第七十二話「殺意と慟哭と勇者の復活」
「その脚…!?」
シドが言いかけた瞬間、クドーがシドの目の前から消える。
何処に行ったのかと首を巡らせた瞬間、鮮血を噴き出しながらリザードマンが1人、また1人と倒れ伏す。
速い。いつ動いたのかすら解らない程速い。
足音すら立てずにこれ程の機動、獣のようではない。獣そのものだ!!
「クッ、動きを止めるつもりがもっと早くしてしまう結果になるなんて…!!」
「どけッ!!俺がやる!」
そう言うとシロウはシャッテの肩に触れた。
イリーガルユースオブハンズ?否、これがシロウが異能を発動させる為のスイッチ。
シロウは触れた相手の技をパク…もといコピーする事が出来るのだ。
シロウが右手を振るうと、クドーの周囲が瞬時に凍り付き、クドー自身も右腕と左脚を凍らされる。
シロウはシャッテから氷属性の魔法をコピーしていたのだ。
「いくら新しい脚を生やしても、こうして動きを鈍らせてしまえば!」
シロウはクドーに近づき、胸倉を掴み上げ、顔面を殴る。
クドーに怖気づいた様子は見られない。
「対処は容易い!!」
更に腹を殴りつける。
しかしクドーはクッと唇の端を吊り上げ、
「…ホントニソウ思ウカ?」
瞬間、シロウの腹を赤黒い刃が貫く。
傷口と、口から血が溢れ出す。
「グッ…!!?」
「対処ガ容易い?コッちノ台詞だ…」
刃を引き抜くとクドーはシドの方を見やり、
「見なイ顔ダな…。まァ良い…。どウせお前モ死ぬンだカラ……」
「くッッッ…そぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
シロウが残された力を振り絞り、クドーの頬目掛け右ストレートを振るう。
それをクドーは目線を合わせる事無く左手で受け止めると、
「寝てろ。この劣化コピーが」
右手で頭を掴み叩き伏せる。
昏倒し動かなくなるシロウ。
クドーはジン・ハゥロンを指さすと、
「オ前、俺ヲ殺しニ来たノカ…?ソれとも…殺さレに来タノカ…?どっチだ……」
ジン・ハゥロンは息を呑みこみ、吐き出すと、
「…無論、殺しに来た。お前を野放しにすれば、多くの人々が犠牲になりかねないからな」
「ハッ…ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!
殺しニ来タだと!?こンな雑魚引き連れテか?死ニに来たノ間違イだろ!!?」
ジン・ハゥロンはクドーの言葉に苛立つと同時に己の無力さも痛感していた。
力の差がありすぎる。転生者と言う者の強さがこれ程だったとは。
いや、転生者ならこちらにもシロウがいる以上戦力差はイーブンの筈。
単にクドーの力が上回ってただけの話か。
こんな時、小妻コウがいてくれれば………。
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何でも屋オズマのドアがノックされ、リゼルはドアを開け訪問者を迎え入れる。
ドアの向こうにいたのは、モアザ・バルバ。
「…何かあったんですか?」
「今、シド様達が苦戦しています…」
「何を言っているの?戦力的にはシド達の方が有利な筈なのに…」
「いえ、千里眼の魔法で彼等の戦いを視ていたのですが、
デストラ側は奥の手として封印していた転生者を解き放ち、
その圧倒的な力の前にシド様達も………」
「転生者?誰なの?」
「確か、クドーと呼ばれてた様な…」
「クドー!!?」
その名を聞いた途端リゼルはすぐに踵を返しコウの部屋へと向かった。
聞き間違いでないなら、それはとてつもなく恐るべき事態であると言う事をリゼルは知っているからだ。
コウの部屋の前まで来るとリゼルは肩を上下させ、呼吸を整えながら扉を開ける。
コウは依然、ベッドで横になっている。
「ハァ…ハァ……コウ聞いて…‥!シド達……今…クドーと戦ってる……!!」
その名を聞くやコウも起き上がり、
「…本当か?」
「嘘や冗談ならもっとマシなのを考えるわ。ましてやクドーの異常性、凶暴性を一番よく知ってるコウ相手だと、尚更ね」
「……」
目を伏せ沈黙するコウ。
「まだ、決心つかない?」
「4年くらい前…になるかな。学校で友達がいじめを受けてて、
俺がそれを止めようとしていじめっ子と喧嘩になったんだけど…
弾みで相手を怪我させてしまって………!!」
「それで、自分の部屋にこもり出したの…」
「親にも先生にもこっぴどく叱られて、その時俺は悟ったんだ。
たとえ自分が正しいと思った事でも、周りから認められなければ意味なんて…」
「あるよ!結果がどうあれ、コウは自分が正しいと思った事、成すべきと思った事をやったんでしょ?
