第六十六話「悪鬼よ眠れ!今こそ決着の時」
『閃斧ガラハッド…山をも削り落とす破壊力を持った斧……。
まさか奴を選ぶとはな』
閃斧を構える豊太郎を目の当たりにした聖剣がコウの頭に語り掛ける。
『手の打ちようはあるのか?』
『私の力で魔法は防げても異能と言う力は防げないから、
仲間と力を合わせるしかないな』
『らしくないアドバイスだな』
『来るぞ』
豊太郎が閃斧を振り上げた瞬間、衝撃が地を抉り空を切る。
コウは聖剣を構え衝撃波を防ぐも、衝撃波は二方へ拡散し家屋二棟を破壊する。
「振りかぶっただけでこれか…!ヤバいだろ」
「なーに、振り回すのを止めれば良い!!」
言ってテリブル・デッドが2、3発発砲。
豊太郎の斧を握る右腕を銃弾が貫く。
「ッ!!よくも俺に傷付けやがったな……テリブル・デッド!発砲中止!!」
しかし何も起こらず、テリブル・デッドは依然発砲を続ける。
「何も起こらないな…。テリブル・デッド、何でか解るか?」
コウが問うと、テリブル・デッドは弾切れになった銃をリロードしながら、
「そりゃあれだ。俺アイツに本名教えてないから。以外に考え得る線は無い」
「本名を知らない相手には命令できない、か…。」
「チッ…。やはり通り名じゃダメか………。だが打つ手が無い訳ではない。
シャイン、シャッテ!こうそ……」
豊太郎がシャインとシャッテに命令を下そうとした瞬間、
豊太郎の声がかき消える。
「……!?………!!」
事態が呑み込めず、口をパクパクさせる豊太郎。
後ろを向くと両掌を豊太郎の方へ向けるシャッテの姿。
「ナイスタイミングだ!シャッテ!!」
親指を立て称賛するコウ。
シャッテが使った魔法の名は沈黙。
対象の周囲の空気の振動、すなわち音の根源を抑える事で
特定の範囲のみを無音にする風の魔法。
アーサレナの魔法は無詠唱での発動がデフォルトとなっている現在では
詠唱妨害としてではなく物音を立てず目的地へ忍び込む、隠密目的での使用が主となっている魔法だ。
「この魔法は自分以外に使った時は10秒で解ける!早く!!」
「解った!!」
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バーテンダーとテリブル・デッドが濡れ衣を着せられ処刑される事となり、
処刑場となるバグダダへ向かう途中、コウ達リゼル騎士団は歩きながら作戦を練っていた。
主題となるのは、豊太郎の異能対策。
「2人を助けるにしても、ルスナ解放にしても、あの異能を何とかしない限り私達に勝機は無いわ」
リゼルの言うとおりである。
実際あの異能にコウは一度敗れ去り、捕らえられる羽目になっていた。
同じ失敗は絶対に繰り返せない。
「そうだ。奴の異能は相手を命令した通りに操ると言う物で、
一見強力無比で弱点は存在しない様に見えるが、実はそうじゃない」
「どういう事?」とツバキが問う?
「連中に捕らえられていた時俺は奴の異能に対しある違和感を覚えていた。
1つ、何故騎士団全員ではなく俺にだけ命令をしたか。
2つ、その気になれば俺の命を奪う事は容易かった筈なのにそれをしなかったのは何故か。
3つ、そもそもあれ程強力な異能を持ちながら何故アルバスに従っているのか。」
「そうか!本当に命令するがまま操れるのならアルバスに代わってエタニティの支配者になっている筈だし、
私達も命令1つで全滅させられていた!
なのに今こうして生きてるって事は…!!」
「命令は一人ずつにしか出来ず、相手を死に至らしめる命令も下すには条件が必要。」
それこそがコウの見抜いた豊太郎の異能の弱点。
的外れかも知れないが、今はこの弱点を突く事にかけるしかない。
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「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
沈黙を続ける豊太郎目掛け聖剣を振りかぶるコウ。
狙うは左胸、心臓だ!!
「南無三宝!!」
鎮魂の言葉と共に振り下ろされる聖剣。
だが聖剣は豊太郎を切り裂く事無く、豊太郎の左胸で硬い物に当たった。
「!?これは‥‥‥‥!!」
そして、沈黙のタイムリミット!!
「無駄だ~!!死ねぇ!!!」
豊太郎は嗤い、閃斧の柄を叩きつけ一度距離を開けると、一直線に閃斧を振り下ろす。
コウは聖剣で閃斧の斬撃を防ぐも、衝撃波は防ぎきれない!
出血し膝をつくコウに豊太郎は、
「どれだけ策を弄しようと所詮虫けらの叛逆……。小妻コウ、拘束!!」
再び動きを止められるコウ!
「そこでお前の仲間が辱めを受け、惨たらしく死んでいくのを指をくわえて見ていろ!!
リゼル・ミァン・ルトヴァーニャッ拘束!」
リゼルが動きを止められ、
「ツバキ・タカクラ!エル・ジンジア!拘束!!」
ツバキも動きを止められる!!
「ババァ共は後回しだ。今優先しなければならないのは…シャッテ・バルバァァァァァ!!!!」
豊太郎の怒号にシャッテは驚き竦みあがる。
言い知れぬ恐怖に駆られ逃げる事も叫ぶ事も出来ない!
