第八十二話「再会と疑惑と」
「宮本!宮本じゃないか!!」
コウは青年の手を取り喜びを露にした。
「そういうお前はコウじゃないか!元気そうだなぁおい!」
宮本と呼ばれた青年も嬉しそうだ。
「知り合いかい?」
「ええ。彼は古くからの知り合いで、宮本昇って言うんです」
「コウ。お前の活躍ぶりは聞いてるぞ。もうフレディ級の有名人なんじゃないか?マーキュリーな方の」
「よせやい。そこまで有名になった訳じゃない。そういうお前こそ、メロンソーダの製法を伝えると言う偉業を成し遂げたじゃんか」
「いやあれは…あれだよ。前にネットで見た作り方をそのまま教えただけさ。
ところでお前、マサツグにはあったのか?」
「マサツグ!?マサツグもこっちに来てるのか!!?」
宮本の口からマサツグ、と言う言葉が出た途端コウは血相を変えて言い寄った。
マサツグはコウの友人の一人で、同時に最も古く最も親しい友人でもあったが、
中学時代の彼は不良グループからいじめを受けており、
それをやめさせようとしたコウは結果不良に怪我をさせてしまい
その事に責任を感じたコウは学校に来るのをやめてしまったのだった。
「…そのリアクションから察するに、会えてないんだな」
「あぁ。そもそも何でお前とマサツグはこっちの世界に?」
「それがな、俺にも良く解らないんだ。社会見学のバスにみんな乗ってたら突然周りが真っ白になって、気が付いたらこの世界に…」
「そうか。お前やマサツグ以外のみんなもこっちの世界に来ていると考えて良いんだな」
「どうだろうな。俺がこの世界に来た時には既にみんなとはぐれていたし、今は戦争やってるんだろ?
2、3人くらいは既に死んでたっておかしくない」
「…随分と冷たい事言うんだな」
「俺だって辛いさ。けど現実はそのメロンソーダ程甘くはない。思い通りになった事の方が遥かに少ないんだ。
最悪の事態を想定しておかないと、こっちが滅入っちまうぜ」
「…全員生きてると言う結果にはならなかったのか」
「担任の深野先生は死体になってるのを見つけたが…お前に言っても解らないか」
あぁ解らない。高校の方にはずっと行ってなかったから。
とコウは胸中で答えた上で、
「だが、人が死ぬのはあまり良い気分にはなれないな…」
「そうだな…。マサツグの奴、死んでなきゃいいがな。
とりあえず、今夜はじゃんじゃん飲むぞコウ!俺とお前との再会祝いだ!」
「良いのか?でも今俺金の方が…」
「良いって良いって!今日は俺のおごりだ!!」
そう言って宮本は飲み物を注いだグラスをコウに差し出すと自らもグラスに同じ物を注ぎ肩の高さまで掲げて見せる。
「それじゃ、友人と幾年かぶり、異なる世界での再会を祝して…乾杯!」
「乾杯…」
グラスを軽くぶつけ乾杯すると、二人はグラスの中身を一気に飲み干した。
「…プハーッ!!ここのドリンク最高だな!!
どうだコウ?俺と呑み比べでもしてみるか?」
「先につぶれた方が負けってか…。
じゃ俺が負けたら」
コウは左腕に嵌めていた腕輪を外すとそれを少し荒っぽくテーブルに置いた。
その腕輪は、かつてコウが戦線に復帰し、力を合わせてクドーを倒した後にリゼルから復帰祝いにとプレゼントされた物であった。
黄金の装飾と嵌め込まれた色鮮やかな宝石が照明に照らされ光り輝いている。
「この腕輪をくれてやる」
「高そうな腕輪だな。何処で見つけたかは敢えて聞かないが、
おいそれとは貰えねぇよ…」
「勝負事だったらなんか賭けないと面白くないだろ?
お前もなんか出せ。俺だけ出したんじゃ勝負にならんだろ」
「お前酔ってるな…。いや、お前そもそも何呑んだ…?」
宮本が恐る恐るテーブルに置かれたボトルのラベルを覗いてみると、
そこには「タワーリング・インフェルノ」と言う何処となく物騒な名前とアルコール度数95と言う表記。
この数値は現在製造されている酒の中で最も高い度数を誇るスピリタスに匹敵する数値だ。
そして同じ物を、宮本自身も呑んでいる!!
「ヤッベェなおい…」
「どうした早く出せ。それとも今更勝負すんのが怖くなったか?」
「…ダァァもう!」
宮本は半ばヤケ気味に懐からある物を取り出しテーブルに叩きつける。
短剣だ。黄金色の鞘と柄に煌びやかな装飾が施された如何にもお宝と言った感じの短剣だ。
「こいつは北東の廃城ヒュッケバイン城を探索した時見つけた物だ。
骨董商で鑑定したもらったら50万アルバはする代物だって話だ!
