第六十八話「竜人と抵抗と禁断の棺」
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ルスナより帰国して以降、コウは自分の部屋から一歩たりとも出なくなっていた。
食事も部屋の中で済ませリゼルやシャインが心配して様子を見に来ようとしてもコウ自身が部屋に入るのを拒否し続けるばかり。
まるで引きこもりになったかの様‐コウにしてみれば元に戻っただけだが。であった。
リゼル騎士団に出撃要請が来た時もコウは拒否した為仕方なくリゼルとコウを残し目的地へ向かう事にした。
リゼル騎士団の臨時の指揮官はシドが抜擢。
次なる目的地は、リザードマン達の暮らす小国『智龍の谷』。
マスター・リドの生まれ故郷でもあった。
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智龍の谷は周囲を険しい山々に囲まれ、路も石畳で舗装されている人間達の住む街とは異なり殆ど手が加えられず、
土をそのまま固めている程度であった。
家屋も殆ど聳える木々の上に建てられ、ここに住むリザードマン達の自然に対する考え方が感じ取れた。
「智龍の谷は二年前に一度訪れたんですが、ここの人達は旅人に凄く親切でしてね。
皆さんの事もきっと歓迎してくれる筈です。ルスナの様な事になっていない限りは」
見るとデストラの兵士が鞭を振るいながらリザードマン達に何か重たげな物を運ばせている。
典型的な重労働の光景だがまさか本当にやる輩がいるとはとシドは思った。
サブカル関係に疎いリゼルとは違いシドは幼少期には頻繁に城下や城内の図書室に出入りし様々な書物を読み漁っていた。
ルトヴァーニャや世界中の伝承を記した物から異世界より伝来したとされる多彩な絵の描かれた本まで。
1人旅に出た後も各地で様々な文献を読み漁りそれらを知識として吸収してきた。
知識も立派な力の1つだ。
風切り音を立てながら振るわれた鞭が土とリザードマン達の鱗を叩く。
鞭を打ち付けられるたびにリザードマンが苦悶し嗚咽する。
「ひどい…」
眼前で繰り広げられる惨状に思わずシャインが苦言する。
ツバキはそんなシャインの肩を軽く叩くと、
「デストラは、自分に逆らう事は許さないと言いたいのよきっと。
これと同じか、もっと酷い事が今や世界中で繰り広げられている…。」
シドはこみ上げてくる激しい怒りを必死に抑えながら、
「けど、一体何をやらせているんでしょう………。
何かを作らせている様な…」
その時だった。
「貴様ら何をやっている!!」
振り返るとデストラ兵の姿が。
デストラ兵はシド達の顔を見るや、
「その顔…貴様らがリゼル騎士団か!!」
どうやらスマホ太郎を倒しルスナを解放したと言う噂は予想よりも早くデストラ内に広まっていたようだ。
これでシドやルトヴァーニャに置いてきたコウは晴れて有名人の仲間入りである。やったね。
シドが背中に差したロッドを抜き構える。
対するデストラ兵は首から提げたホイッスルを吹き、仲間を呼ぶ。
ぞろぞろと足音を立てながらシド達を取り囲んでいく兵士達。
シド達は自ずと背中合わせになって身構える。
「殺さないでよ、今殺せば面倒な事になりかねないから」
シドの方を向かずツバキが苦言する。
「しませんよ。聞きたい事も色々あるし」
シドもまた、ツバキの方を見ずに苦笑する。
「…かかれ!!」
隊長格の号令と共に襲い掛かるデストラ兵。
剣が振り下ろされるより先にシドがロッドでデストラ兵の腹を突き飛ばす。
更に突き出したロッドを横薙ぎに振るい迫る兵士等を薙ぎ倒す。
ツバキも抜刀すると峰の部分で兵士達の首や脇腹、鎧で覆われていない部分を的確に、かつ骨を折らない程度に加減して叩いていく。
兵士等は首や腹など打たれた箇所を抑えながら倒れ伏す。
一方のシャインとシャッテは、
視界に入った兵士に片っ端から拘束魔法をかけていく。
四方から伸びたツタが兵士たちの手足を絡め取っていくが、数が多すぎる。
1人捕らえてもまた別の相手がツタを斬り拘束を解除する。
