第六十七話「さらば!地獄と呼ばれた地よ」
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「報告します。ルスナに駐留している部隊が抵抗勢力と交戦…
結果、我が軍はルスナから撤退。…我が軍の敗北です」
デストラ大統領府。
現大統領アルバスを前にマサツグは膝をつき、頭を垂れて戦況報告を行っていた。
前の大統領マウザンディアが遺した血痕は綺麗に拭き取られ、もう影も形も無い。
アルバスは冷徹な視線を正嗣に向けながら、
「…須磨豊太郎はどうした?あの部隊には豊太郎がいた筈だが」
「死にました…。戦死です」
「そうか」
アルバスは無関心に応える。
仲間が死に、僅かながら戦況が悪化したにも関わらずこの対応。
マサツグは、アルバスに不信感を抱かずにはいられなかった。
「…どうしますか?ルスナの奪回作戦を展開する手筈も整えますが」
「捨ておけ。戦略的にはさほど重要ではない地だ」
執務机に置かれた電話が鳴る。
アルバスは受話器を取り、
「俺だ。…あぁ。あぁ……ダメだ。援軍を送る事は出来ない。
それくらい自分で何とかしろ」
再び受話器を戻すとアルバスは頬杖をつき、
「…全く、奴は創意工夫も知らんのか」
「どの区からですか?」
「マキと入れ替わりで竜人の里の担当になったジュリアからだよ。
リザードマン共の抵抗が予想以上に激しく苦戦してるから、援軍をよこせと言ってきてな…」
竜人の里の制圧を担当したのはマキ・キョウイチと言う転生者で、
相手の闘志を奪う異能を用い竜人の里のリザードマンを瞬く間に無力化し無血開城した実績がある。
だが制圧後の治安維持を面倒くさがった為管理役を買って出たジュリア・O・カーターと入れ替わりで
別の区画へ赴いたのだが、問題はジュリアの指揮能力にあった。
敵の戦力を知ろうともせず無謀な突撃を繰り返し不必要に戦力を損耗し、
部下からも苦情が相次いでいるが、ジュリアは何が原因なのか理解すらしていなかった。
ジュリアの無能さはマサツグも熟知していた。
故にアルバスが苦言するのも頷ける。
「彼女は兵力が有限だと言う事に気づいてない。
ハッキリ言ってやった方が…」
「言ったさ。まるでジャンヌ・ダルクだと。
状況も弁えず自分勝手に突っ込んで墓穴を掘った馬鹿女と言う意味で言ったんだが…誉め言葉と勘違いされた」
「そりゃそうでしょう。ジャンヌ・ダルクをバカ女だと思っているのはアンタくらいな物さ。
普通の人間にジャンヌ・ダルクの様だと言えば褒められてると解釈されるのが普通だ」
「普通じゃないだろ。あいつの能の無さは」
ジュリアが戦いに向いていない事は最初の侵攻の時に解っていた。
だが彼女がやらせろと言ってきた指揮すらも向いてないのは流石に想定外であった。
ジュリアの無謀さがこちらに甚大な被害をもたらす前に処刑する事も検討するか、とアルバスは考える。
それこそ、ジャンヌ・ダルクの最期の様に。
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ルスナの首都バグダダは人々の歓声に包まれていた。
首都陥落後人々を苦しめてきた神帝、須磨豊太郎が斃れた為だ。
町には笑顔が溢れ、人々は平和をもたらしたリゼル騎士団に感謝の意を表するが、
彼等は早々にルスナを離れなくてはならなかった。
「本当に、行ってしまうんですか?」
バーテンダーが問うとリゼルが、
「はい。ルスナを奪回すると言う目的が果たされた以上、長居する理由は無いし、
それに私達がここにいると皆さんにも危険が及びかねないので…この方が良いんです」
「彼は…?神帝を倒した…」
「コウですか?彼ならまだバグダダにいる筈ですが…誰か見てない?」
「酒場で項垂れてるのは見たけど…今はそっとしておいた方が良いかもね」
