第六十四話「覚悟しろ須磨豊太郎!いよいよ神帝との決戦の時」
「コウ…!コウッ……!!」
穏やかで、柔らかい女性の声が聞こえる。
自分は死んだのか、この声は天から迎えにきた者の声か?
コウは思考を巡らすよりも先に、目を開けた。
土色どころか、土そのものな天井。
自分の顔を覗き込む仲間たちの姿がそこにあった。
「良かった…目が覚めたのね」
安堵の声を上げて微笑むリゼル。
他の仲間たちもホッと胸を撫で下ろしている。
「俺…まだ生きてるみたいだな」
コウが胸に手を当てると、包帯が手足や胸、腹に巻かれている事に気が付いた。
「これは、みんながやってくれたのか?」
「違うわ。私たちがコウを見つけた時には既に…」
「リゼル達以外に、俺を助けてくれた誰かがいるのか…。一体誰が?」
「解らない…。誰が何の為にコウを助けたのか見当もつかない……」
「俺達以外にも、デストラと戦う者が少なからずいると言う訳か。
それこそ、マフリヤールの様に………」
「彼女が、どうかしたの…?」
「俺を…俺の命を守る為に、神帝軍の追手を巻き添えに……クッ!!」
コウはマフリヤールがその身を犠牲にした瞬間を思い出し、歯噛みした。
「コウ、貴方のせいじゃないわ…。」
リゼルの慰めの言葉が今のコウには辛く感じた。
自分が悪いんじゃない事くらい解ってる。
だがだからこそいたたまれない事もある。
憎むべきは神帝、須磨豊太郎だ。
やつがいる限り、同じ哀しみが永遠に繰り返される事となる。
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「逃~げられた~逃げられた~♪だ~れ~の~せいなのっかな~?
死~んじゃった~死んじゃった~♪ど~い~う~つもりかな~?」
鼻歌と軽やかなステップを交えつつテリブル・デッドの周囲をグルグル回る豊太郎の姿があった。
口調はあざけているが目は微塵も笑ってはいない。些細なきっかけで癇癪を起こし凄惨な仕打ちをしかねない怒りの目。
原因は、一昨日のコウの脱走と追撃隊の全滅。
脱走を手助けしたのがマフリヤールと言う少女であった事は既にテリブル・デッドから聞いているが、
何故コウを連れ出すのを止めなかったのか。何故捕まえようとしなかったのかが豊太郎には解らなかった。
テリブル・デッドは動じた様子を見せてない。いつも通りの余裕を持って肩をすくめると、
「別に。ただ子供を撃つと寝つきが悪くてな。俺はブスとアバズレは撃つが子供は撃たない主義なんだ」
「だったら撃たないなりに逃げるのを阻止するやり口は幾らでもあった筈だ。何故逃がした」
「彼女がお前の歯並びが悪くて口臭が酷いのが嫌だってごねてな。」
豊太郎がテリブル・デッドの左頬を殴る。
「なんならお前を殺して二度とその減らず口を叩けないようにしても良いんだぞ?」
「出来る事ならそうして欲しいがお前に殺されるのは嫌だなぁ。
お前だってモブキャラAが適当に撃った弾に当たって死ぬよりはメインキャラと激しいバトル繰り広げてからトドメ刺されたいだろ?」
「俺は殺される事自体御免だね。レイモンド!」
「はっ!」
豊太郎に呼ばれた、細身の体躯の男が頭を垂れる。
「あのマフリヤールと言う子を匿ってた店があったらしいな?
そこの責任者を見つけ出せ!!」
「ちょい待ち。そいつ絶対関係ないと思うぞ」
「連帯責任と言う奴だよ。あの自称勇者が逃げる原因を作ったマフリヤールが死んで責任逃れをしたのなら、
その保護者に責任を取ってもらわないと気が済まない。単純な話だろ?」
「罪状はどうすんだよ罪状は」
「不敬罪、国家反逆罪、労働基準法違反…。でっち上げようと思えばいくらでも作り出せるぞ。
俺は神帝。皇帝よりも神よりも偉いのだからな」
自分が言えた口では無いがイカれてる。
こんな奴が今のルスナのトップだなんて、とテリブル・デッドは考える。
そもそもこいつが内政をやっているのを見た事がない。
ただ部下を使い拉致して来た子供をこき使ってるだけだ。
しかも子供をこき使ってまで何を作らせてるのかと思いきや自分自身の黄金像だと言うのだから呆れて物も言えない。
元々テリブル・デッドは豊太郎に忠誠など尽くしていない。
ただ金が貰えるから仕事を請けおっているだけだ。
一応は報酬3000万サイタマアルバ─ルトヴァーニャ通貨にして30万アルバを貰っているので
これ以上豊太郎の下につく理由も無いか。
「本当に神がいたらキレそうなセリフだな。ある意味尊敬するぜ、その傲岸不遜振りは」
豊太郎が指を鳴らすと衛兵がテリブル・デッドを取り囲み、両腕を掴んで取り押さえた。
「お前も不敬罪に処した方が良いらしいな」
「俺なんかお前の頭にくるような事言ったか?」
「俺に意見した。そして態度が悪い。お前を裁く理由などそれで十分だ」
「今更すぎんだろ。むしろ今まで我慢できたのが不思議だよ」
拘束された状態のまま衛兵に連れて行かれるテリブル・デッド。
彼は去り際に、
「こんな事延々繰り返してたらその内お前ぼっちになるぞー!って元からぼっちかー!!」
