第七十五話「挑戦!暗黒球団」
今回から少しの間野球編となります。
甲子園の決勝には…多分間に合わないでしょうけどよろしくお願いします
ドジャーズと言う国に行ってもらう、とコウが指令を受けたのは
智龍の谷から戻ってきて四日後の事であった。
ドジャーズは野球が盛んで、
三年に一度12の地区の野球チームが試合を行い、優勝した地区が三年間ドジャーズの自治を担う国家であったが、
突如現れた「暗黒球団」なるチームに12チーム全てが敗れ去り、ドジャーズは暗黒球団の支配下に置かれてしまったと言うのだ。
「つまりその暗黒球団と言う連中をやっつければ良いんだな?」
城の一室でドジャーズの現状についてモアザから説明を受けたコウが言った。
「はい。ただしドジャーズは個人、組織、思想を問わず一切の武器の所持が禁じられている国です。
聖剣をはじめとする装備は全てこちらに置いて行って下さい」
「丸腰でどう戦えと言うんだ」
「ドジャーズがどういう国かを思い出してみてください。
そうすれば自ずと戦い方が見えてくる筈です」
野球…。
それが答えだ。
がしかし、コウは小学校以来まともに野球をやった事がない。
リゼル達に至ってはそもそも野球が何を指す言葉なのか解って無いのではと言う疑いすらある。
「…シャインとシャッテは、野球をやった事はあるんですか?」
「ありません。ボールもバットも見せた事が無いんです…」
「先が思いやられるな…プロが束になってもかなわなかった相手にズブの素人が立ち向かう羽目になるなんて……」
「そういう時は逆に考えれば良いんですよ。知識と経験を広げる絶好の機会だと、ね」
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コウ達がたどり着いたのはドジャーズの中で特に広いスタジアムを有する「カボス」。
カボスチームの監督が早速コウ達を出迎えに来てくれた。
野球をやりに行く、と言う都合上今回はいつもよりメンバーが多く、
普段は留守番を任されているゴンザ、モヨモト、マスターリドも同伴している。
「ルトヴァーニャのリゼル騎士団の方々ですね。お待ちしておりました」
まずはコウと監督が固く握手。
「では早速準備を。三時間後には試合が始まりますので」
「三時間後!?早いよ!!」
僅か三時間後に暗黒球団との試合が始まると言われコウは激しく動揺する。
「そこはもっと練習とか打ち合わせとかに割く時間を用意してもらわないとだねェ!」
「私もそう言ったのですが暗黒球団の人達がせっかちな所で…
与えられた3時間でどうにかするしかありません」
「言うだけなら簡単ですよ。けどこっちは…」
野球をどれだけやった事があるか、とコウが目配せ。
リゼルは砂丘なら知ってる、シャインとシャッテは何それ知らない、エルとゴンザとモヨモトは3日、
ツバキは2か月、シドはダル〇ッシュが関係あるのは知ってる、リドは大リー〇ボール養成ギプスを作った知人を知ってると答えた。
想定しうる中でも最悪の部類に入る答えだった。
「そういう貴方は、野球はどれくらい…」
「ドカ〇ンは俺の親父の愛読書です」
コウはドヤ顔で答えはしたもののこれも最悪の部類に入る答えだった。
全員、素人。
暗黒球団に勝利できる確率は現状0%だ。
あと3時間で確実に勝利できるだけの実力を身につけさせる事は不可能。
ならばせめて、まともな試合ができる様にするのが、監督とリゼル騎士団の責務であった。
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カボススタジアムに付くや即座に特訓が執り行われた。
カボスチームの監督の指導の下、コウ達リゼル騎士団は投球、キャッチ、バッティングと
野球を行う上で必要な要素をみっちりと骨身に叩きこまれるのだった。
厳しく、激しい特訓の中、各々が自分の得意分野を見出し、
コウ達は剣をバットに、鎧をユニフォームに変えた『野球戦士』として覚醒していった。
そして、試合の時がやってきた!
カボススタジアムの中央で横一列に整列したコウ達リゼル騎士団は緊張していた。
特訓こそはしたがそれが試合で発揮されるかはまた別の話。
相手の方が一枚も二枚も上手だったと言うのもあり得ない話ではないのだ。
「あれだけみっちりと練習したんだから、勝てるわよね?」
リゼルが不安げな表情をコウに向ける。
「さぁ…暗黒球団がどんな連中なのか俺も知らないから何とも…」
「暗黒と言うからにはどんな非道な手段も辞さないとか?」
モヨモトが怯えながら言う。
「いや意外と真っ当に野球してくれるかも知れない」とツバキ。
「来たぞ!」
コウが叫ぶと同時に彼方から巨大な影が迫る。
鷹だ。巨大な鷹が飛来してきたのだ。
そして巨大鷹から9つの影が舞い降り、コウ達の前に着地した。
9つの影は体格こそまばらだがいずれも同じ黒いマントとフードで体を覆っており、素顔を伺い知る事は出来ない。
「お前達が、暗黒球団か」
コウが問うと黒マントのリーダー格と思しき男が、
「暗黒球団の方々ですか、でしょうが。無礼な人達だな」
「そんな恰好してるアンタ達に言われたくはないね。
作戦の一環なのか趣味なのかは知らないけど」
「これは失礼した。ではその礼儀に応じるとしよう」
そう言うと9人は一斉に黒いマントを脱ぎ捨てその御姿をさらけ出した。
同時に9人の顔写真、名前、背番号などがスタジアムの電光掲示板に一斉に表示される。
1番 ライト 大文字健 元ラグビー選手
2番 サード ロック・バリスタ 元ボクサー
3番 ショート 大沢ぷくぷ 元漫画家
4番 ピッチャー 伝士蓮司 元空手家
5番 キャッチャー 羅偶守 元力士
6番 ショート 戸具呂兄 元レーサー
7番 センター 戸具呂弟 元プロレスラー
8番 ファースト 森進一 元バレーボール選手
9番 セカンド 村雨憲吾 元機動隊員
うわぁ、野球関係ある職業の人が1人もいない。
と言うのがコウ達の総意であった。
何故野球をやろうと思ったのか、そもそもこんな面子で野球ができるのか全く解らない。
この試合、まともな結果に終わらないだろうと誰しもが予想していた。
そして、まともじゃない展開は早速訪れた。
「初めましてだなリゼル騎士団。このドジャーズのルールに則り
野球で我々に勝負を挑もうと言うその精神は買おう。
だが勝つのはあくまで我々…」
リーダー格と思しき男、蓮司が話している途中、乱入者が三名スタジアム内に入ってくる。
「警察だ。元漫画家の、大沢ぷくぷだな」
「そうだけど」
「コンビニエンスストア『ローンソ』の店員22名を殺害した容疑で、貴様を逮捕する!」
「あ゛!?何バカな事ぬかしてんだ!これから試合なんだぞ少しくらい待ちやが」
「良いから来い!!」
手錠をかけられ、警察官に連行されていく大沢ぷくぷ。
抵抗しながらもより強い力で連れられるぷくぷの背中を見て
あぁ、アーサレナにも警察っているんだなとコウは思うのであった。
大沢ぷくぷは後日の取り調べに対し「先の割れたスプーンを寄越したから」と供述しており、
その身勝手な動機と残忍な犯行は情状酌量の余地が無い上遺族に対し「うるせぇバーカ」等と挑発するなど
反省した様子が一切見られないとして最高裁は大沢ぷくぷに対し無期懲役の判決を言い渡すが、それはまた別の話である。