ツバキが肩をすくめながら言う。
「彼…どうかしたんですか?」
「神帝にトドメを刺したは良いんだけど、人の命を奪う事に全く慣れてないみたいで…」
「そう、なんですか…。では彼に伝えておいて下さい。
マフリヤールもきっと、貴方に感謝していると」
「覚えておきます。」
リゼルは深くお辞儀をすると踵を返し、コウのいると思しき酒場を探し始めた。
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バグダダにある酒場『千夜一夜』のバーカウンターにコウは突っ伏していた。
傍らには無数の瓶と皿。自棄食いである。
ルスナを救った功績から代金は不要と店主は言ったが、問題はその量。
明らかに人一人が一日に食べる量を越えていた。
「お客さん、そろそろやめといた方が…」
「こっちは色々事情があるんだ…。食わずにはいられない」
コウが店主とその様な話をしていると、酒場のドアが開かれ、備え付けられたベルがカラカラと音を立て誰かが店の中に入ってきた。
その誰かは軽快かつ悠然とした足取りでバーカウンターまで歩くと、コウの隣の椅子に腰かける。
「よっ」
テリブル・デッドだった。
彼は神帝の、須磨豊太郎の攻撃を受け確かに絶命した。
だが彼の異能は、彼の『死』を決して許さず蘇らせる。
絶対に死なない。単純だがそれ故強力な異能と言えよう。
テリブル・デッドはウィスキーを一本注文すると、
覆面を半分だけずらし、差し出されたグラスを一口煽る。
「……浮かねぇ顔だな勇者さんよ。この街は、いやこの国はお前が救ったんだぜ?」
「…神帝は、須磨豊太郎はルスナの人々を苦しめてきた極悪人。
話し合いが通じない以上倒すしかない奴だった………。
なのに、いざ倒した…殺したとなると、手の震えが止まらないんだ………!!」
「新兵特有の恐怖心だな。慣れろとしか言いようがない」
覆面を戻しながらピシャリと告げるテリブル・デッド。
コウは跳ねる様に立ち上がりながら、
「随分簡単に言ってくれる!俺はアンタみたいに殺して飯を食べている傭兵や殺し屋とは訳が違うんだ!!
ほんの数ヶ月前まではただの高校生だったんだぞ!!?」
引きこもり気味の、とコウは胸中で付け加えた。
対するテリブル・デッドも負けじと、
「だが今は違う。武器を持って戦場に立っている以上お前は戦士だ!
お前の都合も事情も誰も汲んじゃくれない!死にたくないなら戦え!!
相手の首噛みちぎってでも生きてやろうと言う意地を見せろ!!」
「…またそうやって。全ての人間がアンタみたいに簡単に割り切れる訳じゃないんだ。
そうやって偉ぶって説教するのはやめてくれ………」
「……思ってたより意気地のない奴だな。
連れが今のお前見たら、さぞ幻滅する事だろうよ」
半ば辟易した様子で再び覆面をずらし、ウィスキーを飲み干すと、
テリブル・デッドは立ち上がりその場を後にする。
「………アンタは何も怖くないのかよ…!殺すのも、殺されるのも……」
コウは扉の方を見ず、いなくなったテリブル・デッドに苦言した。
他者ノ死ナド恐レルナ。怒リニ身ヲ委ネロ。
破壊ト殺戮ノ快楽ヲ知レ。
ふとその様な声がコウの頭に響く。
空耳だろうと思い、コウは深く考えない事にした。
その後バグダダでルスナの解放を記念した祝勝会が開かれ、
リゼル騎士団もそれに参加する事になった。
かつての辛辣な対応を詫び、人々はリゼル騎士団を労ったが、
如何なる御馳走も、余興も、コウの沈み切った心を満たす事は出来なかった。
クドーの時は平気だったのに、なんで…。
言葉では覚悟を決めたつもりだったのにいざ実行するとなると
途端に恐怖と罪悪感に苛まれる。
コウはそんな自分が嫌になってきた。
ルスナでの戦いはこれで終わり、
次回から新展開に突入します。
乞うご期待!!




