弟七十七話「戦慄!暗黒球団の本領」
「イナズマ1号」と名付けられたリゼルの魔球の勢いは凄まじく、
戸倶呂兄から瞬く間に奪三振。
続く第三バッター森もイナズマ1号を見切れずに奪三振を許す結果となった。
「素人連中相手になんてザマだ!それでも悪名轟かせし暗黒球団か…!!」
暗黒球団側のベンチに座す暗黒球団の監督野割黒雄は苛立たし気に呟いた。
「ですが、あいつ等素人と言う割にはかなり出来ますよ。
こちらが手を抜いているとは言えあんな速球を投げてくるなんて、誰も予想してませんでしたから」
伝士蓮司は深々と頭を下げながら弁明する。
すると黒雄監督は、
「…それだけ連中の実力がこちらの予想を上回っていると。まぁ良い。
少し早いだろうが、全力を見せてやれ。もうツーアウトだ。一点くらい取ってこい」
「はい」
短く応じると蓮司はバッターボックスへと赴いた。
「投球はかなりの物みたいだけど、打撃の方はどうかしらね」
二連続奪三振で調子づいたリゼルが余裕の笑みを浮かべながら言った。
しかし蓮司は真剣な面持ちで、
「驕るな小娘。貴様の魔球など直に打ち破ってくれる」
きっとハッタリだ。
そう自分に言い聞かせながらリゼルが投げる。
鋭いスピードのイナズマ1号はキャッチャーミット目掛け一直線に突き進む。
しかし!
「ふんっ!!」
蓮司が振るうバットがイナズマ一号を捉える。
ボールは上空高く舞い上がり、ファウルゾーンへと弧を描きながら落下していった。
「ファール!!」
ファウルとは言え当てた。
その事実がリゼルを激しく動揺させる。
動揺をぬぐい切れないまま第二球。
しかしそのスピードは第一級の時よりも遅い!
「貰ったァ!!」
グワァラゴワガキーン!!
けたたましい音と共に空高く打ち上げられるボール!
しかも今度はファウルゾーンではなく、リゼルの頭上を抜け客席へ一直線。
「ホ…ホームランだ─────────────────────────!!!!」
沸き立つ双方のベンチ。一塁、二塁、三塁を抜けホームベースへと舞い戻る村雨と蓮司。
暗黒球団側に二点が入り一瞬の内に暗黒球団とリゼル騎士団との点差は僅か一点にまで追いつかれた。
「タイム!」
そう言って試合を一時中断させるとコウがリゼルの下へと駆け寄る。
リゼルは棒立ちのまま呆けた表情を浮かべ何かを呟いている。
「リゼル…リゼル!!」
リゼルの肩をゆすりながらコウが怒鳴ると、リゼルは我に返り、
「!?……コウ?」
「しっかりしろ!打たれはしたがまだ点差が埋まっただけで逆転はされてない!!
あと1人アウトにすれば良いだけだ!」
「けど…魔球と呼べるのは今打たれたイナズマ一号しか…」
「だったら今二号を編み出せば良い!!リゼルならきっと出来る!」
そう言うとコウは自分のポジションであるショートの位置へと戻っていく。
「…今編み出せって……簡単に言ってくれちゃって」
蓮司に続かんとバッターボックスに戸倶呂弟が立つ。
20マルール(2メートル)はあろう巨体がリゼルに威圧感を与える。
「ッ…!」
リゼルが第一球を投げる。
だが、
「ボール!」
球はストライクゾーンを大きく逸れた。
この場合キャッチャーが取れたとしてもボール、不正球と判定されてしまう。
このボールを4回宣告されるとフォアボールとなり、戸倶呂弟は一塁へ歩を進めてしまうのだ。
そして不正球を出してしまったという焦りは更なる焦りを産み、
「ボール!」
二度目のボールを招いてしまう。
瞬く間にツーボールと言う事実にリゼルは目を見開き、荒く息を吐き始める。
そんなリゼルの様子をベンチで見ていたマスター・リドは、
「マズいのぅ…。リゼルのヤツ完全に平常心を失っておる。
このまま投げさせて点を与えるくらいなら、いっそ他の者に…」
「それで良いのか爺さん?」
マスター・リドが声のした方を見やると、赤黒い覆面の男が、テリブル・デッドがベンチに座っていた。