そんなテリブル・デッドの捨て台詞は豊太郎に耳には届かなかった。
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洞穴の出入口に矢が一本突き刺さりシドはギョッとした。
「敵襲!?ここに僕たちが隠れてる事、バレたんですか…?」
「いや違うな…。」
コウが矢を引き抜くと、巻きついた紙を外し、広げてみせる。
「手紙、ですか?」
「矢文だ。差出人は…エルか。」
電子メールが普及しつつあるアーサレナにおいても矢文は過去の遺物と化して久しいが、
連絡の痕跡を辿られにくいと言う利点があった。
今の様な隠密活動中は、こういうアナログな通信手段の方が良い時もある。
「………」
「何が書いてあるの?」
シャインが問う。
「マフリヤールを保護していた、酒場の人が捕らえられた。
不遜な態度を取ったとして不敬罪に処されたテリブル・デッド共々、公開処刑される予定だって」
矢文の内容を説明するコウに一同は激しく動揺する。
「彼が何をしたと言うの……!?」リゼルは嘆き、
「見せしめだとしても理不尽すぎる!」シャインは驕り、
「と言うかただの八つ当たり」シャッテは毒づき、
「民主主義は何処行ったのよ…」ツバキが苦言し、
「こんな事、許せるんですかコウさんは!?」シドがコウに問う。
「許せる訳がないだろう。散々スマホにはムカつく真似されてきたが、もう我慢ならん。
ここで潰すぞ」
「でも、あいつの異能への対抗策は?あいつの命令1つで私達は…」
「確かに奴の異能は脅威だ。だが最初に対峙した時全滅しなかった事を考えると、決して万能で無い事は明白。
やりようはある筈だ。行こう!」
そう言って皆を半ば強引に納得させると装備を整え洞穴を後にする。
これから先、もう洞穴に戻る事は無いだろう。
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ルスナの首都バグダダの中心に位置する大広場に、巨大な十字架が二つ立てかけられていた。
十字架には二人の男が磔にされている。1人はマフリヤールを保護していたバー「アルババ」のバーテンダー兼主人。
もう1人は傭兵テリブル・デッド。
2人と2人を縛りつける十字架を取り囲む様に死刑執行人十数名が立ち、
十字架の後ろ側には衛兵数名を据え玉座に座る須磨豊太郎。
更に円形の大広場の円周に沿う様に町の人達が野次馬となり立っていた。
「諸君!!この男達は神帝の意に従わなかったばかりか、不敬な態度を取り続け神帝を冒涜した大罪人である!!
この者達の身を神聖なる炎で焼き、灰塵と化した時、その魂は浄化され神帝の使徒として再びこの世に生を受けるであろう!!!」
執行人の1人が芝居がかった仰々しい口調でこの非人道的行為の正当性を説く。
しかし執行人の言葉を真剣に聞く者はいない。
かと言って捕らえられた2人を助けようとする者もいない。
情も慈愛も捨て去った、氷か夜の砂漠の砂の様な冷たさがバグダダの人々にはあった。
執行人は磔のまま動けないテリブル・デッドの顔を見据えると、
「罪人!最後に言い残す事は!?」
「お前歯並びクソ悪いから喋る時歯見せないで喋ってくれる?」
「チッ!」
執行人は舌打ちし、バーテンダーの方を見やると、
「そっちのお前は!?」
「…私はもうじきマフリヤールの所へ逝くだろう。だが神帝にこれだけは言っておく!
人々の意思をこうやって力でねじ伏せる様なやり方を続ければ、いずれより大きな力の前に滅ぼされる。
それはいつの世も、どの国であっても変わりはない‥‥‥!!」
すると豊太郎が立ち上がり拍手する。
「素晴らしいご高説をどうもありがとう。
だが周りをよーく見てみたまえ。皆俺より大きな力が無ければ抗おうとする意志も無い。
皆非力で自己中心的で傲慢な大衆どもばかりでないか。その様な輩がどうやって俺を滅ぼそうと言うんだ?」
「………」
「火を放て」
豊太郎の指示でバーテンダーとテリブル・デッドの足元に油が撒かれ、火が放たれる。
瞬く間に火は激しい炎となって燃え上がり、足先から二人の身を焼かんとする、その時だった。
突然突風が巻き起こり、炎を一瞬にしてかき消した。
「!?なんだ…」
「火が!!」
「確かにこの国の人達は無責任だし、自分が助かる事しか頭に無くて力の無さを後ろ盾にしてすぐ人を罵りたがる。
控えめに言ってクズみたいな連中ばっかりだ」
何処かから響き渡る声。
歯に衣着せぬその内容に町の人々は「何だと!?」「何様のつもりだ」と怒りを露わにする。
「だがな!」
彼方から飛来するブーメランがバーテンダーを縛る鎖を一気に断ち切った。
「それでもお前に比べればまだマシだ。」
「誰だ!姿を見せろ!!」
姿を見せない声の主に苛立つ豊太郎。
執行人の一人が驚き、大広場近くの時計塔を指差した。
時計塔の上に並び立つ七つの人影。
「貴様は……!」
「ルスナの自由を取り戻す為、デストラの支配から人々を守る為、
リゼル騎士団、ただいま参上」