「言葉のままに相手を操る力なら、言葉を消せば良いと言う着眼点に気づいた事は褒めてやろう。
だが!だからこそ俺は君を許す事が出来ない。だからこそ俺は君をお仕置きしなければならない」
豊太郎はシャッテを強引に押し倒すと、シャッテの両頬を掴み上げる。
「ッのっクソったれぇ!!」
何をしようとしているのか察してかテリブル・デッドは銃口を豊太郎の頭に向けるが、
シャッテとの距離が近すぎる為撃つ事が出来ず、逆に豊太郎の閃斧による一撃を受ける羽目となった。
胸から鮮血を噴き出し、仰向けに倒れるテリブル・デッド。
「テリブル・デッド!!」コウが僅かに動く首を巡らせながら叫ぶ。
「ちっ…くしょぉぉ……ッ!女に…面と向かって……ババァと言う奴…は………嫌われっ…ぞ………」
テリブル・デッドは屈辱に嗚咽し、豊太郎を見やり中指を立てると、
中指を立てた左手がパタリと力なく倒れ、テリブル・デッドは力尽きた。
「これで邪魔者はいなくなった。さぁ、お仕置きを再開しようか」
豊太郎はシャッテの腹を殴った。
嘆息を漏らし悶えるシャッテ。
吐き出された唾液を舐め取ると、豊太郎は唇の端を吊り上げて嗤う。
その様子にシャッテは再び戦慄し、涙を流す。
「ククク、良い表情だぁ…。恐怖に震える時の表情は実に美しい。」
「ッッ…!!」
シャッテの、双子の妹の危機にシャインは手を出せずにいた。
自分が出て行けば確かにシャッテは傷つけられずに済むだろう。
だがそうすれば今度は自分の身が危うくなる。
一方だけ助かっても意味がない。両方助けなければならないが、どうすれば…。
「やめろ…!!」
コウが豊太郎を睨み、もがく。
豊太郎はコウの姿を嘲笑しながら、
「死にぞこないの懇願など聞き入れる価値はない。
それに言った筈だ。お前の仲間が辱めを受け、惨たらしく死んでいくのを見ていろと」
「や…めぇ………ろぉぉぉぉぉぉぉ‥‥‥‥‥!!!!」
コウの呻きと共に、不思議な事が起こった。
豊太郎の『命令』により拘束されていた筈のコウの体が、何かの砕け散る音と共に動き出し、
コウは流血しながらもその二本の脚で再び立ち上がったのだ!!
「な…?何ィィィ!?まさか貴様ッ、俺の『命令』を、自分の精神力だけで打ち破ったと言うのか!!!?」
「うおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」
コウは一瞬の内に豊太郎とシャッテの間に割って入り、豊太郎の左胸に『ある物』を衣服の一部ごと奪い取った。
それはスマートフォン。豊太郎は左胸にスマートフォンを忍ばせており、
それが聖剣とぶつかり左胸への斬撃を食い止めたのだ。
「これが貴様の異能の正体…。
貴様は命令のまま人を操るのではなく、このスマホに入力した音声がそのまま現実になっていたんだ!」
「返せ…!今すぐそれを返せ!!俺のスマホだぞ!!」
コウの手に握られたスマートフォンに手を伸ばす豊太郎。
だがコウは、
「返したところで、結局自分の為以外に使う気は無いんだろうが…!!」
怒りのままに豊太郎のスマートフォンを握りつぶした。
同時に、リゼル達の拘束が解け自由の身となる。
スマートフォンは金属部品を使用している故圧壊させるには500kg以上と言う常人を遥かに凌駕する握力を必要とするが、
数多の死線を潜り抜けてきた今のコウには不可能な芸当では無かった。
「あああ……あああああああああああああああああああ!!!!!!!!!
スマホが!俺のスマホがぁぁぁ!!命の次に大事なスマホがぁ!!!!!
なんて酷い事をするんだぁぁ!!!!」
「散々人に酷い事しといてよく言う」
力の源たるスマートフォンを壊され取り乱す豊太郎にコウは冷徹な言葉を投げかける。
この男一人の為にマフリヤールを初め多くの子供達が犠牲になったと考えれば、可哀想だと思う方が無理な話であった。
コウがシャッテの方を見やると、シャッテはコウに「やっちまえ」と目配せする。
リゼル、ツバキ、エル、シャインも同様だ。
「許して欲しいか?」
「そ、そうだ。助けてくれ…!」
「許しはお前が殺してきた人たちに請え。俺達は!」
コウが聖剣を横薙ぎに振るう!
切り裂かれ鮮血を噴き出す豊太郎!!
「初めから許すつもりなど!」
コウが聖剣を斜めに振るう!
切り裂かれ鮮血を噴き出して倒れる豊太郎!!
「…無い!!」
コウが聖剣を逆手に返し豊太郎の胸を突き刺す!
「ブフゥゥ……ッッ!!!」
両手足をビクリと痙攣させる豊太郎。
聖剣を介し、コウは目の前に広がる死を感じ取り、双眸を見開いた。
「!!?」
クドーの時と同じく、生かしてはおけない相手。
だがコウの両手は、身体は震えていた。
「どうした…?最初から殺す気でいたんじゃなかったのか……?
殺したい相手が死んだんだぞ…!お前の手で死んだんだぞ…!?
嗤えよ……!ざまぁみろって…言いながら……嗤えよ………!!」
そう言い、唇の端を吊り上げ邪悪な笑みを浮かべたまま、豊太郎はこと切れた。
コウは震える両手で聖剣を豊太郎の体から引き抜き、
「嗤える訳ねぇだろ…!悪党だとしても、目の前で人が死んでるのに嗤える訳ねぇだろ!!!!」
コウの目頭からは涙が流れていた。
何故なのかは解らない。殺してしまった事を悔いて泣いてるのか、殺すしか無かった事を嘆いているのか…。
コウはただ声も上げず涙を流し続け、リゼル達もそれをただ見守る事しかできなかった。




