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オズマ戦記  作者: 葱龍
一章「消えた聖剣と呪われし王女」
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第七話「裏切りは憎しみ深く」

クドーが全速力でコウ目掛け一直線に突進してくる。

4人の中で唯一武器を持っていない者から先に始末する算段だ。

聖剣を握る左腕がコウの頭目掛け振り下ろされる。


「危ない!!」


クドーとコウの間にカイルが割って入り、聖剣による一撃を剣で防御する。


「た、助かりました…!」

「ボーッとしてくれるな。君がいてくれないと我々の勝算が一気に落ちるんだからな」


自ずと皆の足手まといになっている。

コウは自責の念に苛まれそうになるが、

それはすぐに思考の外へ追いやられた。

クドーが右腕から赤黒い糸と刃を出してきたからだ。


「危ないそいつ刃出してきた!!」


コウが叫ぶとクドー目掛け火の玉が飛来しクドーの左肩を焼く。

リドの魔法による援護攻撃だ。

更に両サイドに回り込んでいた騎士達の放った矢がクドーの右肩と左脇腹に突き刺さる。


「ガァゥッ!!?」

「お主の相手は一人だけではない事を覚えておくのだな」


矢と炎によるダメージを受けたクドーは、


「ぐぅぅぅ……参りました!!」


聖剣を置き、両膝をつき両手を地面に添え額を地面に擦り付ける…土下座の姿勢をとった。


「俺の負けだ!聖剣は返す!牢屋に入れと言われれば入る!!罪も償う!だからどうか…どうか命だけは!!」

「い、一体何をやっているのこいつは?」

「あれは土下座ってヤツだ。俺の国では最大限の誠意と謝罪の意思表示とされている。しかし・・・」

「しかし?」


コウには不可解でならなかった。

あれだけ破壊を楽しんでいたクドーがこうもあっさりと自らの敗北を認め聖剣を返すだと?

ああも聖剣に固執していた男が、ありえない。裏があるとしか思えない。


「……とにかく警戒しろ」

「解ったわ」


コウはリゼル達に忠告すると今度はカイルの方を見やる。

彼は剣の切っ先をクドーに向けたままじりじりと距離を詰め、


「散々私の部下を殺しておいて自分が死ぬのは嫌と言うか!恥を知れ!!」

「騎士とあろう者が復讐かよぉ!」

「復讐ではない。明日の未来を守るための制裁だ!己が快楽の為だけに殺戮を行う、お前の様な奴は人の世にあってはならない存在だ」

「そうかいそうかい…意地でも俺に盾突きたい訳だ…」


コウは見ていた。

クドーが土下座の姿勢のまま出していた赤黒い刃がほつれ、一本の糸に変わっていく様を。

そしてその糸がカイルの首に絡められていくのを!


「カイルさん!!」


コウが叫んだ瞬間、カイルの体が宙に浮かび上がる。

首にはコウにしか見えない赤黒い糸。

それはカイルの首をギリギリと音を立て締め上げる!


「が…ぁっ……!!」

「じゃあもう対話の余地は無い訳だ。もう死ぬしかないな、お前ら」


そう呟きながらゆっくりと立ち上がり、肩と脇腹の矢を引き抜くクドー。

目の前で1つの命が失われようとしている状況にコウの瞳孔が見開かれ、息が荒くなり、心臓の鼓動は激しさを増していく。

リゼルか外側で待機してる騎士に糸を切らせるか?だとしても何処を狙わせれば良い。

そもそもあの糸は切れるのか?考えろ、早く考えろ、でないとカイルさんが死ぬ。

鼓動は一層激しさを増しコウに早くしろと急かし始める。


「う…うああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


気が付けばコウは叫び、クドー目掛け一直線に突進していた。

バランスを崩しコウもろとも倒れるクドーと糸から解放され弾け飛ぶカイル。

すかさずコウはマウント姿勢に持ち込み、


「この!このぉ!!このぉぉぉ!!!」


クドーの顔目掛けパンチを三連続で叩きつける。

そして4発目のパンチを繰り出そうとした時、コウはある事に気が付いた。

自分がクドーの顔に見覚えがある事に。

しかし中学にも高校にもクドーの様な奴はいなかった。

一体どこで・・・?コウは必死に自身の記憶をたどり、そして思い出した。



それはコウが元いた世界。

コンビニで買い物を済ませ家に戻ろうとした時。

コウの目の前を猛スピードで突っ切ったバイク。

そのライダーの顔こそが……!!



