍」目掛け突進。
両端の生身の部分を残した龍の首と無機質な緑の一つ目を持つ銀色の首に睨みつけられた瞬間リゼルは戦慄した。
こんな怪物が現実に存在するのか?
これを生み出したのがアルバス率いるデストラでありエタニティであるのならこの行いは生命に対する冒涜ではないのか?
そう言った思考がリゼルの頭を逡巡する中、半機械の巨龍が数メートル先にまで迫る!!
「ッ!?」
瞬時に機体をロールさせ激突を免れたリゼル。
「危なかった…」
「あれは何?どう見ても野生のそれじゃない…」
そんな折だった。
「大変だみんな!敵がすぐそこまで来てる!!」
コウの焦りに満ちた声が白龍の機内に響く。
しかしリゼルは、
「もう知ってる!!早い所合体して倒さないと!」
「合体って、姉さんの口からそんな言葉が飛び出るなんて……」
事情を知らないシドがそんな事をのたまう。
「違────う!!!こいつの話!今私たちが乗ってるのが合体してあのドラゴンと戦うって意味!!
って言うかシドあんた何処でそんな事覚えたの!!」
「えぇと…世界中回ってきたから夜の街で寝床捜してるとそういう店が目につく時もあるんですよ」
「合体の件だったらまだ駄目だ。先に別動隊の人たちをルトヴァーニャまで送り届けないと!」
「そんなのあいつ倒してからでも間に合うでしょ!?」
コウの指示にリゼルが反発する。
こんな事今までなかったのに。
リゼル騎士団の誰しもが驚愕し、耳を疑った。
「今真正面から戦えば別動隊が…ミハイルさん達が巻き込まれる!!」
「逃げるの待ったってあいつが攻撃してこない保証はないしそんなに心配なら乗せれば良いじゃない!!」
「こいつは戦闘を目的として作られてるのであって人員の輸送は目的としちゃいない!!」
ああ言えばこう言う、と言わんばかりに口論を始める2人。
その様子にさしものツバキも歯噛みし、
「あぁもう!!!やめなさい2人とも!!そうしてる間に状況が悪くなってるって解らないの!?」
「しかし…」
「しかしもだがしも無い!!もうそのミハイルって人の判断に任せなさいよ!!
それなら文句ないでしょう!?」
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「…って言ってるけれど、どうするの?」
断崖の下白龍から持ち出した無線を片手にリゼル達と連絡を取り合っていたコウは
後ろで水を飲むミハイルの方を向きそう言った。
魔法による念話を行わないのは念話に利用する為の魔力を敵に感知されない為の措置だ。
シャイン、シャッテクラスはおろか公に魔術師として認められるレベルとなると
生物の持つ微量な魔力の変化を感じ取る事が出来、
魔力の増減が起きた場所を逆探知の要領で探る事で相手の居場所を割り出す事が可能なのだ。
敵地において魔法を使用する頻度が戦闘時を除き極端に少ないのもこれが原因である。
「…いずれにせよ本来の任務は達成したんだ。
人員の補充も兼ね報告するためにも、少しでも早く戻らないと」
「決まりだ。シャインに連絡をとって転移用の門を開けてもらい、ミハイルさん達を送り届けてからあいつと戦う!」
「いいや。送るのは生き残った奴らが先だ。俺はまだ戻る訳にはいかない」
それはミハイルだけがこの場に残り他の者はルトヴァーニャに帰らせると言う事に他ならなかった。
こんな事を言い出すのは流石にコウにとっても予想外である。
「なんで!?こっちはアンタを助けるために来たって言うのに!!」
「勘違いするな小僧。俺はお前に助けられるのが嫌だとかそんなガキのワガママめいた理由で残ると言ってんじゃない。
仲間を何人も殺されて、何もしないままケツ向けて帰るのは性に合わないし、何よりそれじゃ死んでいった仲間達に申し訳が立たねぇ。
戻るのは、あいつに一矢報いてからだ!」
「…意地の問題、ですか」
「言い方は少し癪だが、その通りだ。それでも戻らせるって言うなら…」
「解りました。アンタのその意地に少し付き合ってやりましょう。
俺自身、あいつを許そうって気はさらさら無いし」
「…なんだ。ただのお節介なだけの小僧だと思ったが、意外と話のわか」
会話を遮る様に断崖が爆ぜる。
半機械の巨龍の攻撃だ。
「とにかく!手早く済ませないとこっちの身がもたない!やるぞ!!」
「は、はい!!」
ミハイルに応じるとコウはシャインに連絡をとった。
「シャイン!モアザさんに連絡!!転移の準備を!!」
「わかった!」
半機械の巨龍がシャインの方を向き、銀色の口から緑色のレーザーを放つ。
シャインはそれを紙一重でかわすと、
「ッ!?もう!しつっ…」
シャインの乗る白龍は変形し、巨大な腕の姿を成すと、
「…こい!!」
巨大な掌から火の玉が放たれる。
シャインの魔法攻撃だ。
火の玉は半機械の巨龍に直撃。
だが半機械の巨龍にはかすり傷一つさえも付けられない!