「キリが無い…」
「こうなったら、魔法でみんなふっ飛ばして…」
状況打破の為にシャッテが広域魔法でデストラ兵を吹き飛ばそうとしたその時、
何処かからともなく飛来した一本の矢がデストラ兵の首筋に突き刺さった。
「ッ!?」
「矢!?何処から…」
シドが言うより早く、矢の雨がデストラ兵達に殺到する。
見境なしではない。矢はデストラ兵のみを狙った物だ。
シドが矢の飛んできた方を見ると、そこにはボウガンや弓を構える屈強なリザードマン達の姿が。
彼等が非制式にデストラと戦闘を行っているレジスタンスである事はすぐに理解できた。
「各員、敵を牽制しつつ人質の救出にあたれ!!」
指揮官と思しきリザードマンのゲキと共にリザードマン達は各々に剣や斧を抜きデストラ兵目掛け突撃。
デストラ兵を攻撃すると同時に囚われていたリザードマン等を救出する。
「くそっ、またしても邪魔をするか…!やむを得ん撤退だ!!」
デストラ側の指揮官がそう言うや、デストラの兵士達は一目散に逃げだした。
リザードマン達もシド達も、逃げるデストラ兵達を追おうとはしなかった。
「どなたかは存じませんが、助かりました。」
シドはリザードマンの指揮官に深々とお辞儀をする。
するとツバキが、
「…もしかして、ジン・ハゥロン?」
「そういう貴方は…ツバキ・タカクラか?1人見慣れない顔がいる様だが……」
「あぁ、シド・ハーマン・ルトヴァーニャ。ルトヴァーニャの王女リゼル・ミァン・ルトヴァーニャは僕の姉です。」
「王女の弟…つまり王子か!肝心のリゼル王女と、小妻コウの姿が見えないようだが……」
「すみません。色々と事情がありまして…」
「話せば長くなりそうだな。ここで立ち話もなんだ。我々のアジトまで案内しよう」
こうしてシド達は、ジン・ハゥロンの指揮するレジスタンスのアジトへ向かう運びとなった。
顔見知りがいるとは言え初対面の相手にこれ程親切に接する所を見るに、
ルスナの時よりもすんなりと強力を仰げそうだとシドは確信していた。
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「誇り高きデストラの戦士が敵を前にして逃げかえるとは何事か!!!!」
智龍の谷の外れに設営された仮設テントの中1人の女性の怒鳴り声が響き渡る。
木々も静まりかえる真夜中、羽を休めていた鳥たちも驚き鳴き声を上げながらその場から飛び去って行く。
ジュリア・O・カーターは怒っていた。
抵抗勢力に報いる事無く逃げ帰ってきた自分の今の部下に。
そのせいで自分自身の目的が一向に成し遂げられずにいる現状に。
「しかし、敵の戦力はこちらより僅かに上回っており、その上リゼル騎士団と思しき集団も現れたとなれば…」
「言い訳すれば許してもらえるとでも思っているのか!!?」
「そ、そんなつもりは…」
「お前達は何も考えずただ私の指示だけに従っていれば良い!!余計な事は考えるな!!」
仮設テントの前で会話を聞いていた兵士はやれやれと言わんばかりに肩をすくめるが、ジュリアは歯牙にもかけない。
「だいたいリゼル騎士団など小妻コウとか言う異界人以外取るに足らぬ存在ではないか…。」
ジュリアはリゼル騎士団を過小評価していた。
ジュリアはコウとリゼル以外の騎士団員とは面識がなく、その実力も把握しきっていない。
当然、シャインとシャッテの親がデストラでは名を知らぬものがいないとされる程著名な魔術師である事も知らなかった。
デストラで生まれ育っていないが故の無知である。
「何がなんでも抵抗勢力を退け、私の忠誠の証を完成させなければ私の立場が無い…。
これ以上戦局が悪化する様であれば、本国から持ち出した切り札を使う他あるまいて…。」
仮設テントの片隅に置かれた棺を見やりながらジュリアが言う。
その棺には、カザン語でこう書いてあった。
『危険!絶対に開けるなかれ』
棺がガタガタと揺れ、中から獣の様な唸り声が木霊するが、
棺の中に何者が眠っているのかをジュリアは知らずにいた。