「テメェは!!?テメェはなんでここにいる!!なんで!!お前までが!!!ここに来たんだ!!!!?」


一度自分の人生が終わるきっかけを作った男が今こうして目の前にいる。

あまりに数奇で残酷な運命を恨みコウは叫んだ。そして殴った。

クドーの顔を。何度も、何度も。お前さえいなければ。あの時お前があの場に来なければ。

コウの怒りはもはや収まりようがない。

しかしその慟哭に割り込むように恰幅の良い男がコウを羽交い絞めにし、クドーから引き剥がす。


「ボス!早くトドメを!!」

「あぁ、解った」


クドーは再び糸を刃の形に変えると、それを勢いよく突き刺した。

コウと、仲間であろう恰幅の良い男の背中に。


「ガッ……!!」

「な…何故……?」


「ボルタ!!!」

「コウ!!」


ボルタ、と呼ばれた恰幅の良い男とコウが倒れ、少女とリドが二人の元に駆け寄る。


「心配するな!すぐ回復してやる!!」

「なんで…なんで!?貧しさから解放してやるって言ったのに!!」


ボルタとコウの傷をリドが回復魔法で治す中、少女は恨めし気な顔でクドーを睨む。


「貧しさから解放する…確かに言ったな。貧しい生活に喘ぐ日々から、死を持って解放する…何も嘘は言っていない」


仲間を手にかけておきながら何ら悪びれる様子のないクドーにカイルとリゼルも、


「外道め…!!」

「なんで…!?彼は貴方の仲間なんじゃなかったの!!?」

「たまたま利害が一致したってだけだ。それにあんな社会的にどうでも良い奴を俺がどう扱おうが俺の勝手だろ?」


そう嘯くクドーにカイルが斬りかかるが、クドーは一瞬の内に糸を痩せた男の首に絡め自らの目の前に移動させる。


「ッ!?」

「立派だよ騎士さん。騎士たる者、弱い者は守らないとねぇぇ!!」


カイルの斬撃は中断され、逆のクドーの蹴りを食らう羽目となった。

ダメ押しにとクドーは痩せた男の首をへし折り、カイル目掛け投げ飛ばす。

リゼルも蹴りで応戦するが、足首を糸に絡めとられ弾き飛ばされる。


咄嗟に受け身を取り大ダメージは免れたリゼル。

反撃せんと駆け出すが、予想だにしないアクシデントに足を止める。

クドーの腹には二本のナイフ。投げたのは、仲間だった少女。


「なっ…!?」

「き……きさ…まぁぁぁ………!!」

「ボルタは、聖剣を盗むリスクを知りつつも貧しいスラム暮らしから抜け出す為だとアンタについていった。

 ロナウドは、アンタなら私達を救ってくれると信じていた……。なのにアンタは!二人の想いを無残にも踏みにじった!!

 その罪の重さを知りながら死んでいきなさい!!」


少女は目尻に涙を浮かべながら叫ぶ。

信じた者に裏切られた怒りと悲しみが見て取れる様であったが、当のクドーは、


「所詮カースト底辺のゴミには最初から利用されるだけだって疑う事も出来なかった訳だ…。

 テメェはいつでも始末できると思っていたが…気が変わった。エル、お前今から殺すわ」


右腕から出た糸を三度刃状に変えるクドー。

しかしエルと呼ばれた少女の前に黒い鎧が、リゼルが両腕を広げ立ちはだかる。


「邪魔だどけ」

「どかない。どいたらこの子を殺すつもりなんでしょ?そんな事は絶対にさせない。やるなら私を倒してからにしなさい!!」

「だからどけってのぉ!!」


赤黒く、しかし見えない刃がリゼルに殺到する。

一度斬りつけたら踵を返し再び斬りつけ、何度も何度も斬りつけ…

リゼルの纏う戒めの鎧は鋼以上の硬度に加え外部から鎧を引き剥がされない様防御の魔法が施されているが、

流石にこう何度も斬りつけられては鎧が保たない。

戒めの鎧に幾つも切り傷が生まれ、所々白い地肌が露になる。


「やめて!私なんかの為に命を張る必要なんてない!!下がって!!」

「そうやって自分を下に見るのはやめなさい。目先で奪われようとしている命があったら助けるのは必然どころか義務。

 それがこの騎士の国ルトヴァーニャにおける掟!そして私は…ルトヴァーニャの王女リゼル・ミァン・ルトヴァーニャなのだから!!!!」


リゼルが叫ぶと同時に赤黒い刃が彼女を覆う鎧を切り裂く。

鎧はその機能を完全に失い、大小さまざまな大きさの破片となってリゼルの足元に崩れ落ち、転がっていく。


「リゼル……!その姿は!?」


依然コウとボルタの回復に専念していたリドが驚愕する。

見る者に畏怖を与える禍々しい鎧は既にそこにはなく、

白い肌、風になびく美しい銀色の髪、宝石の様に輝く黄金色の瞳を持つ美くしい少女がクドーの前に立っていた。


評価していただき誠にありがとうございます!

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