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オズマ戦記  作者: 葱龍
六章 転生者大戦 激闘篇
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第八十話「決着!さらば愛の戦士たち」

大変長らくお待たせいたしました。

これが野球編最終エピソードになります。


「なんだお前か」


バッターボックスに立った村雨の第一声がそれだった。

腹立たしい限りだがその通りだ。

コウが放ったメテオ魔球が直撃しデッドボールとなったのは他ならぬ村雨自身なのだから。

しかしコウはフッと笑みを浮かべ、


「まさかアンタ、俺がストライクを取れないとでも思ってたりする?」


「思ってたりも何も君はストライクどころかデッドボールをやらかして交替させられたではないか」


「むぅ…まぁ良いさ。アンタのその先入観はすぐに覆る事になる」


コウは左脚を高く上げ、両腕を振りかぶるとオーバースローでボールを投げる。

直後、左手を拳銃に形に作ると、人差し指と中指を右へクイッと曲げてみせる。

するとどうだろう。ボールは突然意思を持ったかのように右へ曲がり、

更にコウが指を左へ曲げるとボールもまた左へと曲がってキャッチャーミットに納まる。


「ス…ストライク…」


審判も村雨も驚きを隠せずにいた。

ボールが意のままに、とでも言わんばかりの軌道で曲がった事になのか、

それともこの様な魔球を短時間で身に着けた事にのどちらなのか、

コウには皆目見当が付かないが。

村雨はコウを睨むと、


「貴様…なんなんだ今の球は?」


「右腕で投げ左手で操作する、魔法攻撃を応用する形で編み出した俺の必殺魔球の1つ。

 その名も『砕呼丸(サイコガン)』!」


「なに!?あの娘以外に魔球を扱える者がいたのか!?」


「時間が無かったから三つしか編み出せなかったがな」


コウの砕呼丸の威力は魔球の名に恥じぬもので、その変幻自在の軌道に村雨は成す術がなく連続三振。

続く流星も出塁こそしたものの盗塁に失敗しツーアウト。

しかし第三バッターの森が流星と入れ替わる形で二塁へ出塁。


勝負の行方は第四バッター、野球魔人RE☆N☆JIに委ねられた…。


野球の知識や経験、能力の全てを蓮司からそのまま受け継いでいるのなら、決して一筋縄ではいかない。

だがここで出塁させれば暗黒球団に並ばれ延長戦になるどころか逆転のチャンスを与える事になってしまう。

何としてもここで野球魔人かランナーの森か、そのどちらかをアウトにしてこの試合を終らせたいところだ。

コウは深く息を吸い、吐くと覚悟を決め、


「勝負だ!!野球魔人RE☆N☆JI!!!!」


「望む所だ!来い!!」


第一球。右腕を振りかぶって投げ、左手でボールの軌道を操る。

だが野球魔人RE☆N☆JIは惑う素振りすら見せる事無くバットを振りかぶる。

打球は真上へ高く舞い上がった後、バッターボックスの真後ろへ放物線を描きながら落下。


「ファール!!」


「当てただと…!?」


一球目から当ててきた事に驚くコウ。

対する野球魔人RE☆N☆JIは、


「左手でボールの軌道を曲げる時、僅かながら左腕も曲げようとしたであろう方向に曲がるのを幾度も見た。

 それが癖だと解れば当てるのは容易い」


「そうは言っても、当てるのがやっとじゃカッコつかないだろ?」


「だがもう砕呼丸は我には通じない。別の手を考えるんだな」


別の手、と言葉が自ずとコウを追い詰める。

メテオ魔球は使えない、砕呼丸は見切られた。

となればもう第三の魔球を使わざるを得ない。


コウは身を沈め、上体を大きく捻ると、

そのまま右手を振るいボールを投げる。

アンダースローから放たれた球は地面スレスレを滑るように突き進む。

だが!


「フンッ」


野球魔人RENJIは振らない。

ボールはキャッチャーミットに納まりはするが、


「ボール!」


キャッチャーのモヨモトは腕を思い切り伸ばしてボールを掴んでいる。

ストライクゾーンからは大きく外れていた。


「くっ…!」


「焦りが見えるぞ。魔球を投げなければストライクは取れないと…そう思っているのではないか?」


「普通の球じゃ投げたってすぐ打っちまうだろ?」


「そうかもしれんが、果たして魔球の有無だけが野球の全てと言えるのかね?良く考えてみろ」


考えてみろ?ここを落とせば逆転負けだってあり得る状況なのに何を悠長な事を。

勝利を確信した者の余裕と言う奴か?