人に言われたからではなく、自分の意思で!!」
「それは…そうだけど………」
「貴方の過去に何があったかは知らないけど、少なくとも私は貴方の正しいと思ってやったであろう行動に救われた!
私だけじゃない!!エルも、シャインも、シャッテも、みんな貴方の正しさによって救われてる!!
解る?みんな貴方に救われたのよ!!?」
そうだ。みんな自分が助けたくて、どうにかしたくて行動して、
結果的にどうにかできた人々で「何でも屋オズマ」ひいてはリゼル騎士団は構成されている。
俺が何もせずただふらついてばかりだったら、みんな出会って仲間になる事すら無かっただろう。
コウはその事を思い出した。
「コウ、貴方がもし、自分が正しいと思った事をするのが罪だと考えているのなら………
その罪、私にも背負わせて。」
そう言ってリゼルはコウを強く抱きしめる。
ほんのりと香るリゼルの匂いが、コウの鼻孔をくすぐる。
「……なんか、ごめん。リゼルにもみんなにも心配かけたし、酷い事も言ったりして………」
「良いのよ。もう気にしてないから。」
「…リゼルって、良い匂いがするんだな」
「もう…バカ」
リゼルは微笑みながら囁く。
満更でもないと言った感じだが、それはコウも同じ事だった。
もう迷わない。
自分が正しいと思った道を、迷わず進み続ける。
そして今の自分が正しいと思う道は、仲間を助けに行く事だ!
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血だらけになりながら倒れるシャインとシャッテ。
周囲には同じく血だらけになったツバキ、シド、ジン・ハゥロン、シロウと
返り血を浴び不気味な笑みを浮かべるクドー。
クドーは大武闘会で暴れまわった時とは比べ物にならない程のパワーアップを遂げており、
異能そのものの高い汎用性も相まってシド達はただ一方的に嬲り倒されるしかなかった。
唯一残されたエルは両膝の震えを堪えながら身構えている。
「なんデお前ヲ一番最後に残しテおいたカ解るか?エル……」
「さぁ…私が一番弱くて楽に殺せると思ったからじゃないの?」
「そレもアル。ダが一番の理由ハ…お前がオレヲ裏切ッたからだ!
アノ時お前が裏切リさえシナけレば、オレが負ケる事も無かッタのに!!」
「そうする動機を与えたのはそっちでしょ!!?逆恨みもいい加減にしなさいよ!!!」
「逆恨み?そンな言葉、俺は知ラない!!」
怒鳴りながら赤黒い炎を帯びた刃を飛ばすクドー。
刃がエルの頬を掠め、血が滴り落ちる。
更にクドーは無数の刃を放ち、エルの身体を切り刻んでいく。
噴き出す血。それに伴い薄れゆくエルの意識。
全身が血で染まり、足取りもおぼつかない彼女に
クドーは無慈悲にも赤黒い刃を心臓目掛け走らせ、息の根を止めようとする。
ところが、刃が突然爆発を起こしクドーと刃とを繋いでいた赤黒い糸が千切れた。
何事かと思い辺りを見回すクドー。
そして自身の右側に男女二人組が立っているのをクドーは見た。
黒髪の男と銀髪の女。間違いない。奴等は………!!
「貴様…!!」
「みんな…生きてる!?」
「うう…」
僅かに身じろぐシド達の姿を見て銀髪の女が安堵する。
「随分派手にやってくれたな、クドー…。
だがもう好きにはさせねぇ。お前を倒す為に、正義の味方が来たんだからな!!」
黒髪の男がクドーを指さし宣言する。
その姿にクドーは憤慨し、歯ぎしりをするのだった。