その出所不明の腕輪とも釣り合うだろうよ」
「上等!」
コウと宮本は再びグラスにタワーリング・インフェルノを注ぐとすぐにそれを飲み干す。
あっと言う間にタワーリング・インフェルノのボトルが空になると宮本が別のボトルを注文。
「サムライハート」と書かれたボトルが運ばれてくるとすぐにサムライハートのボトルを開けグラスに注ぐ。
ボトルを空にしては別の酒を注文し、また空にしては別の酒を注文し…。
なんて事を繰り返している内あっと言う間に時は過ぎ、床には空き瓶が散乱し、2人は顔を真っ赤にしたままにらみ合っていた。
良きは荒く、目の焦点は定まらず、手は震え頭は左右に揺さぶられる。
2人とも泥酔していた。
「うっ……く…」
コウのグラスを持つ手が強張る。
身体が拒否反応を示しているが、勝負にかけるプライドからなのか強引に口まで持っていく。
しかし、
「ぶっ!!?」
一口飲みかけて吐き出すと、コウはその場に突っ伏した。
「ちっくしょう…」と宮本にも聞こえない程小さくぼやくと、そのままコウの意識は途絶えるのだった。
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コウが目覚めるとそこは酒場ではなくルトヴァーニャ城の一室だった。
傍らには見慣れたリゼルの顔があったが、その表情はいつもの穏やかなものではなく、口はへの字に紡がれていた。
「おはよ…」
「お、おう…」
顔色一つ変えずに朝の挨拶を交わすリゼル。
その圧力にコウはただ曖昧な返事をする事しかできなかった。
「聞いたわよ。昔の友達と飲み比べしてたんだって?」
「あ、あぁ…。おかげで今も頭がガンガンする」
「呆れた。いくら休めと言われたからってそんなんじゃまるで休んだ意味がないじゃない!」
ぐうの音も出ない。
こればっかりは完全にコウの自業自得であった。
これからデストラの補給路を断つ任務に就いていた部隊を救出しに行かなくてはならないのに
こんな事で大丈夫なのだろうか?
「…とにかく、だ。状況が刻一刻を争うのは聞いての通りだ。
これ以上余計な私情を挟んで作戦に支障をきたすのは避けたい。
この作戦の成否は友軍の人命に…」
「それってつまりこれ以上詮索も追及もするなって事ですか?」
コウの説弁をシドが遮った。
まずい。完全に疑われている。
こうなった以上どう言い繕っても言い訳としか解釈されない。
ならばもう、こう言うしかあるまい。
「そう思ってくれて結構。だがこれが救出作戦である以上、
私的感情に振り回されて失敗すれば救出対象だけでなく俺たちの命も危ぶまれる。
文句なら戻ってからいくらでも聞いてやる。だから…死ぬな。そして死なせるな。」
不器用ではあるがそれがコウの今言いたい事、伝えたい事だった。
皆に責められる原因を作ったのは他ならぬ自分であるのは言われるまでもない。
だが今は仲間たちに自分を責め立てたいという気分にさせる訳にはいかない。
思考停止と笑わば笑え。
そう胸中で呟きながらコウは仲間たちと共にモアザの下へ向かった。
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モアザ自身の要請でコウ達はいつもの空き部屋ではなく、中庭の方に来ていた。
何故か、と聞くとモアザは後々説明しますと返す。
つまりはそう言う事だろうからコウはそれ以上何も聞かない事にしたのだった。
「た…たった一日休んだだけなのに、何かあったのですか?」
不機嫌そうな顔のリゼルと気まずそうな表情のコウとを見比べたモアザはそう聞かざるを得なかった。
しかし当の二人は何も言わずそっぽを向くばかり。
これにはシドも「察してください」と言うしかなかった。
「…解りました。これ以上の詮索は致しません。とにかく、すぐ出発の準備を。
ただし広大な砂漠地帯で人数人を捜すのは不可能に近い。
皆さんはあの、白龍を使って捜索にあたってください。
よろしいですね?」
「ああ。頼む」
コウ達の目の前に空間の歪みが現れる。
転移魔法の効果によるこの歪みの向こうは補給妨害部隊がいると思しき砂漠地帯と繋がっており、
歪みを抜けた瞬間、コウ達の身体は灼熱の太陽とそれに焼きに焼かれた砂との両面焼きを喰らう事となる。
肌の露出を増やした程度ではその熱さを防げないどころか逆に露出した肌を火傷する事となる。
それを防ぐためにもいつも以上に着込んで行かなくてはならないのが砂漠へ向かう者の大鉄則である。
数人の衛兵たちが人数分のローブを渡し、コウ達は各々にそれを身に纏うと傍らに停めてあった戦闘機「白龍」に乗り込んでいく。
機体の数よりも人数の方が多いため、シドがコウの、エルがツバキの白龍の同乗する。
各々手順を思い出しながら一つずつスイッチを操作し、白龍のエンジンに火を灯す。
準備をしている途中で、リゼルはふとコウが昨日左腕に嵌めていた腕輪が無くなっていたのに気づき、何故なくなったのか疑問に感じていた。
落としたのか、あるいは友人との呑み比べの時………。
一斉にペダルを踏みこみ、白龍を空間の歪み目掛け突っ込ませる。
キャノピーの外が暗闇に包まれたのは一瞬、すぐに眩しいを通り越し痛いと形容できるほどの太陽が頭上に顔を出す。
そしてこの時コウ達リゼル騎士団は気づいていなかった。
リゼルの一瞬の懐疑が、彼らに最大のピンチをもたらす一因となる事に…。