傍らにはポップコーンとソフトドリンク。男はだいぶリラックスした様子だ。
「ここは関係者でない者が立ち入って良い所ではないがな」
「天下の主人公様はあの嬢ちゃんがこの危機を乗り越えてくれると信じてる。
なのに師匠である筈のアンタが信じてあげないでどうするよ」
「話聞かぬか」
「心配すんな、あの嬢ちゃんはこんな所で立ち止まる様なタマじゃあねぇ。
それはアンタが一番よく理解してる筈だぜ」
「それは……いや、お前さんの言う通りかもな。
赤の他人であるお前さんが信じてるのに、ワシがリゼルの事を信じてやれないとは…。
ありがとう。ええと……」
「テリブル・デッド…て名前で世間じゃ通ってる」
再びマウンド。
声援と罵声の入り混じった怒号を聞かないようリゼルは意識を集中させる。
私はやれる。私は出来ると自分に言い聞かせ、運命の第三球を投げる。
しかしその球速は遅く、軌道もかなり緩やかだ。
「バカめ。これでは打って下さいと言ってる様な物…!!」
戸倶呂弟が呟きながら打つ。
と、ここでリゼルはある事に気が付いた。
戸倶呂弟の打った球は真っ直ぐにこちらへ向かってきている。
速度はやや速いものの捉えられない程では無い!
リゼルは迷わず後ろへ跳び、ミットを嵌めた左手をボールの方へと伸ばす。
バシン、と言う音の後の静寂。
スタジアム内に居合わせた者全員の視線がリゼルのミットへと注がれる。
リゼルは審判、キャッチャー、そして戸倶呂弟の方へとミットの中を見せた。
ミットには、先程戸倶呂弟が打った球がスッポリと納められている。
「…アウトー!!スリーアウトチェンジ!!」
審判が一回目の攻防が終わった事を告げる。
得点はリゼル騎士団が3点、暗黒球団が2点。
開幕3点を取ったまま逃げ切ったリゼル騎士団は円陣を組むと、
「点差は一点だが俺達が有利だ!このまま逃げ切れば勝てるぞ!!」
「オー!!」
「このまま暗黒球団に勝つぞー!!」
「オー!!」
自軍優勢に沸き立つリゼル騎士団を見やると蓮司たち暗黒球団は不敵に笑い、
「奴等、もう勝った気でいやがるぜ…」
「愚かな奴等よ。我々暗黒球団が、如何にしてドジャーズの球団全てに勝利したのかも知らずに…」
「だが貴様等の潜在能力の高さは認めてやろう。褒美に俺達がいつもより早く地獄を見せてやる」
そして迎えた二回表。
第一バッターとして先陣を切るのはゴンザ。
対する暗黒球団側のピッチャーは一回と同様伝士蓮司。
「点差は大きい程良い…。その分皆を安心させられるから。
ホームランは打てなくとも、塁を進めて次へつないで見せる!!」
「塁を進める?残念だがそれは不可能だ。何故なら貴様はこの俺の手でバッターボックスに沈められるのだからな」
「な…何を!?」
「受け取るが良い!これが貴様を地獄の底に叩き落す必殺魔球!
その名も『コブラバイト』!!」
コブラバイト、と名付けられたそれは真っ直ぐにストライクゾーンを突き進む。
なんだ、大層な名前を付けてるが結局はただのストレートじゃないか、と思いバットを振るうゴンザ。
だが!ボールは突然その軌道を変え、ゴンザの下顎へとクリーンヒット!!
「な!?グワ─────ッ!!!」
空高く舞い上がり、そのままバッターボックスへと頭から落下するゴンザ。
一方のボールはまるで獲物を狩り終え巣へ戻る獣の様にキャッチャーミットに納まっていた。
「ストライーク!!」
非情とも取れるストライク宣言。
この時ゴンザは既にバットを振ってしまっている為デッドボール扱いにはならず、
仮にバットを振らずデッドボールと判定されていたとしても負傷退場となり塁に出る事は無い。
この時コウ達はようやく理解した。
暗黒球団が何故暗黒を名乗るのかを。
それは相手を威圧する為の言葉遊びではない。
非正規の集団だからでもない。
勝利の為ならば決して手段を選ばないその荒々しく残忍なプレイスタイルから名付けられたのだ。