コウがそんな事を独り言ちていると、


「コウ、頑張って!!」


リゼルだった。

いや、リゼルだけではない。

周りを見渡してみると、


「負けるなコウ!」


「頑張れにーちゃん!!」


「例え打たれても僕たちが何とかします!だから投げてください!!」


「今の今まで良い勝負が出来たんだ!俺は負けたって後悔しない!!」


皆の一言でコウはハッとした。

そうだ。俺は1人で戦っているんじゃないし、そもそも野球と言う物は1人で出来るスポーツなんかじゃない。


迷いを吹っ切るとコウはボールを投げた。

魔球でも何でもない、ただのストレートだ。


当然野球魔人はいとも容易く打ち返す。

だが、コウの眼はまだ勝負を諦めた者の眼になってはいなかった。


「みんな、頼んだ!!」


空高く舞い上がる打球。

シャッテは風魔法の応用で、シドは土掌を発射台代わりにして跳躍。

だがまだボールには届かない。

そこでシャッテは自らの両手にシドの脚を載せると、


「いッッッ…けぇぇぇ─────ッ!!!」


両腕を上げシドの身体を弾き飛ばした。

シドはボールをキャッチするとホームベースと相手走者を交互に見やる。


森は既に三塁に到着し、更にホームベースへ向け疾走。

そのスピードは速く、少しでも対応が遅れればあっと言う間に点を取ってしまいそうな気概すら感じられた。


シドは落下しながらもホームベース目掛け思い切りボールを投げる。

ボールは流星の如しスピードでモヨモトのキャッチャーミットに到着。

同時にホームベースまであと僅かと言う距離にまで森が接近!

森は助走からのスライディングでホームベースを目指す!!


「こんのぉぉぉ!!!!」


ボールを掴んだまま森目掛けミットを叩きつける様に振り下ろすモヨモト。

土煙が舞い、二人の姿が覆い隠される。


やがて土煙が晴れ、ホームベース上で交錯する森とモヨモトの姿が露になる。

セーフか?アウトか?全ては審判の判定に委ねられる。

リゼル騎士団、暗黒球団、選手として戦った者、戦いを見守り続けた者全ての死線が審判へと注がれる中、

導き出された答えは……。



「……アウト!!」


リゼル騎士団は湧いた。

その場で飛び上がり、叫び、両腕を高く振り上げて勝利の喜びを力いっぱい表現した。


そんなリゼル騎士団に歩み寄る暗黒球団たち。

試合結果に納得がいかないと殴りかかるのかと思い、身構えるコウだったが、

野球魔人RE☆N☆JIは、


「いい試合だった。我々は君たちに敗けはしたが微塵も屈辱は感じていない。お互い死力を出し尽くして戦う事が出来たからだ。」


野球魔人の後ろから戸倶呂兄弟も、


「俺達も、お前達のおかげで思い出す事が出来た。勝利よりも尊く大切な物を…」


「俺たち暗黒球団はずっと勝利だけを求めた荒々しい試合ばかりやっていた…。

 だがお前達と試合をする内勝てなくても後悔はないと言う今までとは違った感情が芽生え始めた。

 真剣勝負と言う物が、こんなに楽しいものだったなんてな…。ありがとう」


リゼル騎士団と暗黒球団の一同は互いに固く握手をかわす。


「機会があればまたドジャーズに来てくれ。」


「貴方達暗黒球団の様に、デストラの人達ともこうして手を取り合う未来が来れば良いのですが…」


「デストラ?何処かで聞いたような……」


デストラと言う言葉に首を傾げる暗黒球団にコウは驚愕した。

今やルトヴァーニャと大和、それにリゼル騎士団が解放したルスナと智龍の谷以外の殆どの国を支配しているデストラ。

その名を何処かで聞いた程度にしか知らないと暗黒球団は言うのだ。

それはすなわち…


「コウ、これってもしかして…」

「…デストラを何処かで聞いた程度にしか知らないと言う事は、エタニティはもっと知らない。

 彼等はアルバスとは無縁だろう。」


「けど待って!この国は暗黒球団に支配されているとモアザさんも言ってたじゃない!?