「そんな…!」
さしものシャインも言葉を失った。
この巨大な敵はただその巨体で空を飛ぶだけでなく魔法への耐性を付与する対魔法装甲を有していたのだ!!
しばらくして、断崖にドリルで開口したかの様に空間の歪みが生まれる。
半機械の巨龍の攻撃は尚も続いており、あちらこちらで爆発が巻き起こっている。
「さぁ急いで!早く!!」
コウの誘導の下身を隠していたミハイルの部隊の騎士たちが次々と空間の歪み目掛け走り出す。
中には片足を引きずる者、動けなくなった仲間を担ぐ者の姿もあり、敵の攻撃の苛烈さを物語っていた。
「今ので最後ですか!?」
「俺を除けばな」
ミハイル以外の全員が空間の歪みを通り、ルトヴァーニャへ戻ったのを確認すると
コウとミハイル、シドは半機械の巨龍の方を振り返り、
「さっきシャインの魔法が弾かれてたけど…どうすんですか?」
「そもそも俺は魔法は使えん。だからやる事は一つ、近づいてぶん殴る」
「その近づくのが困難だから困ってるんで…いや待ってくださいよ…。
そうか!僕にいい考えがあります」
そう言い放つシドにコウもミハイルも目を丸くした。
「良い考えって言うのは?」
シドは問い、
「そのセリフ、なんか嫌な予感しかしないな」
コウは戸惑った。
しかしシドは得意げな表情で"良い考え"の説明を始める。
「まずは…」
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暗がりの中ディスプレイだけが光を放っていた。
無機物に囲まれたその一室は足の踏み場もない程狭い。まるで棺桶だ。
その棺桶のような密室の中1人の女がふっと唇の端を上げる。
「揃いも揃って無駄な足掻きばかり…。力の差と言うものが解っていないのかしら?」
そう。ここは半機械の巨龍の中。
この巨大な魔獣は人の手によって操られていたのだ!!
女は左のモニター越しにコウ達が動き出したのを見た。
「フフッ、また足掻いてる…。このメカキングヒドラの前には無力だと言うのに」
半機械の巨龍=メカキングヒドラ目掛け何かが飛来してきた。
拳だ。砂で出来た拳がみるみるメカキングヒドラに迫ってくる。
だが避けるまでもない。メカキングヒドラには対魔法装甲が使われている。
砂の拳が魔法攻撃ならば何もせずとも弾き返せる。
現に砂の拳はメカキングヒドラに接触した瞬間、弾ける様な音共に飛散した。
「無駄む…!?」
女は思わず目を見開いた。
飛散した砂の中から1人の男が飛び出してきたのだ。
男は左のモニターに、正確に言えば左モニターに連動している左頭部に張り付く。
複数ある内の一つのレバーを操作し振りほどこうとするが、男は左頭部に張り付いたまま離れない。
そして、グチャリと言う鈍い音と共に左のモニターは砂嵐しか映らなくなった。
左頭部の両の眼が潰されたのだ。
「ぅうっ!!…カメラを一つ潰されるなんて……!おのれルトヴァーニャの猿め!!」
女は正面のコンソールを叩き怒りを露わにした。
もはや許しておけない。貴様たちは私のプライドを傷つけた。
そう言わんばかりの憎悪に満ちた表情で残る二つのモニターに映るコウ達を睨みつけた。
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メカキングヒドラの左頭部に張り付き、その両の眼を叩き潰すとミハイルはすぐにその場から飛び降りた。
地上との距離は既に落ちたら命はない所まで来ていたが、ミハイルのその動きに何ら躊躇はない。
「危ないッ!!」
シドはすぐに砂掌を唱え再び巨大な掌を出現させると、落下するミハイルの身体を砂掌で受け止める。
砂掌はゆっくりとミハイルを地に降ろすと元の砂に戻っていく。
「根拠はないが、お前達なら多分そうするだろうと言う確信があった。」
「当たり前でしょ!!死んだらどうするんですか!!?」
シドが息を荒げながら怒鳴った。
しかしミハイルは眉一つ動かさず、
「死んだらなんて選択肢はない。お前等を信じてるからな」
「ミハイルさん…」
「お前等ならきっと、この戦争を終わらせる事が出来る様な気がする。
俺はもうやれるだけの事はやった。後は任せたぞ」
そう言うとミハイルはゆっくりと歩きだし、空間の歪みの中に消えていった。
「…なんかやりたい事だけやって行っちまったな」
収束し、消滅する空間の歪みを見やりコウが独り言ちる。
「えぇ。けど任された以上は、手は抜けないでしょう」
「だな」
シドにそう相槌を返すとコウはシドと共に白龍の方へ向かい、白龍のコクピットに乗り込んだ。
息を吹き返したかのようにフワリと宙に浮かび、急加速で空に舞い上がるコウとシドと白龍。
「すまないなみんな、手間取らせて…」
コウは自責の念も込めて独り言ちた。
前座は去った。後は本気で戦うだけだ。