 純粋に勝つ事が目的だと言うのなら…」


「暗黒球団とデストラが繋がっていると言う前提が間違っていたか、

 黒幕が別にいるか………」


コウが僅かな情報から真相を導き出そうと長考していると、コウは強い殺気を感じ、


「ッ!?伏せろ!!」


コウが叫んだ直後、轟音と共に無数の銃弾が撃ち込まれる。

コウ達リゼル騎士団は寸前に回避し無事だったが、暗黒球団の森とロックが躱しきれずハチの巣にされる。


リゼル騎士団と残った暗黒球団等が同時に空を見上げると、そこにはローター音を轟かせながら滞空するヘリの姿。

そしてそのドアから自動小銃を向けているのは………


「大沢…ぷくぷ!!」


「俺抜きで試合やるとは良い度胸だな!!こっちがサツぶちのめして戻ってくるのを待ってからでも遅くは無かったろうが!!」


「俺達だけならいざ知らず自分の仲間すら巻き添えにするなんて!!」


「良いじゃんかよたかが2人死んだくらい。

 今この世界には何千万って数の人間がいるんだからどうって事無いだろ」


まるで人の生き死にに興味がないかのようなぷくぷの態度に一同は驚愕した。


「許せねぇ…。」


「どう許さないってんだあーん?」


「こう許さないんだよ!!」


コウ達はぷくぷの乗るヘリ目掛け一斉に魔法攻撃を仕掛ける。

だが、コウ達の魔法はヘリを仕留める事は無く、その寸前で雲散霧消する。


「なにッ!?」


「まさか…対魔法装甲!!?」


対魔法装甲。

装甲板の表面に魔法耐性を付与する術式を込めたルーンを刻印する事で

戦車やヘリに魔法攻撃への耐性を与える物だ。



「バーカ!俺が何の対策もしないで来ると思ってんのかー?

 アルバスも気前が良いぜ、こうやって一方的に相手を嬲り者に出来る装備をおいそれと分け与えてくれるんだからよぉ」


「くっそ…!よりにもよってアイツかよ、デストラと繋がってたの…!

こんな時聖剣があればあんな奴…」


煽るぷくぷ。焦るコウ。

国の条約により武器を置いて行かざるを得ず、魔法も聞かない今、

このまま嬲り殺されるのを待つしかないのか?

そんな折、


「我に任せてもらおう」


野球魔人RE☆N☆JIだった。


「お前…」


「奴が如何なる人間かは蓮司から引き継いだ記憶でしか知らん。

 しかし、奴の中の悪意を知りながら皆何もせずにいたのもまた事実。

 宿主の罪は我の罪、チームの罪は我の罪。

 どうか我にその贖罪を果たさせてもらいたい…。」


「まさかお前…!」


「野球魔人最後の魔球…!それは、我自身が魔球になる事だ…!!」


野球魔人RE☆N☆JIは全身を赤い光で包み込むとぷくぷの乗るヘリ目掛け一発の弾丸となり突撃。

最後の魔球となった野球魔人RE☆N☆JIの突撃は魔法ならざる力による物なのか、

ヘリはその一撃を弾き返す事無く爆発四散。


ヘリの残骸に交じり片足を失ったぷくぷがコウ達の目の前に落下する。

野球魔人RE☆N☆JIの姿は…確認できない。

コウはぷくぷに踵を返し、


「…後はお前達とこの国の人達に任せる。」


「やっつけないの?」


ぷくぷを敢えて見逃さんとするコウにシャインが問うと、


「そんな事する価値も無いし、そうすれば野球魔人の犠牲が無駄になると思う…。

 行こう。この国で俺達がやる事はもう無くなった。」


コウは暗黒球団等に深くお辞儀すると静かにその場を去ろうとした。


「待て」


しかし戸倶呂弟がコウを呼び止める。

コウが戸愚呂弟の方を向くと、戸倶呂弟はコウにある物を手渡した。

野球ボールだった。


「今日の試合の餞別だ。俺達の事、絶対忘れない様にするのは無理だとしても時々は思い出してくれ」



戦いの一部始終をベンチだった場所から見ていたテリブル・デッドは、


「っは~ッ!…あの様子だともうルスナでの一件はとっくに吹っ切ったみたいだな。良かった良かった。

 さてと…」


「行ってしまうのか?」とマスター・リドはテリブル・デッドに問う。


「仲間にならないかって?お生憎様。俺正義の味方とかそう言う堅ッ苦しいのガラじゃないんだよ。

 確かにアルバスの野郎は気に入らないさ。だがだからと言って軍隊に入ってどうこうしようってのは違うと思うんだよね。」


「ならばどうする?たった一人では一国家には勝てぬぞ」


「俺は絶対死なない転生者だ。勝てないとしても喉元に喰らいつくぐらいはできる。あばよ爺さん、生きてたらまた会おうな」



そう言ってテリブル・デッドは後ろ手に手を振りながらその場を後にする。


一方のコウは、手渡されたボールをじっと見つめている。

その身を犠牲にしてでも試合に勝たんとする意地を見せ散っていった伝氏蓮司。

殆ど無縁ながらも仲間の暴走に罪悪感を感じ贖罪の為その命を燃やした野球魔人RE☆N☆JI。


出来る事ならもっと平和な時代に会いたかった。

命を賭けたりせずもっと気ままに野球がしたかった。

そう思うとコウの意思とは無関係に涙の雫がその頬を伝っていた。



これにて野球編完結です。

次回からはいつもの何でも屋に戻ると思います。

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